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06 論戦バトル

 国会議事堂に向かう道中、雨宮総理の心境は穏やかではなかった。この日の予算委員会は、彼の政権運営における初めての大きな公の試練であり、その成否が今後の政治生命を左右する可能性があったからだ。


 朝の永田町は、いつも通りの喧噪に包まれている。政治家、記者、官僚たちが目的地へ急ぎ足で移動していく様子が、この地が日本の政治の中心であることを改めて物語っていた。


 車内では、高尾外務大臣との軽い雑談が交わされる。彼女は、国際舞台での対応に追われる中でも、常に冷静さを保ち続ける人物である。その冷静さが雨宮にとっては心強い支えとなっていた。話題は世界情勢から国内政策にまで及び、高尾大臣の洞察には専門的な深さがある。


 国会エントランスで、森川経済産業大臣が合流した。彼は以前から雨宮と親交が深く、いつも雨宮を励ます存在だった。その日も例外ではなく、「今日はちゃんと準備できてるか?」とからかい半分に声をかける。


 雨宮は「しっかりと対策は練ってあります。心配無用です」と笑顔で返答したが、内心では緊張の糸が張り詰めていた。


 雨宮総理の政策チームは、過去数週間を費やして今日の委員会に向けて準備を進めてきた。予算案の精査、主要議題に対する質問想定とその回答、野党の攻勢に対する対策など、細部にわたる準備が行われていた。


 彼にとって、この委員会はただの政策審議ではなく、自身の政治哲学と政権の方針を国民に示す絶好の機会でもあった。


 政治家たち、記者たち、そして警備の人々が忙しなく動く中、雨宮総理は国会議事堂へと足を踏み入れた。その瞬間、彼の肩にのしかかる重圧を、周囲の喧騒が一層際立たせた。


 しかし、国を動かす重責を担う総理として、彼はその一日に冷静かつ堂々と臨む覚悟を固めていた。今日の予算委員会が成功することで、彼の政権はさらなる信頼を得ることができる。そしてそれは、彼が政治家として目指す未来への一歩となるだろう。


「おお、総理。今日はちゃんと遅れずにきたんだな」


「うるせぇ。やるときはやるんだよ」


 雨宮は半ば冗談を返しつつも、内心では委員会の重圧を感じていた。


 その日の予算委員会で掲げられた議題は、消費税の是非についてだった。前内閣による消費税増税の方針は、多くの国民から不安の声が挙がっていた。雨宮内閣はこの問題に対して、異なるアプローチを提案している。


 具体的には、税率の引き上げではなく、税制の見直しと公共支出の効率化を進めることで、財政の健全化を図る計画を掲げていた。これが、彼の政権運営における初めての大きな公のテストとなり、国民や野党からの反応が政権の行方を大きく左右することになるだろう。


「現段階では考えていないと申し上げております」と雨宮は冷静に答えたが、野党の平井はそれに食い下がる。


「現段階ではじゃなくて、永久的にやらないとなぜ宣言できないんです? どこかにやる気があるんじゃないですか? 総理?」


「永久的にしないかどうかは、その時々の状況によります」と雨宮は静かに応じた。彼の答えは、経済の不確実性と責任の所在を考慮したものだった。


 次に議論の火花が散ったのは賃金の問題だ。野党の追及は続き、日本の賃金停滞が国民生活に与える影響について、雨宮総理の対策と具体的な政策を厳しく問い質した。


「絶対ですね?」と平井が詰め寄る中、雨宮は断固として言い切った。


「はい」


 しかし、財源に関する問題提起には、「国債です」としか答えられなかった。これがまた新たな火種を生んだ。


「えー、それはどうですかねぇ? 国民の負担が増えるわけでしょ? それで国民は納得すると思いますか?」


 この問いに対して、大財(おおたから)財務大臣が応じる。


「お答え申し上げます。国債について誤解があるようですが、これは直接的に国民の皆様が負担するものではありません。実際には、政府が将来の収益に基づいて市場から資金を調達する形です。平井議員、この点については誤解があるようですので、より深く学んでいただければと思います。国民の皆様の直接的な負担は増えませんので、その点はご安心ください」


 平井の一時的な沈黙に、雨宮は内心で安堵の息をついた。 

 しかし、予算委員会の緊張はこれからが本番だ。前半のやり取りはただの序章に過ぎず、後半では更に厳しい議論が待ち受けている。


 雨宮内閣の政策方向と実行力が、これから本格的に試されることになる。国の未来を左右する重要な局面で、彼のリーダーシップが国民にどう映るかが、政権の運命を決定づけることになるだろう。

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