7, あいつはうるさい
巣立ちから一カ月。
暗くなると、リリィはリエル皇子の部屋の窓をつつく。
コツコツコツ。
窓を開けてリリィを招き入れるリエル皇子。 リリィはテーブルの皿のくるみをつつく。リリィは今やリエル皇子の最大の癒しだ。
皇子は紅茶、リリィはくるみで、小さなお茶会を開くことが就寝前のルーティンとなっている。
ーーオウジサマの美しい顔とくるみで一日の最後を締めくくる。はあ、眼福、満腹、幸福。
「今日はキリアンと遊んだんだよ。」
「将来は、クレオ閣下みたいな騎士になりたい」
「リリィはお友達できた?」
リエル皇子が一方的に話しかける度、リリィはピィピィと返事をする。
まるで、一人と一羽が会話をしているようだ。
専属メイドのアリサはその光景を見つめながら、リエルの明るい表情が増えたことに安堵していた。
「ピィッッ!?」
「どうしたの? リリィ」
ーー今、殺気を感じた⋯⋯誰?
部屋の内外には、専属メイドのアリサと護衛一人メイド一人がいる。
アリサは明日の皇子の平服の用意している。
護衛は部屋の外で任務にあたっている。
メイドはロウソクをつけて部屋を明るくしていた。
ーーこの3人のうち誰かの殺気だと思うけど⋯⋯わからない。
「リリィ、ほら、リンゴ食べる?」
ーーリエルオウジサマは気づかないの?
そんな疑問をもちながらもリリィはリンゴの甘い誘惑に負ける。
「おいしい?」
そう語りかけながら、指でリリィの頭をなでるリエル。
そんなリエルを見つめながら、リリィは思う。
ーー人間って噂通り鈍い。これはいつかリエルオウジサマは殺されてしまう。
雛の時から、人間の殺気は感じていた。
これは本能。野生動物がもつ能力。
誰かはわからないが、その「殺気」がリリィの体を何度も震わせる。
しかし、リエル皇子も他の人間も気づかない。
翼がないかわりに人間は手があるけれど⋯⋯気配を感じる能力も低い。
ーー私がリエルオウジサマを守るしかないか⋯⋯。
どうすればいい?
※ ※ ※
シュバルツ家邸宅。
レオンとキリアンはダイニングで食事をとりながら、今後の予定を報告しあっていた。
「一週間後、イマーラル孤児院に視察に行ってくるよ。」
「孤児院に? 僕も行きたい!」
「いや、キリアンはここにいなさい。騎士としての素質がある子供にチャンスを与えるための視察だ。私はスカウトしにいくのだから」
「行きたかったなぁ⋯⋯」
「もしこの屋敷に子供が来たら、優しくするんだよ」
「わーー、楽しみ! 友達になりたい!」
キリアンははしゃいでいるが、レオンは複雑な心境だった。
貴族が孤児を引き取る場合、ほぼ使用人として連れ帰る。
もし騎士として素質があれば育て上げ、戦場では最前線に送られる。
それでもマシな人生だ。
決して、侯爵家の一人息子と「友達」になることはない。
しかし、レオンはできるだけ能力のある子供を救ってやりたかったのだ。
そして、そんな親子の会話の様子を、窓の外から一羽のピンク色の小鳥が見つめていた。
※ ※ ※
ある夜、リリィはリエル皇子の部屋に設置された専用の止まり木で眠っていた。
リエル皇子もベッドで就寝中。
全てが静寂し、風が木々を揺らし、満月だけがうっすらと空を漂っている。
ーーピィッ?!
人間の異様な殺意。
窓の外からだ。
リリィはそれを確認したいが窓は閉まっている。
ふと、窓の鍵を見ると施錠していなかった。
ーーえ? 私が、夕方窓から入った後、いつも誰かが施錠するのに。今日、忘れたの?
とりあえず、殺気に気づかない人間達のために、リリィは鳴き叫ぶ。
ーーみんな起きて! 外に悪いやつがいるわ! 起きなさい!
警報級の鳴き声でリリィは狂ったように鳴く。
ゆっくりとリエルは目をこすりだした。
「⋯⋯どうしたの? ⋯⋯リリィ。夜は静かにしなきゃあ」
寝ぼけながら起き出したリエルは、リリィをなだめた。
「なんだ? 鳥が騒ぎ出した、これは中止だな、やれやれ」
リエルの部屋の窓の下の園庭で、しゃがんでいた男がつぶやいた。
そして、背後に月に照らされた人影に気づく。
後ろを振り向くとーー
「あ? なんだ、お前?!」
同時に人肌を切り裂く鈍い音。
一瞬でその男は前のめりに倒れ込み、二度と動くことはなかった。
目は見開き、口は大きく開いたまま。
首から血が大量に流れ、衣服と芝生をその赤で汚す。
モモイロノトリの鳴き声がやまない。
ろうそくが灯され、その窓だけがぼんやりと明るくなった。
「⋯⋯はあ、あいつはうるさいなぁ」
その影は、そうつぶやいて、ゆっくり闇に消えていった。
翌朝。
アリサに起こされるリエル。
「大変です! また身元不明の男性が園庭で死亡しました! 今日は部屋からは出ないよう陛下からのご命令です!」
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