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07 え! 衆議院解散!?

 午前中の予算委員会を何とか乗り切った雨宮は、午後の予定も同じ調子で臨んだ。緊張の連続で精神的には疲労困憊だが、彼は政治家としての責任感に駆られ、議論に積極的に参加した。


 しかし、長時間にわたる議論でずっと座り続けたため、会議が終わるころには腰に痛みを感じていた。痛みを抑えつつも、雨宮はこの日の成果に一定の満足感を持ちながら、官邸への帰路についた。


「いたた、腰痛ぇ」


「お疲れ様です。今日の夜は、幹事長との食事です」


「え、そうだっけ? めんどくさいなー」


「もう、総理。そんなこと言わないでくださいよ。幹事長は、ベテランなんですから」


「あー、はいはい」


 疲労が顔に刻まれながらも、雨宮総理は、その日の残りの公務に臨むために覚悟を決めた。長い一日の予算委員会が終わり、体はもう休息を求めていたが、政治家としての役割はまだ終わっていなかった。


 彼はとにかく休みたかったが、幹事長との夕食の予定をすっかり忘れていたことに気がついた。その食事会はホテルニューオータニでのもので、あまりにも形式ばった場所での食事に内心うんざりしていた。官邸のキッチンでシェフが作る料理の方が、ずっと雨宮の好みに合っていて、リラックスできる空間だったからだ。


 それでも、予定通りに官邸を後にし、すでに待機していた専用車に乗り込んだ。いつもの運転手がハンドルを握り、秘書からの指示を受けていたのか、雨宮が車に乗り込むなりすぐに発車した。夕暮れ時の東京の街並みが窓外に流れていく中で、雨宮はほんの少し心を落ち着けようとしたが、頭の中はまだ予算委員会での議論や、これからの政策課題でいっぱいだった。


 車内では、彼は無意識にネクタイを緩め、少しでも楽な姿勢を取ろうとしていた。しかし、公の場での責任とプロトコルを守るために、きちんとした服装を整えなければならない。それが総理大臣としての義務であり、彼に課された役割だった。


 雨宮は眠ろうとしていたが、スマホの通知が鳴り、気になって見てみる。

 そこには、例の小説が更新されたとあった。


「お、きたきた」


 雨宮は、口角を上げながら読み耽った。


 ホテルに到着すると、運転手が車を滑らかに停め、ドアを開けた。雨宮は深呼吸を一つしてから、車から降りた。夕食会は、幹事長との重要な情報交換の場でもある。


 国の将来を左右するような話がテーブルを囲んで交わされることも多い。この日の夕食会でも、きっと多くの政策について話し合われるだろう。そう考えると、雨宮は再び緊張感を背負いながら、ホテルのエントランスを通り、レストランへと向かった。


 ホテルニューオータニの豪華なエントランスを通り抜けると、雨宮総理はその規模と豪華さに少しばかり圧倒された。普段は縁遠い高級ホテルの雰囲気に、彼は少し緊張を感じていた。


 彼を待っていたのは、既に到着している原幹事長で、上層階のプライベートなダイニングルームに案内された。

 部屋には、原幹事長の他に、片岡衆議院議長も同席しており、雨宮は急ぎ足で挨拶を交わした。原は政界の重鎮であり、この夕食会が重要な意思決定の場になることを、雨宮は感じ取っていた。


 ホテルニューオータニの上層階にあるダイニングルームは、高級感に溢れ、落ち着いた照明が空間に柔らかな雰囲気を加えていた。雨宮は入室するや否や、原幹事長から温かく迎えられ、彼は緊張を少し和らげながら席に着いた。部屋はゆったりとした造りで、大きな窓からは都心の夜景が一望でき、そこはまさに隠れ家的な雰囲気を醸し出していた。


 片岡衆議院議長は、すでに高級ワインを数杯楽しんでいるようだったが、その様子はまだしっかりしており、酒に酔っている様子はなかった。

 自分もワイングラスを手に取った。彼の隣では原幹事長がリラックスした様子で座っており、雨宮の労をねぎらいつつ、会話をリードしていた。


「お疲れさん」と片岡が声をかけると、雨宮は感謝の意を示しつつ、本日の予算委員会の話題に触れた。

 雨宮は幹事長が推薦してくれた車田国交大臣や川畑法務大臣の功績を賞賛し、そのおかげで委員会を無事に乗り切ることができたと感謝の意を表した。

 原はその言葉に大きな笑い声を上げ、雰囲気をさらに和やかにした。


 そして、食事の途中で原が突然、重要な提案を持ちかけた。


「そろそろ、衆議院解散してみないか?」


 雨宮にとって思いがけないものであった。この提案は、彼にとって新たな試練の予感をもたらした。確かに、支持率は高く、政治的には有利なタイミングかもしれないが、彼はその決断が少し早すぎるのではないかと内心で考えた。


「え⁈ 解散ですか⁈ ちょっと時期尚早じゃないですか?」と雨宮は慎重に返答したが、原はそれを聞き入れず、「何を言ってるんだ。今がチャンスだ。今なら、あの平井を陥落できるかもしれない」とも強く主張した。


 この場での原の決意と確信に満ちた言葉に、雨宮はさらに深く考え込むこととなった。夜の都市の灯りが窓外にきらめく中、彼は国の未来を左右する重大な選択に直面していることを痛感していた。


 雨宮総理は確かに理解していた。来年で衆議院の任期が終了し、遅かれ早かれ解散は必須である。


 しかし、原幹事長の提案には躊躇が残る。

 まだ首相就任から一週間足らず、このタイミングでの解散となれば、それは史上最短の解散記録を更新することになる。政治基盤がまだ固まっていない中での選挙は、多くのリスクを伴う。


 雨宮は、この重要な決断に対して、さらなる検討と慎重な判断が必要だと感じていた。


「ですが……」


「雨宮、今一番支持率が高いんだ。来年まで待って、若手の閣僚の失言が出てきたらどうする。鉄は熱いうちに打てだ」


「片岡君の言う通りだ」


「はあ……」


 雨宮は、原幹事長と片岡衆議院議長の説得に押され、渋々解散に同意した。


 食事会が実は衆議院解散の打ち合わせだったことを知り、疲労とストレスからか、頭痛がしてきた。

 食事会を後にして車に乗り込むと、その日の緊張と疲れから解放されるために、ほとんど意識を失うように深く眠り込んだ。

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