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復讐を誓った俺、気づいたら猫になってた。……可愛いって撫でるな!恨みを忘れるだろうが!

作者: RISE

俺の名はガイル。

斥候として二十年以上、戦場を駆けてきた老兵だ。

血塗れの森で敵を探り、瘴気の洞窟で罠を解除した。

何度も死線を越えた。

それは全部、仲間を守るためだった。

俺がいなければ、あいつらは百回は死んでるはずだ。

……なのに、だ。

「悪いなガイル。おっさんはもう足手まといなんだよ」

「新しい斥候も入ったしな。若くて、動きがキレッキレだ」

「今までありがとな! じゃあ、元気で!」

それだけで終わり。

笑顔で、あっさりと。

二十年の功績は、一瞬で切り捨てられた。

――許せん。

必ず復讐してやる。

そう誓って、酒をあおって床に倒れ込んだ、その夜。

俺は猫になった。

「……は?」

視界が低い。

足元がふにふにしている。

尻尾が動く。

肉球。

鏡に映ったのは、黒光りする小さな黒猫だった。

「にゃああ……(マジかよ)」

どこの神の悪戯だ。

いや、あの連中の呪いかもしれん。

だが関係ねぇ。

猫だろうが復讐はできる。

爪も牙もある。

影に紛れるのは得意だ。

――やってやる。

その夜。

酒場の裏路地で、奴らを見つけた。

楽しそうに笑い、杯を傾けてやがる。

怒りが沸き立つ。

今こそ――。

「ニャアアアッ!」

(死を覚悟しろ!)

勢いよく飛び出した。

……のはずだった。

「うわ、可愛い猫ちゃん!」

「おいでおいで〜!」

「ふわふわ〜! ぎゅー!」

あっさり抱き上げられた。

「ちょっ、おま、やめ……ニャー!?」

「ゴロゴロ言ってる! 懐いてるぞ!」

「ガイルより役に立つんじゃね?」

…………。

待て。

俺はガイルだ。

復讐のために――

「ほら、お腹なでなで〜」

「にゃ、にゃああ……(やめ……いやもっと……)」

――駄目だ。

気持ちよすぎて復讐どころじゃねぇ。

結局その夜、宿に連れ帰られた。

人間の頃は床で寝てたのに、今は――

「一緒に寝よー!」

「布団ふかふかだぞー!」

「ほらおいで!」

三人がかりで布団に押し込まれ、抱き枕にされた。

……くっそ。

あったかい。

毛布の中はぬくぬくで、心臓の鼓動まで聞こえる。

撫でられるたびに喉が勝手にゴロゴロ鳴る。

これじゃ、まるで仲間に戻ったみたいじゃないか。

「……ニャ」

(許さねぇ……許さねぇけど……眠い……)

瞼が落ちる。

怒りが毛布に溶けていく。

翌朝。

俺は復讐のため、食堂に潜り込んだ。

皿をひっかけ、奴らに恥をかかせてやるつもりだった。

だが目の前に魚を差し出されて――

「ほら、おかえり。いい猫じゃん」

セヴァンの言葉と共に、魚の匂いが鼻をくすぐる。

復讐心は、一瞬で消えた。

……仕方ないだろ。魚は美味いんだ。

二日、三日。

気づけば、俺は奴らの日常に溶け込んでいた。

夜は枕元で丸くなり、昼は訓練場の見張りをする。

危険があれば鳴き声で知らせる。

「猫がいると助かるな!」

そんな言葉をかけられて、心がざわつく。

誇らしいのか、悔しいのか。

人間として必要とされなかった俺が、猫として必要とされている。

ある夜、盗賊団が酒場を襲った。

リオが不手際で危うく刺されそうになる。

俺は――迷わず飛び出した。

靴紐に爪を引っかけ、盗賊を転ばせる。

その隙にリオは体勢を立て直した。

「猫が……助けてくれた?」

信じられない顔。

だが確かに、俺が役に立った。

胸が熱い。

復讐の炎とは違う、奇妙な温かさだった。

日々を重ねるうちに、俺は考える。

復讐だけが全てだったはずだ。

だが今、俺は笑い声の中で眠り、必要とされている。

老いた占い師が言っていた。

「人の心を改めるには、近くで見るしかないもんさ」

もしかするとこれは、罰じゃなく試練なのかもしれない。

満月の夜。

窓辺で伸びをする俺の毛が、月光に照らされる。

遠くで、仲間の笑い声がする。

「……明日こそ仕返しだ」

そう呟きながら、丸くなって眠った。

だが心のどこかで小さな声がする。

――「そのままでいいんじゃないか」

もふもふの復讐は、思ったより長い。

だが案外、悪くはない。


【完】

最後まで読んで下さりありがとうございます。

連載版も出す予定です!

もし楽しんで頂けたら、評価・感想を頂けると嬉しいです!


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