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行方不明

 柳原理沙は課題にペンを走らせながら昔の事を考えていた。

 折道未来と初めて喋ったのはクラスの席替えで隣になった時の事。

 引っ込み思案で気の弱い私は正直に言って未来の事が苦手だった。

 臆せずハッキリと意見を口にするタイプで、私以外にも苦手意識を持っていた人も多かった。


 ある日、私は授業で使う教科書を忘れてしまい、誰かに見せてもらう勇気も出ずにビクビクしながら授業を受けていた。

 そして、こんな日に限って名指しで教科書を読めと言われる。


 私は、てんやわんやで半ばパニックになっていた。

 半泣きになりながら、忘れた事を伝えようとしたけど声がうまく出なかった。

 

 あの――。

 えっと――。

 その――。

 

 こんな言葉しか出てこなかった。

 そんな時、隣の席だった未来は手を上げて。

 

「先生、私が読んでもいいですか?」

 

 そうやって読み終わり席につくと、机を私の席に寄せて教科書をみせてくれた。

 私は、この日から未来の印象が大きく変わった。

 話す機会も増えて、少しづつ未来の人柄が分かってきた。

 彼女は凄く素直で真っ直ぐ性格だった。

 よく笑うし、感動する映画を見るとすぐ泣く。

 テレビでやっていた流行り物にすぐ食いついたりもする。

 

 日が進むにつれて、未来と話す機会も多くなり、いつの間に名前で呼ぶようになっていた。

 

 一緒に屋上でお弁当を食べたり――。

 街で買い物したり――。

 未来と友達になって初めて学校が楽しいと思えた。


 でも、ある日――。

 教員の1人が血相を変えて放課後の教室へ駆け込んできて、そのまま未来は職員室へ連れて行かれた。

 ただ事じゃないことは教師の様子から直ぐに分かった。


 職員室から出てきた未来から伝えられたのは――。

 両親の乗った車が事故にあったとの事だった。

 

 しばらく経って未来は学校へ登校してきた。

 その時はまだ、私の知っている未来のままだった。


 でも、時間が経つにつれて未来の表情から笑顔が消え、目を合わせなくなっていった。

 遂には私の事も拒絶しはじめた。


 話しかけないで――。

 放おっておいて――。


 毎日、そんな会話しか出来なくなっていった。

 周りの大人達は時間が解決してくれると言うけれど、次第に荒んでいく未来を見て私にはその時間が彼女を蝕んでいるようにしか思えなかった。

 

 このまま未来と距離を置いていいの――?


 ダメだ――。

 だから私は、拒絶されても毎日話しかけ続けた。

 いつか私の知ってる未来に戻ってくれると信じながら。


 それでも考えてしまう時がある。


 もしも――本当に迷惑な事だったら?

 もしも――本当にやめてほしいと思われていたら?

 もしも――本当に私の事が嫌いになっていたら――。


 そんな"もしも"が怖くてたまらない。

 もしも私の行動が未来を追い詰めてしまっていたら――。


 未来は――。

 

 いつの間にか軽快に走っていたペンは止まっていた。

 

「……」


 ジジジ――。

 ふと机の上にあったスマートフォンが震えている事に気がついた。

 

「電話?」

 液晶の画面を見ると、担任の先生からだった。


「はい、もしもし柳原です」

「もしもし――! 夜遅くにすまない!」

 先生の口調は少し早口で慌てているようだった。


「折道がそっちに行ったりしてないか!?」

「い、いえ――」

「そうか……」

「あ、あの、未来になにかあったんですか!?」

 先生は少し考えながら間をあけて言った。


「折道が家に帰ってないそうだ……」

 その言葉を聞いた瞬間、私の心臓は飛び跳ねる。

 

「本当なんですか!? 未来が家に帰ってないって!」

「ああ、家の人から連絡があって、もしかしたら柳原の所に連絡が行ってないかと思ったんだが」

「そうですか……」

「柳原、どこか心当たりはないか?」

「急に言われても……」

 

 理沙は必死に思考を巡らせる。

 

 一緒に街で買物した場所――。

 勉強に使う図書館――。

 お気に入りの飲食店――。

 よく使うコンビニ――。


 どれも違う、と思う。

 

 ふと、今日の未来を思い出す。

 ずっと窓の外をぼんやり見ているだけだった気がする。

 窓の外――。

 未来はずっと窓の外の"何を"みていた?


 未来はずっと――。

 

 スマートフォンを持つ手が震える。

 もしも未来がそこへ向かっているとしたら。


 絶対に止めないといけない――!

 

 理沙は、先生に行き先を伝えると乱暴にコートを羽織り勢いよく家を飛び出した。

 学校の屋上へ向かって――。

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