55 参議院予算委員会
参議院予算委員会が定刻通りに開始されると、会場の空気は一変した。初めに質疑応答の機会を得たのは野党の重鎮、平井議員である。彼は経済政策と社会保障について、政府の姿勢を厳しく問うことで知られている。
雨宮は、平井の顔を睨んだ。
(どうも、最近どっかで見たような……)
「コホン! 総理、いいですか? そんなに見つめないでください」
議場は、笑いに包まれた。雨宮は、自らの行いを恥じ、進めてくれと議長に言う。
平井議員は、微細な資料を机に広げつつ、森川経済産業大臣への質問を準備していた。彼の質問は予算案に関するもので、特に新たに提案された福祉関連の支出増加に対する持続可能性と効果の両面から迫るものだった。議場内はピンと張り詰めた空気に包まれ、彼の言葉一つ一つに耳を傾ける議員たちの緊張が感じられた。
「この予算案では、特に高齢者福祉に多額の予算を割り当てていますが、これによる長期的な国の財政健全性について、大臣はどのようにお考えですか?」と平井議員は問うた。
この問いに、森川経済産業大臣は一瞬のためらいも見せず、「我が国の高齢化率の上昇に伴い、持続可能な福祉政策を展開することは政府の責任です。各分野に投資することで、将来的な社会保障費の増大を抑制し、財政健全性を保つことができると考えています」と答えた。
議場の空気はさらに重くなり、次の質問に向けて、平井議員は更に資料を調べながら、国会の場における重要な問題提起を続けた。このやりとりは、政策の是非を巡る重要な討論の場となり、参議院予算委員会はその日、多くの政治的な洞察と戦略が交錯する戦場と化した。
その後、数名の議員の質疑を終え、一旦の休憩が挟まれた。
「総理、どうしました? なんか体調良くないように見えますけど?」
隣の大財財務大臣が心配そうに訊いてきた。
「いや、大丈夫。ごめんごめん」
「ならいいですけど」
ため息をついた。
(はー、やっぱやべえな。どうにもおかしい)
テーブルの上の水を飲む。その間も、平井の顔を確認する。やはり、どこかで見たことがある。
「うーん、なんだっけなぁ」
「え?」
大財が振り向いた。
「あ、すまん。独り言」
「ああ……」
まずい、パフォーマンスが下がってしまう。
午後の参議院の予算委員会を無事に終えた雨宮は、すぐに部屋に戻って眠りについた。
きっと、昨日椅子で眠ってしまったからだ。
そう言い聞かせる。
この日は、夢を見なかった。何も見なかった。




