44 次の襲撃と総攻撃1
「いやー、危なかったなぁー」
勘解由小路が、原の肩を軽く叩きながら言った。それは、間一髪の危機を見事に回避し、一発逆転の攻撃をしたことに対しての称賛である。
「いやいや、危なかったよ」
原もわかりやすく嬉しがっている。頬を緩め、右手で後頭部をさするというありきたりな喜び方だ。
この時、雨宮は、昨夜の国民の喜びように、少し納得した気がした。あんなにピンチな状況で逆転すれば、さぞ嬉しいだろう。
「はいはい、みなさん。ありがとうございました! しかし、これで完全に危機が去ったわけではありません。あの魔王の直属の戦闘部隊の一つである破壊の紋章を破ったとしても、次から次へとやってくるんです」
喜びムードの中、突然妖精が手を叩きながら言った。いきなり遮られて原は顔を真顔に戻していたが、妖精の指摘はもっともだった。
この静けさは嵐の前の静寂に違いない。誰もが悪名高き魔王がただ引き下がるとは思っていなかった。彼のような者が手を引くには、まだ早すぎる時だ。
そして、その懸念が現実のものとなった瞬間、再びその恐怖の咆哮が空気を切り裂いた。
「え? 嘘だろ?」と、川畑法務大臣が声を上げる。彼の声には、信じられないという感情が色濃く込められていた。「いくらなんでも早すぎないか?」と大財財務大臣が付け加えた。誰もがその速さに驚嘆し、深く憂慮していた。
見渡す限りの青空が、今や黒い波に飲み込まれようとしていた。バケモノたちの軍勢は、先ほど見たものとは比べ物にならないほどの大軍勢を率いて再び現れたのだ。
彼らはまるで「烏合の衆」のように無秩序でありながら、数の力で圧倒してきた。その大群が空を覆い尽くし、地上にはその影が重く落ちていた。
この軍勢は、その数の多さから、太陽の光さえも遮るかのようだ。
その様を見て、「夏草や兵どもが夢の跡」と、堂前文部科学大臣が呟く。
「いや、ちょっとそんなこと言ってる場合じゃないんだけど!」
雨宮は、ついツッコミを入れてしまう。
一面の暗闇が空を支配し、その下で我々はただ小さな存在に過ぎなかった。
空中からの圧倒的な視界に、恐怖と圧迫感が増す一方だった。猛き者ほど早く滅びるという言葉が頭をよぎるが、今のこの状況では、その猛き者が雨宮内閣自身であるかのような錯覚に陥った。
我々の前に広がるのは、絶望的な戦いの序章に過ぎないのかもしれない。
彼らの軍勢は、まるで天が地に落ちたかのような圧倒的な迫力で迫ってきた。それに直面した我々は、勇気を振り絞りながらも、この戦いがどれほどの困難を伴うかを痛感していた。
しかし、ここで退くわけにはいかない。命運をかけた戦いが、今、始まろうとしていた。
「よっしゃ! みんな、雨宮内閣の底力を見せてやろうぜ!」
雨宮は、力一杯叫んだ。その声は、衆議院選挙の遊説の時よりも大きかった。
それを聞いた一同は、一斉に「おお!!」と叫び、それぞれ自らに物体浮遊術をかけて浮き上がった。
いよいよ全面戦争に突入するのだろう。
雨宮は、恐怖よりも緊張の方が大きかった。もしかしたら、この中にヒーライ魔王がいるのではないか。
そのために夥しいほどの数でカモフラージュしているのではないかと、雨宮は考えた。
雨宮は、自身の支持率を妖精に聞きに戻る。他の大臣は、それぞれのスキルを使って戦っている。
「ちょっと、俺の支持率どれくらい?」
「ええ、ええ。朝刊の発表によると、雨宮内閣の支持率は49パーセントで、4パーセント減少しています」
「まじかよ、俺なんにもできないじゃん」
「見守りましょう……」
ガクッと項垂れた雨宮の背中を、妖精が優しくさすった。
先ほどの破壊の紋章と呼ばれる軍団と同じ形態のドラゴンと魔人や悪魔が乗っている組もたれば、今までに見たことのないものたちもいた。
例えば、二体のドラゴンが大きな爆弾を吊り下げたり、カットラスのような大きな刃物を振り回す魔人もいた。
