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カリ・カネ  作者: 織部 
1/3

渋谷の国


その声はどこか懐かしく、そして居心地が良かった。

その敬語、身なり、態度、そして、コーヒーの香り。

俺はそんな彼に憧れていた。

しかしそんな時間も、時間と言っていいかもわからないほどに曖昧な一瞬ですぎていく。

そしてたつ鳥は跡を濁さないというように、綺麗さっぱり忘れる。

そしてまた忘れていたことを思い出すのだろう。


「最近眠れてないんだって?」

「ん?、、ゲホッ!!ゴホッ!!」

顔にかかる、石炭の蒸せる匂いが途端に夢から現実に引き戻した。

この石炭の匂いのように黒いマントをたなびかせる少女は俺を見上げ、そうきいた。

しかしその少女の顔すらぼやけて見えない。

見た目推定十歳ほどの少女だが、実際の年齢は知らない。

俺のいる部屋は、全てが狭く暗かった。


(トンネルに入ったか、どうりで)


”トンネル”に入ったこの部屋は、今まで以上に暗かった。

外から聞こえる轟音はトンネルにより共鳴し、一層耳をつんざく。

石炭が燃やされる”火室”が、一時間に一回ほど上げる黒い煙に俺は起こされたのだった。


俺は、座っていた窓際から降りその部屋に置かれていた木製のオンボロ椅子に座り周りを見渡した。

たった一つの古びた天井に吊るされたランプが部屋の振動とともに部屋全体を一生懸命照らそうと回っている。

しかしこの部屋にいる俺以外の3人は黒の装束を着ており、たった一つのランプの光では俺たち含め部屋全体を到底照らせるはずがなかった。


対して俺は対照的に白のタキシードを着ている。

俺に話しかけた彼女はタキシードのベルトに届くか届かないかの背丈しかなかった。

そして、その年にも背丈にも合わないような金色のアクセサリーをまるで見せびらかすように俺に見せてくる。

それに苛立ちを覚えながらしばらく間を空け、そして口を開いた。


「誰のせいで寝れないと思っているんです。あとその飾り、ダサいです」


そういうとバタコはしゅんとなってプランタのところに帰っていった。

実際、今日もそのバタコのやけに高い声に起こされたため、イライラしていても仕方がなかった。

ちょうど寝ていた人間に寝れてないのかを聞くこと自体おかしいのだ。

バターバーという本名からなぞらえてバタコ。

プランタは俺を見るなり、見慣れた飽きれ顔を見せた。


「軽口だけは叩ける余裕があるみたいだな。プティ。その余裕は今回の作戦会議に生かしてくれよ」


プティ。それはここに来た時付けられた名前だ。

最近になって呼ばれ出した俺の名前だが、ダサくてあまり好きじゃない。

「・・・ふん」

流し目でバタコを見ると、プランタに抱えられたバタコはベーと俺に向かって舌を出した。

プランタはこのグループのリーダーの次に入ったベテランであり、頼りになる兄貴のような存在だ。


このグループとは、自分含めた四人の盗賊団だ。

名前は『ウィードーズ』

この名前だって好きじゃない。


「だいたいそんなこといつ気にする歳になったんですかバタコ。関係ないでしょう」

「プティ、、、お前もそんな丁寧口調じゃなかったろ」

いちいちプランタは俺に対して突っ込んでくる、その態度にイラっとした。

「あ!!、私が大人っぽくなったのが気に食わなかったんでしょ。なぁんだ~~」


そう言ってこちらに近づこうとする彼女を睨んだ。

やや怯え気味のバタコをのかし、俺は片手に持つコーヒーをそのままにテーブルに向かった。

そこには切れ目が多く、年季の入った薄汚いテーブル。

これは俺がここ、トリテレイヤに乗り込んでからもう何年も経っていて、あの頃と全くと言っていいほど変わらない。

その上にはぐしゃぐしゃになった紙、そこに書かれたチワワの落書き、全てにおいて粗雑な彼らしい。


彼とは俺が『何もかもを忘れ』路頭に迷っていたときに助けてくれた男だ。

ここ『トリテレイヤ』はウィードーズが乗り込んでいる列車の名前だった。

今日もトリテレイヤは休むことなく線路から車内を通して俺たちを揺らしてくる。

最初はこの揺れによる酔いに苦しめられたものだ。

今となってはこの揺れも日常となっている。

この『列車』という乗り物は不思議にもある数々の国を無尽蔵に走ることができるらしい。


通常、「国境」国と国の境にある結界が存在する。

そしてその国境を越えるためには明確な申請が必要になる。

その申請を行い、その国の認められた香水を体に纏うことで初めて一定の間その国に滞在することができる。

しかしこの列車はそんな香水問題などお構いなしにどこまでも走り続ける。

噂では列車は怪物でできているのではないかと言われている。

そしてそんな乗り物に、俺たちのようなならずものが乗れるのかは謎だった。

リーダーには秘密が多いことはグループのみんなが感じている。


「まぁ大方、どっかの国に降りたときにかかった魔法のせいだろ」

「魔法だと!?プティお前、魔法にかかったってのか!」

そう大声を上げながら部屋に入ってきたのは大柄な男。

勢いよく扉は開いたが、スライド式だったためその勢いのまま跳ね返り扉は閉じ、その男は激突した。

「っっ、、、痛てぇ」

「何やってんスカ、ホーステール」


この列車のリーダー、名はホーステール。

大柄とはいえ大きいのは横だけであり、身長は俺よりも数センチ低い男。

坊主頭に加え左側に、まるで猛獣にでも引っ掻かれたような刈り込みが5本ほど引かれている。

「国から国に移動するとき、だいたい俺らの体に”変なこと”が起きるって教えたろ?」

「えぇ。いつも下車する時に訳わからない香水をかけられるのも、その変なことが起きないようにって言ってましたね」


「その”変なこと”を操ることができるのが魔法。あれほど気をつけろって言ったのによ」

そう言って物置(部屋の片隅に追いやられているだけで物置の部屋があるわけではない)からこれまた金色に装飾された木箱を取り出した。

「これは魔法の原点、魔法の国の産物だ」

そう言って渡され、反射的に開けようとしてしまった。

しかし、開かない。


「いくら口調が良くなっても、その手癖の悪さは変わらないな。それは特別な鍵がないと開かない。普通ならそんな箱、ピッキングで開けることができるがこれはそう簡単には開かないぞ」

