愛しの地味眼鏡 3
魔力が強い者は、己の魔力に波長が似た魔力の持ち主に惹かれる。
そして、その独占欲はとても凄まじい。
そう、ミハエルのお父様より説明を受けたのは、私が六歳の時。
ミハエルと婚約者としての初めての顔合わせの日でした。
私は目の前のキラキラした男の子に、一瞬にして惹かれてしまいました。
そして、それは「その子」も同じだったみたいで…。
「父上!僕はリリス嬢以外いりません!リリス嬢じゃなきゃだめです!」
「わ…わたしも、ミハエルさまがいい…です」
その瞬間、私達の婚約は決定したのでした。
私のお父様は、すごく複雑そうな表情でしたけど。
あれから長い時間をかけて、私達は魔力の波長などとは別に、私達自身の深い絆を作り上げてきました。
おかげで……超絶ヤキモチ焼きが出来上がってしまったのですが。
彼からの溺愛っぷりは…恥ずかしすぎて言葉ではお伝えできませんわ。
「リリス…すき」
「……私もですわ」
「リリス…唇、赤い」
「誰のせいですか!」
とりあえず、今回の証拠集めで、ミハエルには映像記録を撮って頂きました。
お父様からの協力のお話とは、この事ですわ。
それにしても、けっこうな時間ですわね。
我が家の馬車は、お父様の「お使い」が何とかしてくれたでしょうが……。
「ミハエル、お父様との約束覚えていますか?」
「え?……あ!」
今、夜の刻六時ですわ。
「門限!」
急に慌てて眼鏡をかけるミハエル。
ええ、いくら貴方が魔法師として強くても、義理の父になる私のお父様は敵にしたくありませんわよね。
我が家の…と言うか、私の門限は夜の刻六時半。
婚姻するまでは守る事!と、お父様とのお約束ですわ。
「空間転移していい?!」
「あれは酔うから嫌ですわ!」
「やっべ、時間ギリギリだ!閣下に殺される!」
と、こんな感じで結局甘い雰囲気は壊されたのでした。
因みに、門限ギリギリでしたわ。
お父様の代わりに、門の前に仁王立ちしていたお兄様の恐ろしさったら。
お兄様とミハエルは親友ですが、それとコレとは別なんですって。
「ミハエル、帰すのが遅い!」
「いや、ユリス…これには訳が」
「あ"?」
お兄様……日に日に言動がお父様に似てきていますわね。
ミハエル……ふぁいとー、ですわ。
ーーーーー
(卒業式は華やかに)
第二王子殿下の騒動から半年。
あの時は、本当に面倒でしたわ…。
第二王子殿下は、陛下とお兄様である王太子殿下にかなり叱られ、同調した貴族達も同等にお叱りを受けたとか。
おかげで、それ以降はとっても平和な半年でした。
そして、私はやっとこの日を迎えました。
今日は学園の卒業パーティーです。
誰もが着飾り、晴れの日を祝っています。
私も「紫」のドレスに身を包み、学友達との最後の時間を過ごしています。
因みに、私の隣にはお揃いのピンクのドレスに身を包んだ、ターナとマリナのモンタナ侯爵令嬢姉妹がいます。
姉であるターナは、今日私と一緒に卒業ですわね。
「あれぇ、リリス様お一人なんですか?婚約者様は?」
そんな中、黄色いふわふわとしたドレスに身を包みやって来たのは、アリアナ・メリナ伯爵令嬢。
あの事件の時、彼女自身、第二王子殿下と自分のお父様に呆れつつの行動だったらしく、「やっぱり無理だと思ったんですよ!」と、ものすごい勢いで謝ってきましたわ。
おかげで、今では仲の良いお友達になりました。
「………今日はお仕事なんですって」
ー 今日はエスコートできない ー
そう伝言が来たのは、今朝の事。
急な仕事が入り、王宮に出向かなくてはならなくなったそうです。
そう言う訳で、私の今日のエスコートはお兄様になりました。
仕方のない事です。
来月には婚姻しますし…はしゃぎすぎもよくないです。
でも…………やっぱり少し寂しいですわね。
「………ミハエル」
その時。
会場入り口の方で大きなざわめきが起きました。
「何かしら?」
「えー?誰か遅れて来たんじゃないですかぁ?」
「「あらあら、うふふ」」
ミハエル程ではないにしても、「視る」事の出来る瞳をもつターナとマリナが、入り口の方へと視線を向けた瞬間、楽しそうに笑いました。
「え………まさか」
そして、ざわめく人混みを掻き分けて、入り口から真っ直ぐ私のもとまで足を運んできた「彼」の姿。
「すまない、待たせた!」
いつも掛けている瓶底眼鏡を外し、さらされた紫の瞳。
容姿隠しでボサボサにしていた黒髪は、本来の艶のある状態に戻り、後ろに撫でつけてあります。
極め付けは、パーティーに合わせたであろう煌びやかな衣装。
「み…ミハエル、その姿」
はっきり言って、「歩く凶器」ですわ!
