46 裏切りと今生の別れ?
「嘘だろ!」
「大丈夫か!」
原は戦場の荒れ地に咲く一輪の花のように、悲痛な叫び声を上げながら、倒れ込んだ森川たちを力一杯抱え上げた。
その姿は、絶望の中でさえも友情と絆を守ろうとする光景だった。森川の体はぐったりと力を失っており、周りに集まった勘解由小路、大財、国破も一様に顔に憂いを浮かべ、急ぎ足で彼の元に駆け寄った。
一方、四天王は彼らの悲劇を見下ろしながら、ケラケラと嘲笑う。その笑い声は、冷たく虚ろな戦場に響き渡り、周囲の空気までもが凍り付くようだった。
彼らの周りで群がるバケモノたちは、その非情な攻撃に拍手喝采を送っている。しかし、その背後では、四天王自身が自らの取り巻きたちにも怒りを露わにしていた。
「お前らが何もできないから私たちが出る羽目になったじゃないか」と、彼らは部下たちを一喝し、その言葉は鋭い刃のように空を切り裂いた。
雨宮自身は、この無力感に打ちひしがれながらも、どうすることもできない自分の立場に深い罪悪感を感じていた。
かつては国民からの厚い支持を受け、力強く政治をリードしてきたが、今は支持率が低迷し、彼の言葉に耳を貸す者は少ない。この状況において、雨宮は自分にできることが何もないことを痛感し、彼の心は重い鉛のように沈んでいった。
戦場の風は冷たく、散り散りになった友との絆を思う時、雨宮の目からは静かに涙が零れ落ちた。この無力感は、この厳しい現実を前にして、さらに彼の魂を重く圧迫していった。
彼の心の奥底には、何かを変えられるという微かな希望が少しずつ消え失せていった。この絶望の中でさえ、雨宮は内閣総理大臣として、その光を見失うことなく、何か一筋の光を見出そうとしなければならないのに。
「総理、これはまずいぞ」
勘解由小路の額には大粒の汗が浮かび、その表情は疲労と熱気でほてっていた。戦闘の最前線で戦い続ける彼の姿は、疲れと熱さとでぼやけて見えるが、その瞳には未だに強い意志が輝いている。
戦場の中央で一瞬の静寂が訪れた時、彼はゆっくりと雨宮の方を振り返る。その目は、深い理解と同情、そして無言の励ましを雨宮に送っていた。
その瞬間、二人の間には言葉を超えた強い絆が感じられる。
勘解由小路の眼差しには、「今は支持率なんてどうでもいい、大切なのはここで何を成すかだ」というメッセージが込められていた。彼の表情は、状況の厳しさを物語っていながらも、不屈の闘志を失っていない。
その姿からは、現状の苦境を共に乗り越えようとする強い意志が伝わってきた。
雨宮は、勘解由小路のその力強い態度に心のどこかで救われる感覚を覚えた。彼の顔からは、一時的な支持率の低下など、目の前の困難に比べれば些細なものとして受け止められていた。
その一瞬、雨宮の心にも小さな火が灯る。それは、どんなに厳しい状況でも、共に戦い抜く仲間がいる限り、まだ希望は失われていないという確信であった。
「ハハハ、諦めな。そいつらは俺たちの言うことしか聞かねぇよ?」
悪魔なような翼が生えた四天王が笑いながら言った。
「どういうことだ!」
その場に立ち尽くしていた原は、その挑発に激しい怒りを覚えた。彼の体は怒りで震え、手は力強く握りしめられていた。
その目は怒りに燃え、顔には血の気が昇り、まるで漫画のように怒りマークが浮かぶかのような熱さを帯びている。
その姿は、戦士が戦いの前の最後の怒りを燃やしているかのように、力強くも必死だった。
原が立つ地面は、彼の怒りに応えるかのようにわずかに震え、彼の靴下に堆積した土は、その怒りを感じ取りながら静かに舞い上がっていた。
彼の手の中で、拳は硬く、強い意志とともに、何かを打ち砕く準備ができているかのように見えた。その瞬間、彼の周りの空気までが緊張し、凍りつくような静寂が訪れた。
「デフル様の攻撃を浴びたやつは、デフル様とヒーライ様の言うことしか聞かなくなるんだよ」
「はあ?」
デフルというのは、今の話を聞く限りでは、黒いペガサスにまたがる筋骨隆々の四天王のことだろう。それにしても、あいつの言うことしか聞かないとかどういうことだ?