そう言われ、俺は渋々その箱をテーブルに置いた。

しかしそもそもこの箱に宝らしい、特徴的な輝かしい雰囲気がなく俺の興味はすぐに失せた。

「さぁ地図は見たか!?、今日は忙しいぞ!!」

「「え?」」

一同が思わず一斉に同じ声をあげた。

「落書きじゃなかったんですか、チワワの」

「どうみたらチワワになるんだ、、、、これは鳥だろ」

「ちんちん!!」

「バタコ!!下品だぞ!!」

そう言ってバタコの頭を叩いた。

「あ~ん!!!なんかみんな私に冷たい!!」

「渋谷の国の地図だ!!」


「・・・」


一同沈黙となった。その証拠として列車の走る音がよく聞こえた。

(渋谷って何?)

俺の言葉を聞く前に、プランタは答えた。

「親分さぁ、、、冗談はよしてくれよ」

普段冷静沈着、どんなトラブルも流していなすようなプランタの表情に珍しい焦りが見えた。

どうやらこの地図は「渋谷の国」という場所の地形を表しているらしい。


「わかりますよ。渋谷の国って言えば最近急速に大きくなっている国ですよね」

「その渋谷の国の姫、『ガーヴェラ』の持っている魔法の国産と呼ばれている靴を盗む」

その言葉に対して、誰も口に出さない。

それをバタコは不思議そうに見ていた。

お姫様。

この世界はいくつも存在する『国』と呼ばれる土地でできている。

そして一つの国には『お姫様』が存在し、彼女を中心として必ず番人騎士ナイトウォッチャーと呼ばれる守り人が存在する。


お姫様を中心とした団体。

そしてその団体は大概謎に満ちているが人々は口々にこういう。

『超越した強さを持つ奴ら』


それゆえ、俺とプランタは口をつぐんだ。

きっと頭を打ったのだろう、ホーステールはきっと無茶な仕事をしたのだ。

そうでなくてはそんな荒唐無稽なことは言わないはずだ。

「寝ぼけてるんですか。それか何か策でも」

「無理でしょ、、、何を言ってるんだホーステール」

プランタは普段の崩した口調ではなく、真面目になったその態度がより彼の困惑が伝わった。

冗談はよしてくれという、彼の呆れた心情がよく読み取れる。

「プティの言う通りだ。当然策がある」

渋谷の国では不定期で行われるファッションショーがある。

そしてそこで選ばれた人は賞金と次のファッションショーまでの『渋谷の国の姫の権利』を持つことができる。

『新宿の国』の番人騎士の一人であったガーヴェラだが、五人いる中で最も弱いことで有名だった。そしてそんな彼女が渋谷の姫に選ばれた。

今、渋谷はその勢いの良さに見合った力を持っていないのだ。

よって、今俺たちのような『盗賊』にとって絶好のチャンスらしかった。

ホーステールは袋の中から缶スプレーを4本無造作にテーブルに転がした。

質素な灰色に光るその缶スプレーにはそれぞれに俺たちの名前が書かれていた。

これまた字が汚く、誰が誰のものなのか把握するのに時間がかかった。

「ここに行く」


「108(ひゃくはち)」


「イチ・マル・ハチだ。」

これまでただ惰性に金目となる宝を集めては売り、その金で生活していた。

しかし最近になってあの箱のような、到底宝とは思えないような代物を熱心に集めている。

それも『魔法』と言う単語をよく口にしている。

しかし彼はアホのように振る舞っていてその実見えない正しい天秤を持ち判断する頭を持っている。


「しかしいくら香水をかけたところで108ほどの城、入るのは困難だろう」

「そう、そこでプティ一人に侵入してもらう」

「、、、俺?、、、ですか。根拠は」

「ホワイトカラーだからだ」

やっぱりかとプランタは頭を抱える。

「えぇ〜プティが?頼りな〜い」

あの幼稚なバタコですらこの反応であることからやはり無茶苦茶な作戦だと再確認した。

「いくら最弱の姫とはいえ、ガードが硬いのは間違いない。そこでプティ。お前一人で潜入してこい。」

「確かに隠密行動はペティの得意分野だが、一人で行動するにはまだ早いんじゃないのか」

ホーステールは度々、無茶苦茶なことを言い出すことがある。

そしてプランタはそんな彼のブレーキ役としてこのチームに必須だと、しみじみ思う。

「第一俺の勘が言ってるんだ。独り立ちのタイミングにちょうどいい」

「まだ子供扱いですか、、、」

確かに俺にとっての彼は父親のようではあるが、俺自身もう独り立ちをしているつもりではある俺はうんざりしてしまう。

「当然分け前は全部俺なんですよね」

「当然、、、ところでお前なんで敬語なんだ」

「マイブームだろ、そういう年頃なんですよ」

しかし、城の名前が108。

その名前を聞いた時、俺は謎に親近感を覚え興味を持ったのだった。






書き溜めてはいたんですが、ふと全部消えたらどうしようってなりました。

ここなら消えることはない、、、はず。

そう思って書いています。

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