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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉


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5/9

5.女の子しかいらない侯爵家

 皇帝テオの執務室。

 キリアンがリエル皇子と遊んでいる間。

 レオンは皇帝テオに先日の殺人事件の調査報告をしていた。


「被害者の身元はまだ判明しません。他国の者なら、時間がもう少しかかると思われます。」

「そうだろうな。致し方ない」

「それに加えて、リエル殿下の護衛騎士の一人ナーバルが消息不明です。関連を調べています。」


 レオンのその報告を受けた後、テオは少し目を伏せた。


「彼は⋯⋯北の辺境地リバルヴェに急遽赴任させた」


 言葉がすぐに出ず、戸惑うレオン。


 ーーなんだって? 皇帝陛下自ら急に異動命令を?


「なぜですか? 彼が何かしましたか?」

「本人の強い希望があった。それだけだ。」

「しかし」

「何か異議があるのか?」


 皇帝のテオはいつもは温厚な人柄だが、急に強い命令口調に変化した。

 思わず、レオンは謝罪の言葉を述べる。


「申し訳ございません。もちろん異議はございません。」

「もうこの事件の調査はここまでにしよう。他国の者となれば調査に時間もかかる。とりあえず、皆無事なのだから」

「⋯⋯それで良いのですか?」

「それで良い。君も忙しいだろう」

「かしこまりました。」


 ーーまただ。皇居内の事件なのに、さっさと調査を打ち切られる。何故だ? 疑いたくないが、陛下が関わっているのか?


「ところで、キリアンは元気か?」


 レオンはいつもの陛下の声色に戻り安堵する。


「はい、今もリエル殿下の部屋で、一緒に遊んでいますよ」

「そうか⋯⋯リエルと」


 一瞬。

 テオ皇帝が父親の顔を見せた。


「シュバルツ家の皆には、リエルが世話になっている。あまり触れたくなかったが⋯⋯ナーシャ夫人のことは気の毒だった。彼女にもリエルは世話になっていたから」


 レオンは、亡きナーシャの話題が出ることは想定していた。次に問われることがわかりきっているから。


「東帝国の統率者として、言わなくてはならない。また心動かされる令嬢がいれば、再婚も考えてほしい。」


 またか。


 レオンは、予想通りの要望にうなだれそうになる。


「シュバルツ侯爵家の婚姻は、皇家にとっては重大な問題だ。皇家だけじゃない。教会、国民、他国⋯⋯全てに影響する。全国民がシュバルツ家に令嬢が誕生することを望んでいる」


「重々承知しておりますが、こればかりは⋯⋯私はナーシャしか」

「わかっている。時間がいるだろう。皆が心待ちにしている。よく考えてみてくれ」


 テオはこの報告会議を終わらせ、レオンを退出させた。




 レオンはこの話題に辟易(へきえき)していた。


 キリアンが産まれた時は、それが男だと知ると落胆した東帝国全国民。

 ナーシャが二人目をなかなか妊娠しないと、子供が授かるように様々な民間療法や祈祷を受けさせられた。

 僕自身、暗に愛人を作れと脅迫も。

 夫婦二人、この状況にかなり疲弊していたのは確かだ。


 東帝国を建国した神。エストリニア女神。

 少し恨みもした。


 確かに建国以来、シュバルツ家直系の令嬢が皇后についた時代、国は安定する。

 それをいつからか「エストリニア神の平定」と呼ばれるようになった。

 以来、シュバルツ家は令嬢の誕生が望まれるのだ。

 そして、令嬢はこの200年誕生していない。

 おかげで、内戦が多発。

 他国とも領土争いが絶えない。

 だから、東帝国の皇帝テオがレオンに「再婚」という俗っぽい話題を出したのだ。


 ーー全国民に再婚を望まれる未来なんて。僕には無理だ。キリアンが早く良い令嬢と婚姻してもらうか⋯⋯あと()()()()()()()がある。しかし、それは奇跡に近い。


 レオンは、これから始まるいらぬ圧力にため息をついた。


 その上、ナーシャは妊娠していた可能性があったという事実。

 月のものが遅れ、体調も優れなかった。

 主治医が妊娠判定をする日に心臓発作で亡くなったのだ。


 ーー 今となってはもう⋯⋯どうでもいい。

 ナーシャが生きていれば。ナーシャさえいれば。


 レオンは静かに涙した。

 誰にも見られないように、足早にリエルの部屋へ向かう。

 一人息子の愛しいキリアンを迎えるために。



 ※ ※ ※


 リエル皇子の部屋に入るレオン。

 すると、キリアンが駆け寄る。


「お父様! お仕事は終わったの?」

「終わったよ。リエル殿下、キリアンといつも遊んでいただいてありがとうございます」「ううん、僕もキリアンといると楽しい。またすぐ来てほしい」

「3日後、また登城しますよ」


 レオンは、テーブルの上の木箱に気がついた。


 ーー何か動いている。昆虫かな?


「そうだ! お父様! モモイロノトリの雛が入ってるんだよ! 見て、見て!」


 キリアンは自分が育ての親のようにはしゃぐ。

 中には、羽が生えそろえ出した一羽の雛。

 飛ぶ練習をしているのか羽を広げている。

 モモイロノトリだが、幼鳥なのでまだ羽の色は濁ったようなピンク色だ。


「殿下が育てているのですか?」

「うん、僕も生き物の命を救えたんだよ!」


 その言葉を聞いて、レオンは胸が苦しくなる。

 きっと彼は貴族達に『不吉第ニ皇子』と気味悪がられていることを知っている。


 ーーナーシャがその異名に怒ってたかな。未来ある子供にひどいと。


 レオンは亡きナーシャの分もリエル皇子を守らなければ、と決意を新たにする。


 彼は10歳のリエル皇子の目線に合わせるためにしゃがみ、彼の肩に手をおいた。


「いいですか? 私がナーシャの分もあなたの味方になります。キリアンもいます。必ず何かあれば話して下さい」


 リエルはレオンの優しい言葉に表情がゆがむ。

 そっとリエルを抱きしめるレオン。

 リエルは大きなレオンの背中に手を回し、肩を震わせ泣いた。

 キリアンは、そんなリエルの背中を優しくなでる。

 専属メイドのアリサは背中を向けて涙した。


 そんな中、木箱の中でリリィの羽音だけが響く。


 ーーもう少しであの空を自由に飛べる!! このリリィ様が巣立つわ!! 待ってて、世界!!



 

ここまでお読みいただきありがとうございます!


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