episode 早乙女
僕の名前は早乙女琴音、高校一年生、僕は、自分でいうのもなんだが、かなり昔からモテた、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能と、自分でいうのもなんだが、人が持っていない物をそれなりに持っていた、しかし、いいことばかりではなかった、小学校の頃は、男っぽいとかなんとかで、いじめられたことがあるし、中学校の時は、思春期で、一人称を僕から私に変えた、そんなこんなで、正直、学校はあまり好きじゃなかった、本当の自分を認めてくれる人なんて、周りにほとんどいなかったからだ、下心ありきで私に話しかける男子はいたけど、そんな子は友達じゃない、そして、友達もろくにできないまま、高校生になった、高校生になった私は、自己紹介の時、メガネをかけてなるべく目立たないようにした、昼休みの時もいつも端っこでご飯を食べていた、そんな時だった
「なあ、それ、伊達メガネだろ?、なんでそんなのつけてるんだよ?」
突如、名前の知らない男子から話しかけられた、でも、どうせまた下心ありきでくる男子だろうと、そう考えていた、しかし、彼は、人が嫌がらない距離感を知っていた、まるで、自分が元々被害者だったかのように
「…別に、ただのファッション、どうでもいいでしょ、私、あまり人と深く関わるつもりないから、早くどっかいってくれる?」
「でも、君の喋り方だと、なんか、こう、不自然っつうか、カタコトっぽい?、つうか、わかんねえけど、自分の個性を押し殺してるように見えるんだよ」
私は思わず目を見開いた、喋り方の違和感に気付く人なんて、僕が生きてきた数十年で一度も会わなかった、でも、不思議と、冗談を言っている風には見えなかったし、僕はそう思わなかった、理由は、今でもわからない
「なぜそう思うの?」
「俺も、似たような経験があったから」
彼は太陽のような微笑みながらこちらに向かって喋りかけた
「だから、ありのままの自分を出して生きたって、いいんじゃないか?」
彼の目つきは、優しい目だった、彼にだけは、話してもいい気がした、しかし、気付いた時にはもうチャイムがなってもおかしくない時間になっていた
「やっべ、そろそろ戻んねえと」
「え?、でももうちょい話しても」
「んじゃ、俺もういくから、また話す機会があったら話そうぜ」
そう言い残し、彼はその場を後にしてしまった。
そこから、彼に話しかけようと何度も試みたが、勇気が出なかった、勇気を出すために、イメチェンもして、伊達メガネもやめた、でも、話す勇気だけは、持つことができなかった、そんな時だった、彼が、男の人と話していた、内容はわからない、男友達と、何かを話していたことだけはわかった、その男友達が去り、話しかけたその時だった、彼の目つきは、初対面の時と比べて、かなり悪かった、しかし、前に優しく話してくれたのだから、別に大丈夫だろう、そんな甘い考えを持っていた、しかし、現実は、まったくといっていいほど違った。
「誰だよ、お前、邪魔なんだけど、というか馴れ馴れしく話しかけてくんなよ」
こんな言葉が、彼の口から出てくるなんて想像すらしていなかった、しかも彼は、私のことを忘れていた、いや、イメチェンの影響で誰かわからなかっただけかもしれない、でも、明らかに前あった時よりも好印象ではないことは確かだった、もしかしたら、前に会いました、なんていったら余計に状況を悪化させてしまうかもしれない、そう考えた僕は、初対面を演じることにした
「な、なんでそんなこと、初対面だからって、そこまで言わなくったっていいんじゃないかな?、友達になりたくて話しかけてみただけ…なんだけど」
「それが迷惑だって言ってんだよ、いいから、どっか行けよ」
だが、結果は最悪と言ってもいいほどだった、彼の目はさらに鋭くなり、まるで殺気を放っているかのようだった、少し前にあった彼とは大違いで、今の彼は、正直怖かった、だから、怖くて逃げ出した、いや、違う、信じたくなかったのだろう、彼がそんなことをするなんて、考えたくもなかった、だから、これは夢だと心の中で叫びながらその場を逃げ去った
その翌日のことだった、彼はあっという間に噂になってた、私は彼のお陰で人脈が広くなって、クラスの皆と仲良く話せるようになった、感謝はしているし、尊敬の念が変わることはないと思っていた、あの事件が起こるまでは。
その日の放課後、私は忘れ物をして、教室に物を取りに帰っていた、そんな時、空き教室から彼の声と、震えている女子生徒の声がしていた、怖くて教室に入ることはできなかったけど、幸いスマホをポケットの中に入れていた、そして、スマホを録画した、バレるのが怖くて、中に入ることが出来なかった、入ったら、僕まで被害を受けるかもしれない、そもそもいたところで被害が二人に増えるだけかもしれない、保身に走ったような言い訳を心の中でしていると、足が震えて動かなかった、そんな時だった、あの時彼と話していた子が扉を開けて、彼を殴り飛ばした、名前は、湊というらしい、上履きに名前が書いてあった、その湊という生徒がとった行動は正しい判断じゃないということは、その場にいる誰もが理解していた、そのまま行けば、もしかしたら湊くんが危険になるかもしれない、そう思い、彼が何かを言ってややこしくなる前に証拠を突きつけた、すると彼も諦めたのか、何も喋らなくなり、大人しく先生たちに連行されていった、結果的に、彼は退学となった、その時にはもうすでに、彼への尊敬は無くなっていた、そんな時だった、たまたま彼の席だったところを見つめている時、彼の席だった机の中に、張り紙があった、その内容は、怖くて最後まで見れなかった。
「何、これ…」
恐ろしい内容が書いてあった、書き方はマーカーペンで殴ったように書かれている『学校くんな』とか、『クズ』、とか、それ以外にも、他人には言えないようなことが書いてあった
「まさか、僕が、僕が…」
もしかして、僕が、彼をここまで追いやっちゃった?、僕が、泣いて教室に行っちゃったから?、僕が、映像を渡したから?、そのせいで、彼が…
ふと、外を見つめた、そこには、罪悪感に苛まれている彼の姿、泣き崩れている彼の妹さん、その言葉を聞いて無力感に打ちひしがれている彼の両親
「あ、あぁ、ああああぁぁぁぁぁぁ!」
僕のせいで、彼が、彼の家族が、よく考えてみれば、僕は彼に、何をあげた?、僕は、彼の言葉に救われた、彼の言葉があったから、今こうやって皆と仲良く話せている、なのに、僕は、恩を仇で返したのだ、僕は、取り返しのつかないことをした、どんなに悔いても、もう彼は、戻ってこない
「あはは、私が、壊しちゃった…」
どうすれば彼に許してもらえるのだろう?、いや、もう顔すら合わせてくれないかもしれない、あの笑顔を、もう見せてくれないかもしれない、太陽のような笑顔を、僕は、地獄へ落としたのだ
「償わなきゃ、命をかけても、彼に、報いなきゃ…」
僕は、決意した。
「彼を、守ろう、例え、僕の命に代えても。」




