48 反撃開始
朝日がぼんやりと地平線を染め始めたが、その日の空は厚い雲に覆われており、どこか陰鬱な雰囲気を醸していた。
しかし、その曇り空の下では、ほど良い涼しさが広がり、日常生活が戦争の影を一時的に忘れさせるかのような穏やかさが漂っていた。もしもこの日が戦争のないただの平和な日であれば、と雨宮は思いを馳せながら、ゆっくりと目を覚ました。
彼の視界がクリアになると、そこにはすでに起き出していた原の姿があった。原は朝の光を背に受けながら、何か大きな決断を下すかのような意気込みを身に纏い、雨宮に向かって笑顔を見せていた。「お、総理も起きたか」という彼の声には、これから始まる一日に対する覚悟が込められているような気がした。
雨宮はその声に心を動かされつつも、淡々と日常の一部のように迎えたこの朝が、どれだけ尊いものであるかを改めて感じた。戦争がもたらす非日常とは裏腹に、原の存在が彼に安心感を与え、この曇り空の下でも彼らの間には小さな希望の光が射していた。
昼前にゆっくりと活気づき始めた。朝の冷え込みが徐々に解け、温かな日差しが木々の間を縫うように地面を照らしていた。
しかし、その穏やかな光景とは裏腹に、空気は緊張で張り詰めていた。この地での戦いが、これまでの妖精たちの援助なしで、自らのスキルと知恵のみを頼りに進めなければならないという重圧が、一行にのしかかっていた。
雨宮は、緊張を解すために深呼吸を繰り返し、周囲を見渡した。彼の思考は戦略と戦術に向けられていたが、心のどこかで、他の都市の安否が気にかかっていた。
「首都もやられたのだろうか」という不安が彼の心をよぎる。彼らがここにいる間に、どれだけの土地が荒廃しているのだろうかという想像は、彼にとって耐えがたい重さだった。
そして、この戦争の発端についても思索が及んだ。全てはヒーライという魔王が導入しようとした高額な関税から始まった。この経済的圧力を回避しようとする過程で、全てが複雑化し、今に至る戦争へと発展していったのだ。
国王がもし関税に賛成していれば、という仮定の問いは、雨宮にとってはただの空想であり、彼はそれを追求することなく、現実を直視した。
しかし、彼は総理大臣として、国王の政策は尊重するしかなかった。それが国民を守るための選択であり、その責任を背負う覚悟が彼にはあったのだから。
その決断が今の彼を形作っており、どんな困難も乗り越える力を彼に与えていた。周囲の閣僚たちもまた、それぞれが自分の役割を理解し、一致団結して前に進む準備をしていた。彼らの表情からは、確固たる意志とともに、この戦いを通じて得た絆の深さが感じられた。それは彼らがこれから直面するであろう数々の試練に対する、大きな心の支えとなっていた。
ゆっくりと歩き始める。辺りは平和的で、特に戦争があるような気もしない。しかし、雨宮たちは昨日の恐ろしい出来事が脳内に焼き付いてる。
「みんな、大変なことに巻き込まれてすまない」
雨宮は、唐突に振り返り、皆に頭を下げた。しかし、他の閣僚はすぐにその言葉を跳ね返した。
「謝らなくてもいいんですよ、総理」
福本は、柔らかい視線を雨宮に向けた。続いて、大柄の国破や最高齢の勘解由小路らも優しく微笑みかけた。
雨宮は、あらためて仲間に助けられているのだなと感じた。
「いっちょやってやるか!」国破の声は戦場のど真ん中で鳴り響く太鼓の如く、力強く響き渡った。
彼が大きく手を叩くと、その音はまるで戦の号令のように、一行の士気を一気に高めた。その鼓舞する音は明るく、まるで未来に向かって進むための力強い一歩を踏み出すように彼らを奮い立たせた。
片岡と護が雨宮の肩を叩くときのその手つきには、仲間としての絆と信頼が込められており、そのひと触れが雨宮に新たなエネルギーを注ぎ込む。彼らの動作からは、厳しい状況の中でも決して諦めない強さが伝わってきた。
「ありがとう、みんな!」雨宮の声は感謝と決意に満ちており、その言葉が彼の心から出たものであることは誰の目にも明らかだった。一同は力強く縦に頷き、その一体感が彼らの間に流れる空気を一層厚くした。
それはまさに、雨宮内閣が一丸となって逆境に立ち向かう準備ができていることの明確な証であり、彼らの団結力の象徴であった。
この瞬間、雨宮内閣のメンバーたちはただの政府高官ではなく、困難な道を共に歩む戦士として、互いに確固たる信頼を築いていた。そして、その信頼こそが彼らを未来へと導く最大の力となることを、彼ら自身が最も強く感じていた。




