56 関税の撤廃
「総理、今日はEU諸国とのビデオ会談ですよ。大丈夫ですか?」
「え、ああ、大丈夫大丈夫」
坂本が用意してくれた台本を読みながら、紅茶を飲む。
夢で何も見なかったからか、今日の気分はいい。
(いやー、それにしてもあの平井ってやつすげぇバケモンとか似合いそうだよな。なんかの映画で、主演に抜擢されそう)
雨宮は、台本を読みながら、妄想に耽った。激務を続けていると、少しくらい休息は必要だ。平井の顔をイメージしながら、ハリー・ポッターの敵に出したら面白そうなどと、クスクス笑う。
「総理、何笑ってるんですか?」
「え、俺笑ってた?」
「はい。クスクス笑ってましたよ」
「え、すまんすまん」
雨宮は気を取り直し、自分の前に広げられた台本を再び睨んだ。その中身は、輸出入に関する細かな調査結果、外務大臣の海外訪問の概要、そして関税体系の見直しに関する提案が含まれていた。
これらは一見ありきたりな内容に見えるかもしれないが、国の経済政策においては、これらの点が極めて重要な位置を占めている。
『輸出入のバランスを見直し、新興市場への進出を図ることで、我が国の産業基盤を強化する』
台本にはそう書かれていた。経済産業大臣としての外務大臣の訪問は、そのような新興市場への橋渡しとして計画されているのだ。
関税の見直しについては、『現行の関税体系では、国際貿易のトレンドに即応できていない。特にデジタル財の取引において、より柔軟な対応が求められる』などと指摘されていた。
これには、国際貿易協定の見直しや、二国間の貿易協定における新たな条項の交渉が含まれる可能性があった。
外務大臣の訪問では、相手国との経済関係をさらに深めるために、相互の利益となる複数の貿易合意が目指されている。具体的には、『持続可能な開発目標(SDGs)に基づく環境技術の共有』や『エネルギー安全保障の強化を目的とした資源開発協力』などが議題に上がると見られていた。
雨宮は、これらの重要な項目を押さえつつ、自分自身の言葉で国民に理解しやすく伝える方法を模索していた。経済的なジャーゴンを織り交ぜつつも、その本質を明確にすることが彼の役割である。
台本の隅には、『経済安全保障を強化し、国民の生活を守る。これが我々の使命である』というフレーズが添えられていた。これが今日のスピーチのクライマックスであり、最も力強く伝えるべきメッセージだった。
そして、無事にビデオ会談が始まった。フランス大統領は強硬派で、なかなか雨宮の理論を理解してもらえなかった。
一方の、ドイツやチェコ、オーストリアやイタリアは雨宮の理論を支持してくれた。
「Thank you so much」
そう言うと、ビデオ会談は終わった。
二時間にわたって話し合ったが、意外にも疲れはなかった。やはり、オンライン上の対談は、リアルよりも楽にできるのだ。
「いやー、疲れた」
「お疲れ様です。総理」
職務は、流れるようにやってきては終わって行く。雨宮は、そんな日を送っていた。
「あ、総理。今度、衆議院の予算委員会なんですけど、これどうします?」
「え? どれどれ?」
坂本が示したのは、アメリカにかけられている関税の撤廃だ。
「あー。これねぇ。関税同盟制覇しちゃうか」
「は?」
雨宮は、ニコニコしながらお手洗いに行くと言って、部屋を出て行った。




