3.被害者の目的
「男の身元は判明したのか?」
皇帝テオは執務室で、皇室騎士団副団長キエラから報告を受けていた。
「いえ、何も身元につながるものは携帯していません。所持品は短剣2本、ロープ等。雇われ傭兵ではないかと」
「自国の傭兵ならすぐ身元もわかるが⋯⋯調査を続けてくれ」
「はい、では失礼致します」
副騎士団長キエラが退出すると同時に、アリシア皇后が威勢よく執務室に入ってきた。
「陛下、また身元不明の男が園庭内で殺されたと聞きました! なんて恐ろしい⋯⋯!」
「そうだな、今調査中だ」
皇帝テオがため息をつきながら、アリシア皇后に答えた。
「またリエルのせいじゃありませんこと? ここ2年間、園庭内で見知らぬ男の死体が7人も! あの子の使用人もその度に姿を消します。早く他国にでも追い出して下さい!」
「何をバカなことを言うんだ! あの子は私達の大切な息子じゃないか!」
「あの子は私の血を分けた子ではないですよ。私の愛しい子はへヴァンだだ一人。考えたくもない!」
アリシアは、テオの言葉を全否定する。
「あの子の周りの人間が、どれだけ消息を絶ったか。貴族の間では『不吉第ニ皇子』と揶揄されているのですよ! よくお考え下さいませ!」
アリシアはそれだけで言い放って執務室を退出した。
テオはソファにどかっと座り、天井を見上げ一人でつぶやく。
「全ては君とリエルを守るためだというのに⋯⋯」
そして、テオは執事にへヴァン第一皇子を呼ぶように指示をした。
※ ※ ※
その日、レオンは皇室騎士団長として公務に復帰した。
亡き妻ナーシャの葬儀が終わり、喪に服す公休期間も終了したからだ。
早速、この殺人事件の報告を、皇居会議室で受けていた。
(復帰後すぐの仕事が殺人事件の調査か)
レオンは副団長キエラ達と対策本部を設置し、早速調査を開始した。
その時、ある親しい男に声をかけられる。
「レオン、大丈夫か? 少しやつれたな。後で俺と話せるか?」
「クレオ閣下も召集されたのですか?」
「俺は通常任務だがな」
レオンは「東帝国の英雄」と名高いナッツ大公家クレオの顔を見て、少しばかりの笑顔を見せた。
二時間後。
レオンは、約束通りクレオとお茶を飲み会談した。
クレオは、最愛の妻を亡くした後輩に対して、話をどう切り出そうか悩む。
「⋯⋯なんとも言葉もないが、ナーシャ夫人のことは」
「大丈夫ですよ。少し前を向けるようになりました、キリアンのおかげで」
「まだ一週間しか経っていないだろ。俺にできることがあれば何でもする、頼ってほしい」
「ありがとうございます。しばらくは仕事で忙殺して、可愛いキリアンに慰めてもらいますよ」
クレオはレオンのやつれた笑顔に胸が痛む。
「ところで、ここ2年で皇居内で殺された傭兵が7名もいる。どうなってるんだ? どこから傭兵は侵入してるんだ? 誰に殺された?」
「手引きしている者が内部にいると推測しますが、今回も形ばかりの調査で終わるような気がします」
「何故?」
「毎回、皇帝陛下がすぐに調査を打ち切るんですよ、我々にはどうしようもありません」
レオンとクレオは、被害者の目的は皇族の誰かを暗殺することだと踏んでいた。
それは今までの不審者達も同じだろう。
しかし、毎回皇居内の誰かがその侵入者を始末をしている。
それがわからない。
誰が始末しているのか。
「被害者は皇族を狙うほどの手練のはず。それを悲鳴を上げる前に完璧に一撃で殺してます。そんな護衛騎士は、この皇居内に多くはいません」
「うーーん⋯⋯東帝国皇居の七不思議だな。俺は神なんぞあまり信じないが、エストニア神の御加護というやつか? 『エストニア神の平定』とやらも案外真実かもな」
そこまで口にしてから、はっとするクレオ。
レオンとの間に微妙な空気が流れる。
「悪い。失言した」
「いいんですよ。キリアンに期待しましょう」
レオンはクレオににっこり笑って、バツがわるそうな彼に助け舟を出すのだった。
※ ※ ※
「キリアン! 久しぶり!」
「リエル殿下にご挨拶いたします!」
「なんだよ、それ、笑けるからやめて!」
リエルの部屋で、二人の少年は再会を喜び合い抱き合った。
テーブルにはお茶と子供が好きそうな菓子が並ぶ。
リエル専属メイドのアリサは、はしゃぎ合う少年達を微笑ましく眺めていた。
「レオン閣下と一緒に来たの?」
リエルはお菓子を頬張りながら、キリアンにたずねる。
「うん、お父様が今日から仕事復帰するから」
「そう⋯⋯」
リエルは母を失ったキリアンを思いやる。
リエル自身も6歳で実母のマリアン側妃を病気で亡くしていた。だから、彼の悲しみを少しは測れることができた。
なんとかリエルは明るい話題を探す。
「そうだ! キリアン! 僕、昨日から鳥の雛育ててるんだよ!」
「へーー、見ていい?」
「ちょうどエサやりする時間だよ」
小さな木箱。
これが雛の家。
木くずや糸くず等で巣のくぼみを作り、そこにすっぽりおさまる雛。
目はまだ開いていない。
「ほら、ご飯の時間だよ」
リエルが話しかけると、それは大きな口を開けて鳴き出した。
一緒にその様子を見ていたキリアンも興味津々だ。
「可愛い、必死にエサを探してるね」
「うん、スプーンを近づけて⋯⋯ほら、食べた!」
雛は器用に喉に流し込んだ後、お尻を高く上げる動作をした。
「あ、ウンチする」
「え? こんなにすぐ?」
「そうなんだよ、僕も初めて知った」
雛はそのまま糞を出して、何故かピィピィと鳴いてから、窪みに沈んだ。
リエルは糞を布で丁寧に取り上げて捨てる。
「⋯⋯僕も命を救えたんだ」
思わず感慨深げにつぶやいたリエル。
キリアンは、『不吉第ニ皇子』と悪名をつけられているリエルを悲しげに見つめていた。
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