アリシアの涙
翌日。
リエルが、初めて両陛下と第一皇子⋯⋯三人を誘った食事会。
突然、予定を組み替えてまで皇族三人はランチの時間を合わせた。
テオ皇帝が、リエルの食事の誘いを受けたためだ。
そして、へヴァンの専属騎士キリアンは、当然ダイニング前で側衛任務にあたる。
しかし、今回リエルは自身の側衛任務はカノ卿を指名。ナユタは、この時間は鍛錬場で汗を流すしかなかった。
よって、ダイニングの扉前にはキリアン、カノ卿他二名が任務に護衛任務にあたっていた。
※ ※ ※
皇族専用ダイニングでは、テオ皇帝、アリシア皇后、へヴァン第一皇子⋯⋯そして、リエル第ニ皇子が食事を終えていた。
食後のお茶の配膳が終わり、メイドが退出したタイミングで、リエルが話を切り出す。
「皇帝陛下に私意を申し上げたく、お時間いただきました」
「どうした? 改まって」
テオ皇帝は優しい声で問いかける。
アリシア皇后とへヴァン皇子は黙ったままだ。
「私は幼いころから、『不吉第ニ皇子』と陰で揶揄されています。周りの家族や知人は亡くなったり、使用人も姿を消します。もちろん、僕自身も何度か命を狙われました」
穏やかなリエルが、皇室内ではタブーの話題を切り出す。
ダイニングは静寂に包まれた。
「しかし、噂というものは時が立てば、自然と記憶から遠ざかるもの。しかし、僕の場合、噂は消えて、また再燃……の繰り返し 。これは、誰かが定期的に悪意ある噂を流していると推測しました。」
「何が言いたいのです?」
皇后は棘のある声で切り返す。
「そうですね。 噂を計画的に流した本人を見つけるのは不可能に近い 。そして、私自身がその噂に振り回され、人と距離を置いて生きてきました 」
リエルはここで一呼吸おく。
「でも、それは間違っていました 」
皇帝は目を見開き、リエル皇子を眺める。
「そんな風に生きていても、何一つ変わらなかった 。 もう誰も失いたくないんです。僕は自分の人生を悔いのないように生きていきたい」
「具体的にどうするのかね?」
テオ皇帝は優しく問いかけた。
「この国の皇位継承を決意いたしました」
ーーガタンッッ!!
アリシア皇后は、リエルの決意表明と同時に立ち上がる。
そして、激昂。
「あなたが皇太子になることは、大部分の貴族が反対していることを知っているでしょう?!」
「ええ、熟知しています。あなたを含めて」
アリシアは顔を紅潮させ、怒りで言葉が出ない。
「へヴァン兄上の方が、正皇后の嫡子ですし後ろ楯も強い 。当然兄上が皇帝となることは自然な流れでしょう。僕も権力には興味がない。 騎士としてこの国を守ることに何の不満もなかった。でも……」
リエルはアリシアを睨む。
「これ以上、僕や僕の大切なものを攻撃する人達の好きにはさせない。大切なものや人を守れるなら、『皇太子』として立候補します。」
その言葉を聞いて、更にアリシアは息が乱れ興奮しているようだ。顔が紅潮し、黒い影が彼女を覆っている。
「は、母上?」
「よくも……っっ!」
アリシアは鬼の形相でリエルに近づき、右手を振り上げた。
リエルを平手で打つ体勢だ。
思わず、目を固く瞑る。
彼は腕をクロスさせ、顔を覆い、防御体制をとっていたのだが何も起こらない。
そっと目を開けると……アリシア皇后の目から一筋の涙がつたっていた。
「あぁ、な、何……?! どうなってるの?」
アリシアは、ふらついた。
黒い影はまだ見えかくれしている。
「皇后は体調が悪いみたいだ 。 私も付き添うので、一緒に退出する」
テオ皇帝は、アリシア皇后の肩を抱えた。
彼はリエルを優しく見つめる。
「よく決心してくれた 、我が息子よ 。お前は、私より良い皇帝になるであろう」
「陛下……」
食堂の扉を開けると、側衛中の騎士達が驚いてアリシア皇后を支えた。
「どうされましたか?」
「アリシア皇后陛下! 大丈夫ですか?」
騎士や使用人に世話されながら、皇帝と皇后は退出。
扉前で側衛していたキリアンとカノ騎士は、呆然と両陛下と使用人達の後ろ姿を眺めている。
「何があったんだ?」
「皇后陛下が体調を崩されたとか」
しかし、彼らの主君であるへヴァン皇子とリエル皇子がまだダイニングにいる。
その場を離れるわけにいかなかった。
ーーなんだろう……少し意見の食い違いでもあったのかな?! 皇后はリエル皇子にあまり良い感情を持っていない……それを加味しても、リエル皇子は控えめな方だから、あまり表立って問題にはならなかったがーー
皇子二人きりになるのも珍しいことなので、キリアンは不安が、まだぬぐえなかった。
それに、まだ人払いされたまま。
中に入ることもできない騎士二人はやきもきしていた。
※
ダイニングは、皇子たった2人取り残されガランとしている。
リエル皇子は、脳内で必死に話題を探していた。
ーー彼らが二人きりの空間にいるのも、何年ぶりだろうか……。
すると、へヴァンの方から口を開く。
「恐ろしく純粋なやつだな」
リエルの方に体を向け、テーブルに頬杖をつき、足を組ながらつぶやいた。
「何か心境の変化があったかな? 大切な鳥が狙われたこととか?」
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