42 祝賀祭なんてやってる場合じゃねぇよ!
眠りにつくまではまで長くはなかった。疲れが溜まりに溜まっていたのだろう。
白川郷(仮)に入ってすぐ、勘解由小路が眠りについた。その後、原と雨宮と福本でこれからどうするかという作戦会議を行ったが、それは名前だけで、何も生産性のない会話で終わり、すぐに一人また一人と眠りについていった。
木造と茅葺きの良い香りのおかげで、すぐに心地よい眠りに誘われた。
しかし、穏やかな睡眠は突如として破られた。
「ん……? なんだ?」
雨宮が目を覚ました時、原と福本は昨夜のまま、座布団を重ねて作った簡易布団で眠っていた。
そんなことよりもだ。玄関の木の扉を誰かが静かに叩いている。
しかし、叩く音はよく響いている。その後に気づいたのは雨宮一人だろう。他のみんなはまだ気持ちよさそうに眠っていた。
覗き穴はついていないので、仕方なく鍵を解除し、ゆっくりと扉を開ける。
すると、そこにはあの胡散臭い妖精が立っていた。
「あ! お前どこ行ってたんだよ!」
雨宮がその姿を捉えるや否や、すぐに問い詰めた。夜になったら迎えにくると言っていたくせに、翌日になって迎えにきやがった。
「いやー、すぃやせん。ちょっくら、宴会をしてしまったもので」
「はあ?」
よく見ると、妖精は少し顔を赤らめている。どうやら、酒を飲んでいたようだ。その酒はまだ抜けておらず、少し酒臭い。
「お前、なんでこんな戒厳中に酒なんて飲んでんだよ!」
「まあまあ、森川はんが敵の大軍団を木っ端微塵にぶっ潰してくれたんでぇ」
「森川が?」
「ええ。我が国のGDPが去年より6パーセント上昇したんで、森川はんの能力があがったんでぇす」
呂律の怪しい妖精は、昨夜の森川の活躍と、それを倒した時に国民が盛り上がって、政府関係者の一部は宴会を行なったと言った。
「なんだよそれ! 俺たち昨日、死ぬかもしれなかったんだぞ!」
「まあまあ、森川はんも危険だったんでぇ」
二人のやり取りに睡眠を遮られた福本と原が目をこすりながら雨宮の元にやってきた。
「どうしたんだ、総理」
雨宮は、妖精が言っていた昨夜の森川の活躍とその後の顛末を仔細に伝えてやった。
福本は、妖精に対して鋭い目を向け、原はもちろん怒っていた。
妖精は、とにかく宮殿に戻りましょうと言い、福本が勘解由小路を起こしに行く。
雨宮と原は、妖精から他の閣僚はどうしているのかを訊いた。
妖精によると、雨宮たち四人以外の全員が宮殿で国王から褒め称えられて休憩中であると言った。
「なんだよそれ!」
原は、昨日のベルリンの壁とエッフェル塔による反撃は、絶対に褒め称えられるものだと思っていたのだろうか、森川の方が称賛されていることに納得していなかった。
帰る途中、雨宮はこっそり妖精に訊いた。
「原はんが戦ったのは、敵の監視隊なんで雑魚なんですよぉ。森川はんが戦ったのは、敵の第七突撃といって、魔王直属の軍隊の一隊なんすよ」
「なるほど、森川たちと原さんの敵のレベルが違うからってことか」
「ええ、そうでやんす」
雨宮は、妖精の口調に段々とイライラしてきたが、酔っているからと自らに言い聞かせて、なんとか怒りをぶつけないように抑えた。
首都に戻ると、街中が森川たちを称賛するムードが漂っている。
「え? ちょっと敵を倒しただけでこんな喜ぶのか?」
原と勘解由小路は、この気の緩み具合はまずいだろと言った。それに、福本も危ないのではないかと懸念していた。
王宮に戻ると、森川たちが顔を引き攣らさせて座っていた。
「おいおいおい、森川! これどう言うことだよ!」
原が開口一番、森川を問い詰める。
「いやいや、わからないですよ! たまたま敵をみんなで倒したら、こんなお祝いムードで……。それに、敵は去り際に今度は容赦しないからなとか言ってたし、俺たちはお祝いムードなんて呑気なこと言ってないんすよ!」
どうやら、この国民と政府が少しポンコツなのだろう。
国王に、次の襲来を伝えても、大丈夫大丈夫と退けられたという。
馬鹿騒ぎする国王たちをよそに、森川が雨宮にこっそりこんな話をしてきた。森川の目は、いつもよりも暗く、何か悩んでいるような目だった。
「実はな、敵が去る時に妙なことを言ったんだ」
「え、なんだ?」
「あいつら、お前らはまだ気がつかねぇのかよ、馬鹿だなぁって」
「は? なんだそりゃ」
「さぁ、わかんねぇけど、ちょっと気になってな」
雨宮はもっと質問したかったが、国王がコソコソ話す二人に話しかけてきたため、それは叶わなかった。
街中が祝祭の熱気に包まれ、盛大な音楽と笑い声が空に響いている中、王国の暗がりで一つの影が忍び寄っていた。
夜の帳が下りるとともに、その黒い影は、まるで深海の生物が静かに獲物に近づくかのように、王国の心臓部にゆっくりと侵入していた。
喜びに満ちた人々の顔とは裏腹に、この影は何者にも気づかれることなく、その脅威を増していった。
王国全体がお祭り騒ぎに夢中であるため、この危機に気付く者は誰もおらず、夜は更けていくばかりだった。その間も、城の中では内閣の大臣たちが長い一日を終え、深い眠りに就いていた。彼らの中で事態を知る者はおらず、皆が安堵と疲労に身を任せていた。
祝祭の夜、自らの手を汚すことなく、王国に潜む他の闇の勢力を巧みに操っていた。その計画は、王国の弱点を突き、一夜にして権力の座を手に入れるというものだった。冷徹な瞳は、窓の外で笑う民衆を見下ろし、その喜びがいかに儚いものかを知っているかのようだった。
祝祭の最中にも関わらず、この夜のために多くの準備と計算を重ね、全てが思惑通りに進むことを静かに確認していた。この祝祭が終わる頃には、王国の命運が握られていることだろう。
街のどんちゃん騒ぎが最高潮に達する中、遂に自らの最後の手を打つ時が来たことを悟り、勝利の確信が浮かんでいた。
そして、目論見通りに事態が進展する中、王国はまだ何が起こっているのかさえ気づいていなかった。




