50 目には芽を、歯には葉を!?
「魔王様、デデューサがやられました」
ヒーライ国、ヒーライ市、ヒーライ宮殿にて。
ヒーライ魔王は、手下の報告に舌打ちをした。
デデューサというのは、あのヘビ髪四天王のことだ。
「おい。お前ら、状況はどうなってるんだ」
ヒーライは、手下にドスのきいた声で訊ねた。
「は! 現在、デデューサ以外の三名は、各地の都市を破壊しております。すでに、二カ国が我が国の関税に賛成しております」
「フーン。まあ、あいつらも少しは骨があるようだな」
ヒーライは、鼻の穴をほじりながら言った。
「おい、モリカワ」
「はは!」
操られた森川は、ヒーライの前に跪いている。
「お前、GDPが戦隊力になるんだよな?」
「はい、そうでございます。ヒーライ様」
「うんむ。我が国のGDPは上々だ。アメミヤとやらをやってこい」
「は!」
森川は、悪魔のようにニヤリと笑い、飛んでいった。
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「原さんがいたら怖くねぇな」
勘解由小路は、やはり原の能力があれば勝てると思っているようだ。
雨宮も同じことを考えていた。
「いや、みんながいてくれるからだ」
原は、謙遜しつつも鼻の下を伸ばしている。よほど、褒められるのが嬉しいようだ。
その時、黒いペガサスに乗る四天王が空から現れた。
「おい。お前ら、デデューサを殺したようだな」
「え?」
「あいつ誰だっけ?」
「森川さんたちを操ったやつよ」
「あー」
「え、デデューサって何?」
「多分、あのヘビ女よ」
「あー」
意味もない会話が続いた。その間、黒いペガサスに乗った四天王は、イライラしながらその会話が終わるのを待っていた。
「いいか! よく聞け! 目には目を、歯には歯をだ!」
内閣閣僚は、その怒号に思わず居住まいを正した。
「今から、お前らを始末する。覚悟しろ」
「誰がお前なんかにやられるかよ! ブラックペガサスくんよ」
ブラックペガサスは、怒り任せにうるせぇと叫んだ。
筋骨隆々の漆黒の身体は、堂前と福本の視線を集めた。
「やだ、ちょっといい体じゃない?」
「ええ、確かに」
「おい! なに魅力感じてんだ」
原に指摘され、あっと恥ずかしそうに顔を背けた。
ブラックペガサスは、黒い光線を吐いてきた。一同は、すぐにかわしたが、その光線を浴びた草地は、瞬く間に枯れてしまった。
「うわ、ひどいわ……」
「くそ!」
こちらの怒りのボルテージも上がってきた。特に、林農林水産大臣は、声は出さなかったものの、怒りマークを額に浮かべていた。
枯れた地面を見て、堂前も叫んだ。
「グレゴール・ヨハン・メンデル!」
堂前は、枯れた植物から連想したのか、えんどう豆でお馴染みのメンデルの名を叫んだ。
彼女の叫び声がこだまする中、空中には突如として緑色の輝く魔法陣が描かれ始めた。その魔法陣から、なんと壮麗な装束を身に纏った男性がゆっくりと降りてきた。彼の姿は、学者の風格を漂わせつつも、戦場に舞い降りた天使のようにも見えた。
「私に用かね?」とその男性、メンデルが落ち着いた声で尋ねる。その声には威厳があり、どこか遠い昔から時を超えてきたような重みがあった。
「メンデルさん、あのペガサスをやっつけてください!」と堂前が叫ぶと、メンデルはしっかりと頷いた。彼の動作一つ一つには計算された落ち着きがあり、どんな状況でも動じない強さが感じられた。
そんな彼はポケットからえんどう豆を一つ取り出し、それに対して何やら古風な言葉で呪文を唱え始めた。その呪文は風を呼び、土を躍らせ、周囲の自然さえも彼の魔法のリズムに合わせて揺れ動かした。彼の指の動きに合わせ、えんどう豆は次第に巨大化し、やがて彼の手のひらを完全に覆うほどの大きさになった。
巨大なえんどう豆を手にしたメンデルは、それを力強く殴る。その一撃は雷鳴のような音を立て、その衝撃波が周囲を震わせた。殴られたえんどう豆からは、無数の小さな豆が飛び出し、それらはまるで無数の矢のようにペガサスに向かって飛んでいった。
その様は、BB弾が一斉に発射されるが如く、夥しい数の豆が空を埋め尽くし、ペガサスへと迫る光景は、まるで銀河を思わせる壮大なスペクタクルだった。
ペガサスは突如襲い来る豆の雨に驚き、その美しい翼を大きくバタつかせながら回避しようとしたが、豆の数はあまりにも多く、そのすべてを避けることは不可能だった。一つ一つの豆が命中するたびにペガサスは苦痛の声を上げ、その威厳ある姿が少しずつ泥に塗れたように見えてきた。
メンデルの冷静さと科学の力が、異世界の魔法と絶妙に融合していた。彼の戦い方は、古くからの伝統と新しい時代の知識が交じり合った、まさに時空を超えた英雄的な行動であり、その場にいた者たちはその壮絶な戦いにただただ圧倒されるのだった。
メンデルの豆から解き放たれた緑の力は、その場にいた全員を圧倒した。一瞬のうちにブラックペガサスはその圧倒的な力によって消滅し、その場にはただ、広がる緑の豆だけが残された。雨宮はその光景を目の当たりにし、数の力の重要性を改めて感じていた。彼の心の中で、「数の暴力とはこのことだ」という思いが強くなる。
周囲を見渡せば、その豆は地面に落ち、既に芽生え始めていた。かつて黒いブレスが吹き荒れた荒れ地が、たった今、新しい生命を宿し始めている。この不思議な光景は、戦いの中でも自然の回復力と生命の再生力を感じさせるものだった。
「おお、すぐ育つんだな」と原が感心しながら言った。彼は地面に屈み、豆から芽生えた新緑をじっくりと観察している。その姿は、この混沌とした戦いの中で一瞬の平和と希望を見出しているかのようだった。
一方、堂前はメンデルに深く感謝の意を表し、「ありがとうございました」と声をかけた。その声に応えるように、再び緑色の魔法陣が堂前の足元に現れた。メンデルはその魔法陣を通じてゆっくりと消えていき、彼の姿は次第に薄れ、やがて完全に見えなくなった。
その場に残されたのは、彼が持ってきた希望と再生の象徴である新緑だけ。全員がその緑に囲まれながら、少しでもこの瞬間の平和を噛みしめるように立ち尽くしていた。彼らの心には、この奇跡的な回復が新たな力となり、これからの戦いを乗り越える勇気を与えていた。
「あいつ、目には目をとか言ってたけど、大したことなかったな」
勘解由小路が言った。
「目には芽をだな」
「おお、上手いこと言うなぁ。じゃあ、歯には葉をだな」
片岡も勘解由小路に続いた。




