呪い完全マニュアル
なんて、世界はそう易々と変わる訳ないのに
そんな都合よく物事が運ぶ事なんて…運んだ事なんてなかったのに
明日も変わらない、変わり映えのない同じ日常が来るだけなのに
そう思ってしまう俺は、やっぱりダメな人間なんだろう
静かで暗い部屋
家族が寝静まっても、スマホの明かりだけで過ごす、眠れない夜
無意味にSNSを開いて、興味のない話題をスクロールしていた時、ふと目に入った文字
嫌な上司が左遷された
本当にここの縁切寺は効くよ
おすすめで流れて来た、誰だかわからない人が書いたポスト
縁切寺…
俺だけじゃないんだな
誰かに…消え欲しいって思ってる人
そう思ったら、自分の悩みがバカらしくなって
縁切寺で願いが叶うなら、誰でも願うよな
なんて思ったけど
願うだけで叶うなら…簡単だよな
効くかなんてわからない
けど、願ってみなければ…わからない事
効かなかったら、別に、それまでの事だし…
ポスト元をタップして見るのは、広告とかぶら下げてそうだから止めて…
ネットを開いて検索窓に文字を打つ
「縁切り スポット 効く」
検索結果が表示されて、スクロールしながら目ぼしいサイトを探していた時
「消したい人がいるあなたへ」——
シンプルなタイトルに、ストレートな言葉
消したい人がいる…あなたへ…
思わずタップした
「占術・呪術協会へようこそ!」
でかでかと、画面全体を覆うポップなタイトル画面に、黒い背景に白い文字
目が悪くなりそうなレイアウト
でも、シンプルなのにインパクトがあるその雰囲気に、画面をスクロールすると、直ぐに見出しがあって、そこに書かれていた短い文に釘付けになる
「呪い実践編」
実践…
あたかも、呪いと言うものが存在しているかのようじゃないか
その下には小見出しとして
「呪符の書き方」
「呪文の書き方」
など…
細かくご丁寧に書かれている
「っは…」
思わず笑いが漏れた
だって、くだらない
なんだよ、呪符とか呪文って…
意味わからない…
でもなぜか目が離せなかった
スクロールする手が止まらない
「怨敵呪死の式」
「願望叶の式」
「死霊祓の式」
「死者還の式」
「急逝の式」
錚々たる文言が並ぶ
ヤバすぎるだろ、これ…
あり得ない
あり得ない…けど…
もしこんなんで効くなら…
青砥の顔が浮かぶ
『お前、暇だろ?
やっとけよ』
母の言葉が重なる
『将来どうすんの?
たいした高校にも入れなかったのに、今の高校でトップでも、世間じゃ底辺なの
あんたの頭じゃ普通に受験しても無理なんだから、推薦くらいは取れるように、ちゃんとやってよ』
わざわざ寺に足を運ぶより、寧ろ楽かもしれない
誰にも言えない
誰にも助けを求められない
だから
誰にも知られずに、誰かを消したい
俺は、手順通りに実行した
感情は捨てて、ただ淡々と
そして、それは数日後の出来事だった