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!」
勘解由小路は、ストレスが最大になり、杖を大きく振り上げ、大きな炎を発射した。
しかし、その大きな炎も、黒いペガサスの四天王の攻撃にかき消された。
「な、なんと……」
「さあ来い」
黒いペガサスの四天王が腕を組み、あまりにも低い声で言った。近くにガラスがあれば、その重低音で割れそうなくらい低かった。
すると、森川や高尾、車田らあの黒い電撃を浴びた彼らは、ゆっくりと起き上がり、フワフワと浮いて四天王の前に跪いた。
「お、おい! お前ら!」
大財の呼びかけにも答えず、彼らはじっと四天王の前に跪いている。
その時、彼らが一斉にこちらを向いた。そして、あろうことか雨宮らに向けて杖を大きく振りかざし、巨大な嵐を生み出した。
瞬く間に吹き荒れる暴風が当たり一面を覆い始めた。
そして、黒い翼が生えた四天王が右手で巨大な黒い塊を生み出し、投げてきた。
「危ない!」
その時、胡散臭い妖精が今までで一番俊敏で鋭い声を上げて、大きなライトブルーのバリアを作ってくれた。そのおかげで、雨宮内閣は全滅を免れた。
「今のうちに、一旦退いてください!」
妖精に言われ、残った閣僚はゆっくりと後ろを振り向き、その場から立ち去った。
誰もが、この場から逃げるのは躊躇われただろう。森川たちを置いて逃げるなんて許されない。全員揃って雨宮内閣なのだ。
それを一番に理解している雨宮は最後まで動かなかった。
「総理! 今は仕方ない!」
「総理、早く退いたほうが……」
原や堂前の呼びかけにも、雨宮は動かなかった。総理としての責任を感じているのだろう。
その後ろ姿は、残った閣僚の脳に刻み込まれた。これこそぎ総理のあるべき姿なのだろうかと。
誰一人見捨てない政治をしたいと言っていた雨宮を、全員が見守った。
しかし、敵の攻撃は威力を増す一方だった。妖精のバリアもまもなく破壊される。
「アメミヤ! 早くに逃げるんです!」
しかし、その妖精の要請にも動じなかった。しびれを切らした妖精は、甘みに向かって大きな空気の弾を作り出し、思いっきり撃ち込んだ。
空気の弾に吸い込まれた瞬間、閣僚たちの表情は、一変していた。彼らは互いに困惑し、目を見開きながらその不可思議な現象を理解しようと躍起になっていた。
雨宮が体験しているのは、まるで現実から一線を画した別世界へと誘われるかのような感覚で、それは決して楽しいものではなかった。透明な膜に包まれると、全てがゆっくりと動いているかのような錯覚に陥り、声もこもって遠くぼんやりとしか聞こえなかった。
閣僚たちの横を通過する時、彼らも同様に吸い込まれた。彼らは自分たちがどんどん森川たちや妖精から遠ざかっていくのを無力に感じながら見ていた。
その間、一人一人の顔には別れの後悔が浮かんでいた。
特に雨宮は、この状況を招いた自己の選択を深く悔やんでいた。彼は仲間たちとの突然の分離に、心の底からの痛みを感じていた。彼らが築いてきた絆が、このようにもろくも無情に引き裂かれることに、深い悲しみと共に怒りさえ覚えていた。
長く漂う間、閣僚たちは一人また一人と視界から消え、彼らの耳にはもはや誰の声も届かず、ただその透明な泡の中で自分の呼吸音と心臓の鼓動だけがやけに大きく聞こえていた。この状況の中で、雨宮たちは自分がどれほど孤独で、力がないかを痛感し、それが罪悪感を一層かき立てた。
彼らが遠ざかるにつれて、森の中の音も色も徐々に薄れていき、周囲は霧に包まれたような白い空間に変わっていった。雨宮らが最後に見たのは、遠くに小さくなる森川たちの姿と、彼らを見送る妖精の悲しむ顔だった。
この別れは突然で、許し難いものであり、雨宮はこの一連の出来事を通じて、自分の選択とその結果に対する深い反省とともに、失われたものの大きさを心に刻んだ。
皆は、彼らの姿をずっと目で追っていた。この空気の風船が破れるまで。