「まさか!フォンティーヌ公爵令息?」
「あれが地味眼鏡ですって!」
「詐欺だわ!知ってたらアタックしましたのに!」
「はぁ、美しいですわぁ」
それにしても、皆様すごい騒ぎようですわね。
私との会話で彼が誰か分かったようで、令嬢達の黄色い悲鳴が止みませんわ。
あぁ…ほら、それに、何も知らなかった令嬢方が何人か医務室に運ばれましたわ。
初めて素顔を見たアリアナ嬢なんて、あまりの驚きに固まってますし。
「晴れの日に普段の姿では格好がつかないだろ?」
「でも……今日は来れないと」
「あぁ、義理兄上……王太子殿下に仕事を押し付けられてな。だが姉上が殿下を叱り飛ばしてくれたおかげで早く帰宅できた」
やだ、困りましたわ。
私ともあろうものが、嬉しくて泣けてくるなんて。
あ、お兄様が離れた所で、とっても良い笑顔です。
ミハエルが来る事知ってましたわね!
「ミハエル…ありがとうございます」
「あぁ、リリス。卒業おめでとう……それから」
ミハエルは極上の笑みを見せると、私の前にふわりと跪きました。
物語の王子様のような彼に、会場内から悲鳴があがりましたわ。
「俺の口からちゃんと伝えておきたかったんだ」
………これは、まさか。
「リリス・ラングレー嬢、この日を待ち侘びておりました。私と……結婚して頂けますか?」
来月には婚姻が決まっています。
彼だって分かっていますのに。
「リリス……幸せにするよ」
もう、涙で前が見えませんわ。
「………はい、宜しくお願い致します」
その瞬間、静まり返っていた会場は大きな歓声と悲鳴に包まれたのでした。
その後実は大変だったんですわよ?
沢山の人数がいたため、魔力酔いを起こしたミハエルをお兄様が個室へ「担いで」移動。
「お前眼鏡は!」と言うお兄様の言葉に、「家に置いてきた」とミハエルが答えるものですから、お兄様大激怒。
「僕はお前の子守りをしに来たんじゃない!妹の晴れ姿を見に来たんだ!」
はぁ、お兄様には本当に申し訳ない事をしましたわ。
ミハエルが。
因みに、何故ミハエルが卒業パーティーでのプロポーズを選んだか…ですが。
それは自分自身のケジメと、私達の仲を周知させる為だったそうです。
ミハエルが普段「アレ」ですから、あわよくばと、私の愛人の座を狙っていた男性達が多かったらしく、牽制目的もあったようですわ。
つまり、私は自分のものだから近づくなと。
「リリスは俺のだから」
「ええ、十分分かってますわ」
「……軽い」
「もぅ、貴方だって私のものでしょ?」
「うん!」
「…………(犬耳と尻尾の幻覚が見えますわ)」
それから一月後、案の定卒業パーティーでミハエルの真の姿を知った令嬢方からのやっかみが多く、かなり大変でしたが、無事婚姻する事ができたのでした。
めでたしめでたし…ですわ(*^^*)
end
ご覧いただき有難う御座いました。
息抜きに甘いバカップルを書きたくなり、勢いで書いた感じです。
とりあえず三話完結にしましたが、中々良いカップリングでした。