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迷子を見つけた日

なにか大事な事を忘れている気がする――。

 夕暮れ時の住宅街、を歩きながら考えていた。

 

 枯れた街路樹に一定間隔で置かれた街灯の一本道。

 空が少し赤みがかっている中を歩いていく。

 コツコツと、私の足音がいつもより大きく聞こえる気がする。

 その音が私の頭の中で色々な事を思い出させる。

 

 そういえばお母さんが居なくなる前に、何かワクワクした表情で居た事があった。

 結局なにを企んでいたのかは聞けないままになってしまったけど。

 何だったのか気になるが、今となっては知る術はない。

 

 「……はやく帰ろ」

 

 足早に一本道を歩いていくと、街路樹近くに小学生くらいの男の子が座り込んでいた。

 もう後三十分もすれば辺りは暗くなるのに親は何をやっているのだろうか?

 横目で通り過ぎようとした時、その男の子と目があった。

 

 だけど私は、そのまま通り過ぎ――。


 「はぁ……」

 

 そんな事が出来るはずもなく、男の子に声をかけることにした。

 困ってそうな人、ましてや子供を無視できるほど薄情ではない。

 私は腰を下ろし男の子と同じ目線になるよう姿勢を変える。

 

「こんな所で座ってると暗くなるよ」

「……」

「お母さんはどうしたの?」

「……」

「くっ……」

 

 日暮れまでもう時間がない。

 しかし、今の折道未来は子供を相手にする経験が圧倒的に不足していた。

 こんな事なら小学生を相手にするボランティアにでも参加しておけばよかったと思うくらいに。


 「あー……名前はなんて言うの、私は折道未来」

 「――っ」

 

 なにか喋ろうとしている様子はあるが、緊張して言葉にできないようだ。

 

 「ゆっくりでいいから、名前教えてくれる?」

 

 男の子に優しく尋ねる。

 

 「……つくり」

 「つくり?名前?」

 

 男の子は小さく頷き、私は質問をつづける。

 

 「つくりは何でここで座っていたの?」

 「お姉ちゃんを探してる。けど見つからない」

 「なるほど……」

 

 迷子か……。

 心のなかで面倒だと呟く。


 ふと視線を下に向ける。

 座っていた所の草が潰れて色が変わっている。

 かなり長い間座っていたのだろう。

 自分から迷子だと言わないのは小学生なりに男のプライドがあるのかもしれない。

 

 「もうすぐ暗くなるし、私もお姉ちゃん探すの手伝うよ」

 

 つくりは頷くと私の手を握った。

 面倒な事になってしまったが、このまま放置するわけにもいかない。

 

 しばらく住宅街を適当に歩いたが、時間も時間なので聞き込みをしようにも人がいない。

 それにしたって今日は極端に人通りが少ないと思う。

 なんてツイてないんだと、思いながらも通行人を探す。

 この辺の子供なら知っている人がいるかもしれないし、つくりって言う名前も特徴的だ。

 姉だって探しているだろうし、見つかるのも時間の問題だろう。


 そう思っていた――。


 三十分くらいたった頃だろうか。

 私は少しずつ違和感を感じ始めていた。

 初めに道の長さ。

 

 「この一本道ってこんなに長かった?」

 

 もう随分歩いている。

 普段なら住宅地は抜けて家についているはずだ。

 つくりを連れていることを考えても歩きすぎだと思う。

 

 疑問を抱えつつも住宅街を歩いていると、見覚えのある街路樹が目に入る。

 

「これって……」

 

 根本の草が円形に色が変わっている。

 これは”つくりが座っていた跡”だ。


「一体……なにがどうなっているの?」

 

 途中で引き換えした記憶はない――。

 ならば、似たような跡……だろうか?

 いや、それにしてはあまりにも似すぎている――。


 木に近づき、調べてみると、やはり同じ跡だった。

 まっすぐに歩いていたのにいつの間にか引き返していた?

 そこまで私は方向音痴ではないし、今日まで何回と通った道に迷うわけがない。

 

 ひとつ先の街路樹が目に入った時だった――。

 全身に悪寒が走る。

 

 今まで感じた事の無いような強烈な悪寒。

 まるで数百人に囲まれ、刃物を手に殺意を向けられているような危機感が、折道未来を襲った。

 

 逃げないと――!。

 考えるより先に、体が動いた。

 つくりの手を掴み全速力で反対方向へ一本道を走る。

 

 恐怖のせいで足に力がうまく入らない。

 ガタガタの両足になんとか力を込めて全力で走る。

 邪魔な学生カバンも途中で捨てて、少しでも早く遠くへ逃げようと必死だった。

 

 ――もうどれくらい走っただろうか?

 あれから三十分か一時間くらいは走っている。


 だが、折道未来の目に入ったのは。

 先程の”座っていた跡”がある街路樹だった。

 

 今度は間違いなく真っ直ぐに走っていたはずだ。

 絶対に引き返していない。

 しかし、眼の前の街路樹がそれを否定する。

 

 刹那、またあの悪寒が全身を襲った。

 ひとつ先の街路樹から視線を感じる。


 逃げないと――。

 

 だが全力疾走した折道未来にもう体力は残っていない。

 勇気を振り絞り、視線を向けた。

 恐怖で心拍数が上がり、冷や汗と震えが止まらない。

 

 静かに見据えたその先には――。

 モヤモヤした首のない子どもが、あるはずのない鋭い視線を向けながら立っていたのだった。

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