「いやー! 危ない!」
高尾外務大臣が、ゴルフクラブを手にして、戦闘モードに入っていた。緑のフェアウェイを思わせる草原の上で、彼女のスイングは見事で、一撃ごとに魔人を吹き飛ばしていく。
それはまるで、WGCのファイナルラウンドでホールインワンを狙うかのような迫力だった。
しかし、そんな彼の後ろから、もう一体の魔人がカットラスを振り回しながら急旋回して襲いかかってきた。
しかし、その瞬間、そこにはまるでスーパーヒーロー映画のワンシーンのような展開が待っていた。川畑法務大臣が持つ六法全書が突如として黄金に輝き始め、その輝きは太陽をも凌ぐものだった。川畑大臣は、まるで魔法使いのようにその本を掲げ、ページが風に舞う中で、光の魔法陣が形成された。
「法と秩序の力を見せてやらぁ!!」と川畑大臣が叫び、六法全書から放たれる光が周囲を包み込んだ。
近くにいた法律違反者である魔人たちは、その光に触れるなり、文字通り法の力によって焼き尽くされた。彼らは一瞬で灰と化し、空中に「銃刀法違反」という条文の断片が舞う中、消滅した。
場面は、一転して喜劇の最中のような雰囲気に包まれ、高尾外務大臣は「かわばっさん、ありがとうございます!!」と感心しながらも笑いをこらえきれず、周囲もその異常な光景に笑い声を上げていた。
ゴルフクラブと六法全書、この異色の武器で戦う二人の大臣の姿は、まるで不条理なジョークのようでもあり、その戦いは意外なほどに効果的だった。
一方で、車田国土交通大臣は彼の分野での専門知識を活かして、戦場に革命をもたらすべく行動していた。
無尽蔵に供給される鉄の資材を使い、車田は堅牢な牢屋を次々と組み立てていった。それらの牢屋は、ただの収容施設にとどまらず、まるで動く要塞のように強固であった。
そして、その牢屋を戦場の前線まで運ぶのは、護国家公安委員長の役目だった。彼は特殊な能力を持ち、一時間おきに自身を透明にすることができた。その能力を駆使して、透明な状態で牢屋を担ぎ、敵の目を欺きながらそれを運んでいった。
まるで幽霊が重い荷物を運ぶかのように、牢屋は忽然と現れては消え、戦場を渡り歩いた。
他の大臣たちが魔法や技術を駆使する中、車田大臣と公安委員長の方法は確かに原始的であるが、その実用性と安全性においては計り知れない効果を発揮していた。この地道ながら堅実な戦術は、周囲からも一目置かれるものであり、戦いの中で静かにその価値を示していた。
車田国土交通大臣の作り出した牢屋たちは、次第に重なり合い、一つの巨大な構造物へと進化していった。この不思議な牢獄の塔は、まるでかつての香港に存在した九龍城砦を彷彿とさせる迷宮のように、複雑で入り組んだ構造を持っていた。
窮屈で迷路のようなその内部には、誤って入った者が二度と太陽の光を見ることができないほどの、多くの罠と迷路が待ち受けていた。
この地獄の迷宮と呼ばれるようになった牢獄は、敵にとってまさに地獄のような存在となり、彼らがこの牢獄の中に一歩足を踏み入れると、その複雑な構造と圧迫感によって戦意を完全に削がれてしまった。壁は互いに絡み合い、無数の通路があちこちに伸びていて、一度入れば抜け出すことがほぼ不可能な迷宮と化していた。
護国家公安委員長が透明になって牢屋を運ぶ際も、その牢屋はただの収容所としてではなく、戦略的な迷宮の一部として機能するよう巧妙に配置されていた。
敵の兵士たちはこの巨大な迷宮の中で方向感覚を失い、友軍ともはぐれてしまうことが多かった。この戦術は、敵の進軍を効果的に阻止し、彼らの組織的な戦力を分断することに成功していた。
そして、このラビリンスは次第に恐怖の象徴と見なされるようになり、敵軍にとっては攻略不可能な要塞としてその名を轟かせた。
敵はこの迷宮に足を踏み入れることを極力避けるようになったが、それは護に捕まれば、その時が最後の太陽の光を浴びる瞬間だった。




