42 なんでこんなものが!?
地面が微妙に震え、ほんの少し持ち上がり始めたかと思うと、何か巨大なものが地表を突き破ろうとしている気配がした。突然、小石がポロポロと転がり始め、地割れのような亀裂が地面を這い、そこから不思議な光景が展開された。
勘解由小路が目を見張る中、徐々に鉄の構造が現れ、それが連なって何かしらの形を成していく。地面を揺らしながら、まるでマジシャンがイリュージョンを披露するかのように、エッフェル塔がゆっくりと地中から姿を現したのだ!
初めはただの鉄骨の山のように見えたその構造物が、上へ上へと伸びていくにつれ、そのアイコニックな形状がはっきりとしてきた。四つの大きな足が固まり、その間から華奢ながらも頑強で立派な塔が天へと伸びていった。
勘解由小路は口をあんぐり開け、その現象を目撃していた。
「あ、あれって……」福本が驚愕の声を上げると、雨宮が呆然としながらも確信を持って答えた。「ああ……。エッフェル塔だ……」
まさかの展開に全員は言葉を失いつつも、この世界でパリのシンボルが、なぜこんな場所から現れるのか、その理由を考える余裕もなくただただその異様な現れ方に圧倒されていた。地中からのエッフェル塔、その奇想天外な光景はコミカルでありながらも、どこか神秘的な美しさを放っている。
「な、なんで?」
勘解由小路は、ようやく声を出した。口を大きく開けていたからか、乾いた声だったが、それを聞き取った雨宮は、もう笑うしかなかった。
三人が不思議とも言えるエッフェル塔の姿をぼんやりと眺めていたのも束の間、雨宮が提案するままに、その巨大な鉄の塔に近づくことに決めた。
足を進めるにつれ、周囲の空気は一層厳しくなり、突如、怒号が空中を裂くようにして響き渡った。
「な、なんだありゃ!」勘解由小路が驚愕の声を上げた。彼の指が示す方向に目を向けると、そこにはなんと巨大なドラゴンが空を舞っていたのだ。
その姿は、かつて森の中で目撃し、福本によって退治されたはずのドラゴンそのものであった。昔話の中から飛び出してきたような神話の生物が、今、目の前で翼を広げている。
「あ、あれは!」と驚嘆する声があがる中、福本が戦況を確かめるように尋ねた。「誰か戦ってる?」
その問い問いに、二人は首肯し、彼らは急いで声のする方へと走り出した。石畳に足音が響く中、エッフェル塔の方向からは、人間とドラゴンの激しい戦いの音が、一層激しく耳に飛び込んできた。
「あれって……」
「あ! 幹事長じゃねぇか!!」
雨宮が声を限りに叫んだ。視線の先には、エッフェル塔の先端で、原幹事長がドラゴンと一人で戦っている様子が見えた。驚異的な場面に、彼らは息もつかず駆け上がり始めた。
エッフェル塔の階段は無数にあり、一段一段の昇るごとに、彼らの足は重くなっていった。
特に勘解由小路は、年齢もあってか、息が切れ気味で「こんなに階段が多いなんて、観光地に来たわけじゃないのに」とぼやきながらも、必死に登り続けた。
ついに彼らが塔の頂上に到着すると、原はなんとエッフェル塔の先端から電撃を発射している最中だった。塔の先端が巨大なテスラコイルのように機能しており、彼はその静電気を利用してドラゴンに対抗していたのだ。
電撃は青白い光とともに空を切り裂き、ドラゴンに命中するたびに、その巨体が大きく揺れた。
原が手に持つ魔法の棒切れをエッフェル塔の尖頭にかざすと、棒切れから青白い輝きが溢れ出し、空中を舞うドラゴンに向かって強烈な電撃を放った。この奇妙な光景は、その劇的な演出には少しコミカルな面持ちもあった。ドラゴンたちはその電撃によって大きく体を震わせ、苦痛のうめき声を上げながら、反撃を試みる。
しかし、原の機転と、まさかの武器と化したエッフェル塔の力は、ドラゴンたちの予想を遥かに超えていた。塔の尖塔から放たれる魔法の電撃は、連続してドラゴンの鱗に痛烈な打撃を与え、その巨体を徐々に追い込んでいった。
原は一人、魔法使いのように、しかし、焦りに焦りながら、棒切れを振り続け、その度に塔は幻想的な光を放ち、空中の獣に対して魔法の一撃を加える。
