52 ダイナミックな戦い
「ま、まさか……」
その正体は、巨大化した森川だった。
暗闇に現れた巨大な姿の森川は、予測不可能な動きで四人を圧倒していた。周囲は、その途方もない大きさにただただ茫然自失としていた。雨宮が名を呼ぶと、森川の目には一瞬、かつての光が戻るように見えたが、すぐに邪悪な光に変わってしまった。
「よぉ、雨宮」と低く響く声。その声は森川であることを確信させたが、その言葉はかつての友を感じさせるものではなかった。
「も、森川! 目を覚ますんだ!」と雨宮が必死に呼びかけるが、森川は冷笑を浮かべ、「お前も、ヒーライ様の手下になるがいい」と言い放った。
「なんだと!」原が声を上げ、信じられないという表情で森川を睨む。森川の言葉は彼らにとって裏切りに等しく、その衝撃は計り知れなかった。
その瞬間、森川は手を振ると、空気が震えるような音とともに黒い弾丸を発射した。その弾丸は異常な速度で飛んできて、逃げ場を求める者たちに追いつくのは時間の問題だった。逃走を試みるが、その巨大な弾丸は追い越していった。
「今のは威嚇だ」
周囲の空気は一瞬で緊張に包まれ、恐怖が全員の心を支配した。原や勘解由小路は、ただ恐怖に震えながらもなんとか立ち向かおうと姿勢を正したが、彼らの表情は極度の不安で歪んでいた。
このままでは、ただ被害を受けるのを待つだけであることを誰もが理解していた。それでも彼らは、友であった森川を何とか取り戻そうと、絶望的な戦いに挑んでいくことを決意していた。
「総理、ここは話をしても無駄だ。実力で叩きのめすしかない」
「で、でも……」
「大丈夫だ。あの四天王にやったような攻撃はしない。軽く殴るだけだ」
原に説得され、雨宮は攻撃を任せた。
「おい! 森川! よく聞け!」
原が腰に手を当て、ボキボキと鳴らしてから言った。
森川は、一瞬動きを止めたが、すぐに同じ攻撃を放ってきた。
しかし、原は得意げな笑みを浮かべ、「フフフ、エアーズ・ロック!!!」と叫んだ。
空気が一瞬、凍りついたかのような沈黙が訪れた。それから地面が轟音を立てて揺れ、一つの巨大な一枚岩がむくむくと地表から盛り上がってきた。エアーズ・ロックの鮮やかな赤い色が日光を浴びて煌めき、その壮大な姿に周囲が圧倒された。
森川の黒い弾丸がその巨岩にぶつかり、まるで丸めた新聞紙が壁に投げつけられたかのように無力だった。岩の表面にわずかな傷すらつかず、弾丸は地面に落ちて砕け散った。
森川はその無様な結果に顔を歪め、「っな!」と叫ぶ。原が嘲るように、「フフフ、どうだ森川ぁ!!」と追い打ちをかけた。それまでの威勢が一気に失われ、森川は悔しさを露わにし、「クソッッ!」と声を荒げて地団駄を踏んだ。
しかし、原はそこで止まらなかった。彼はさらにその力を見せつけるかのように次の行動に出た。手を高く掲げ、再び地面に力を込めると、「マチュ・ピチュ!」と大声で叫んだ。すると、今度はペルーの神秘的な岩の城が立ち上がり、森川の前に立ちはだかった。その石垣は固く、複雑な迷路のような構造が彼の進路を完全に塞ぎ、一瞬で彼を取り囲んだ。
森川は一瞬たりともその動きを予測できずにいた。マチュ・ピチュの巧妙な石の壁に囲まれ、どこへ進むべきか途方に暮れた。その壁はただの障害物ではなく、彼の心理をも揺さぶるかのように立ちはだかっていた。
その間にも、原は次なる世界遺産を召喚しようとしていた。今度は「アンコール・ワット!!!」と力強く叫びながら、カンボジアの古代遺跡の壮大な塔と壁が現れた。これらの壁は森川を完全に封じ込め、彼の全ての攻撃を跳ね返した。
森川は、これら一連の世界遺産の攻撃に完全に翻弄され、ついには力尽きた様子を見せ始める。彼の身体が弱まると、彼の周囲の空気も重くなり、その場に崩れ落ちそうになった。
最後に、原は「万里の長城!!!!!」と叫び、中国の長城が地平線まで無尽蔵に広がり、森川の最後の退路を断った。
森川は完全に孤立し、動きを封じられてしまった。彼の顔には敗北を認める苦悶の表情が浮かび、とうとう戦いを放棄するしかなくなった。
「総理、追い詰めたぞ! やってやれ!!!」
「お、おう」
さすがの雨宮も、原の展開にはついていけなかった。
しかし、どこかで雨宮のスイッチが入った。
「お前の負けだ。森川。今俺の支持率は全国で80%を超えている! 対してお前の国は財政破綻の真っ最中! これで俺の勝ちだぁぁぁ!!!」
そう言って拳を振り下ろす雨宮。
しかし、なんと森川はその拳を受け止めたのだ!