周囲には、その異様な戦いを見守るために集まってきた小動物たちや鳥たちが、好奇心旺盛な目でこの一幕を見つめている気がする。
彼らの間にも、この戦いがまるで娯楽の一つであるかのように、わくわくした空気が流れている。
勘解由小路と雨宮、福本は、安全な距離から原の活躍を見守りながら、時折、そのコミカルな戦術に顔を引き攣らせた。
エッフェル塔が突如として魔法陣に変わり、古典的な魔法の光景が現代のシンボルと結びつく様は、彼らにとっても予想外の展開だった。
結局、原の独創的かつ大胆な戦略は功を奏し、一組のドラゴンらは遂に力尽き、空中から地面へと大きく墜落した。その巨大な体が地面に接触する瞬間、周囲の森は静寂に包まれ、一連の戦いが幕を閉じたかのように、一時の静けさが訪れた。
その様子を見た三人は、この奇妙な戦いに巻き込まれたことに、苦笑いせずにいられなかった。
「えー、なんだこりゃあ」
勘解由小路が呆気に取られている。
まるで、そんな闘い方ありなのか、という風に。
電撃は、幾度となく浴びせられ、残ったドラゴンたちはようやく退散して行った。
原が雨宮たちに気づくと、手を振り上げて喜んでいた。おそらく、原も今まで一人であの魔物たちと戦っていたのだろう。
嬉しそうに再会を喜んでいた。
「いやー、原さん見事ですよ」
勘解由小路が、拍手しながら原を称える。
「え、そう? いやー、まさかこんなことができるとは! ガハハ!」
原は、一人で獣軍団を倒せたことに喜びを感じているようだ。
「それにしても、あいつらまだまだいるんだな」
雨宮が思い出したようにと言うと、原は何のことだと言わんばかりに、首を傾げた。
「いや、さっきも俺たちが襲われたんですよ。勘解由小路さんはいなかったんだけど、福さんに助けてもらって」
雨宮は、日中の出来事を事細かに原に聞かせた。原はそれを聞いて、そうだったのかと腕を組んで唸った。
「実は、わしもさっき、訳のわからんバケモンに殺されかけたんだよ」
原も、日中ドラゴンに襲われ、それをベルリンの壁で何とか逃れたことを話して聞かせた。
雨宮たちの反応は、期待していた通りの反応で、原は自らのベルリンの壁武勇伝を語るのが楽しくなった。
「取り敢えず、一旦どこか夜を過ごせる場所を探しませんか? 冷えてきましたよ」
嬉しそうに話す原とあいつら怪物軍団をどうするべきかと悩んでいる勘解由小路と雨宮に、福本が夜の明かし方を聞かれ、我に返った。
確かに、このままでは風邪をひいてしまう。
「あ、そうだ。原さん、またなんか建物出してよ」
「えー、あれって何回でも使えんのかなぁ?」
「え? 自分のスキルなのにわかんねぇの?」
「いやー、まだ二回しかやったことないんだよ」
「取り敢えず、なんか小さい建物でも出してくれ」
「わかった」
原が目を瞑り、深く集中する。彼の周りの空気が微妙に振動し始めたかと思うと、一瞬の静寂の後、彼が元気よく叫んだ。
「よっしゃ! 白川郷!」
その言葉が落ちるや否や、地面が微妙にジワジワと揺れ始め、小さなひびが周囲に広がり始めた。
突如、土が盛り上がり、そこからまるでジャックと豆の木のように、太い立派な木のようなものが生え、立派な茅葺き屋根を持つ一軒家が成長し始めた。その家は、徐々にその全貌を現わし、見事な白川郷の家屋が、まるでポップアップブックから飛び出したかのように立ち上がった。
この光景に、原を含む一行は思わず目を見張った。周囲の風景とのあまりにも際立ったコントラストに、勘解由小路が声を失い、雨宮が「これが本物の白川郷か!」と驚嘆した。家は完璧な伝統的な様式で、煙突からは軽やかな煙が立ち上り、どこからともなく温かい光が窓から漏れていた。
「さすが原さん、場違いだけど素晴らしいね!」と勘解由小路が感心しながらも、その場違いさに笑いを堪えきれなかった。
三人は、この突如として現れた遺産に囲まれ、一時的にその場の現実を忘れて、まるで時間旅行でもしたかのような錯覚に陥った。この魔法のような展開に、彼らの冒険は更に色彩豊かなものとなり、笑い声が絶えない一幕となった。