「何ぃ!!!???」
「ふぅ…危ない危ない。残念だったなぁ雨宮ぁ! たった今! 我が国の財政状況は回復したぁ!」
「くはぁっ! ば、バカな、こんな短期間で一体」
「突然だが…アウトバーンって知っているか。ドイツの独裁者が作った高速道路だ。この高速道路は失業者に職を与えるために建設を開始したそうだ。だから俺もそれを見習って失業者たちに職を与えた!我が国に城を作るという仕事をなぁ!」
「だが、お前の国にそんな資材も建築者もいないはずだ! どうやって?」
「察しが悪いなあ? あぁ? 1人いるだろう?
建造物ならなんでも作り出せる男が!」
「まさか!?」
「そうだっ!国土交通省、車田伝写! 俺は奴と協定を結んだ!」
「なんだと……そんな情報どこにも」
「それだけじゃあない! 農林水産省の杉林、法務省の川畑、厚労省の高尾とも同盟を結び、俺は新たな内閣、ギランバレー連合国をここに成立した!!
「なんだと……こんな、こんなっ短期間に……だがっ! お前の財政が回復したからと言ってる俺が弱くなったわけじゃねーんだよっ!」
森川はニヤリと笑う。
「おいおい雨宮。お前は気づいてないのか?」
「?……っ!? なんでだっ!? 俺の力が……支持率か下がっている!?」
「冷静に考えてみろ。こっちは中枢の省が合体した巨大連合国。しかしお前の味方どうだぁ!? ん!? こども家庭庁しかいないじゃないか! そんな奴に誰がついていくと言うんだ!?」
「しまった……こども家庭庁の創設が裏目に出てしまったかあ……!」
「策士策に溺れるとはまさにこのことだな! ほら、フォロワーが見ているぞ? 得意の演説をしろよ?」
「ぐ……そ……」
「お前自分で言ってたよなぁ? 政治はスローガンじゃない結果だと、支持率があるだけのお前と短期間で結果出せた俺! 国民はどちらを選ぶだろうなぁ?!」
「…ふふ」
しかし、負けずと雨宮は不敵に笑う。
「森川……。俺がお前がこういうことに出るということを予想しなかったとでも?」
「な、なに?」
「原さん、出番だ!」
「いや、また原かよ!!」
「おい、呼び捨てにするな!」
原は、森川の呼び捨てに一瞬たりとも憤りを隠せず、その怒りは彼の魔法へと直結した。地響きが轟き、突然の召喚で周囲の空気が震える中、ノートルダム大聖堂が勢い良く地面から姿を現した。
このゴシック建築の傑作は、その巨大な二つの塔を天に向かって突き立て、荘厳な姿を雲間に刻み込む。
「どうだ、これが我が力だ!」と原は宣言した。彼の声は力強く、その場にいる全員に圧倒的な存在感を感じさせるものであった。森川は、突如現れた大聖堂の姿に一瞬動きを止め、その圧巻の美しさと迫力に圧倒された。
原は、さらにその力を示すため、両手を高く挙げた。ノートルダム大聖堂の二つの塔の間に、青白い電気が蠢き始めた。それは徐々に強度を増し、まるで天と地を結ぶ巨大な電撃のアーチのようになっていった。空気がパチパチと音を立て、電気の香りが辺り一面を包む。
「受けてみぃ、森川!」と原が叫ぶと、彼が指先から解き放った電気が大聖堂の塔を経由して森川に向けて放たれた。この電撃はただの攻撃ではなく、正義の裁きのように森川に襲い掛かった。一瞬にして、彼の体は電気で完全に包まれ、地面に崩れ落ちた。
森川の体からは煙が立ちのぼり、彼の服は所々焦げ、身動き一つできなくなっていた。その様子はまさに圧倒的な敗北を象徴しており、原はその結果に満足の表情を浮かべた。
場の空気は一変し、原の圧倒的な力を前にした森川は、完全に意気消沈していた。原はその勝利をもって、ただちに森川の敗北を宣告し、「これで終わりだ」と静かに告げた。そして、ノートルダム大聖堂は静かにその姿を消し、戦いは幕を閉じた。
原の行動が、雨宮内閣に新たな勝利と希望をもたらしたのであった。
「原さん、やべぇって……」
雨宮と勘解由小路は、さすがに原のテンションにはついていけなかった。
「おい、森川!」
森川は、ゆっくりと体を起こした。
「……ん、ここは?」
「記憶ねぇのか?」
「ああ……」
雨宮たちは、先ほどまでの経緯を言って、聞かせると、森川は原に土下座して、呼び捨てにしたことを詫びた。
原は、よしよしと森川の頭を撫でたあと、背中をドンと叩いた。
それは、森川と内閣の友情を確認するものだった。




