34 鏡の秘密
一同は、その鏡を前にして、息を飲んだ。初めて見る鏡で、それも一つ一つが魔法によって浮遊している。おそらく、老人が物体浮遊術をかけっぱなしにしているのだろう。
北海道のような形をした鏡は、縁が黄緑色に光っている。
「おい、これって? 北海道か?」
「ああ」
老人が頷き、続けた。「我々は、日本という国の形をモデルにしている。違う場所はあるかね?」
それに対し、高尾外務大臣は姿勢を正し、毅然とした目で北海道を眺めていた。
本州は、東と中部、西で色分けがされており、東側は緑色に縁取られ、中部は橙色、西側は青色だった。
そしてそれら三つを合わせると、人一人がまるまる映り、他の鏡など要らないのではないかというくらいだ。
四国は、水色に縁取られており、可愛らしい形をしていた。女性議員は、四国型の鏡を見て、可愛いなどと呟いていた。
九州型の鏡は、赤色に縁取られており、最も豪勢な形をしていた。
「これって……なんかでみたことあるような……」と、車田伝写国土交通大臣が唸る。
全員がそれが何かを聞こうと、車田を眺めていると、車田は思い出したように手を叩き、大きな声でそれを叫ぶ。
「あ! JRだ!」
「「「あぁー」」」
その場にいた全員(老人やゴブリンたちは何のことだというような身振りをしていた)が、それに納得した。
確かに、言われてみれば、国鉄から分裂したJRのように、それぞれ各地方ごとに色分けされている。
それをゴブリンたちに説明しても、よくわからないと一蹴された。
「まあ、とにかく。一人ずつ並ぶのじゃ。アメミヤは、もう持っておるから、そこの女子」
指名されたのは、福本官房長官だ。
福本が鏡の前に立つと、東北地方の辺り、日本でいう宮城県が光った。
「え、宮城県らへんが光ったぞ」と、原幹事長。
すると、鏡の中の福本の後ろに、何やら細かい雨のようなものが降っているように映っている。
「うむ。お前のスキルは隕石を落とすことらしいの」と、それを見た老人が言った。
全員が驚いたような表情で、その鏡の中の世界を眺めていた。
「いや、総理よりすげぇじゃねぇか」と、川端法務大臣が言う。
それから、全員が順番に鏡の前に立って、それぞれのスキルを与えられた。
勘解由小路総務大臣は、なぜか自らのストレスが身体能力の向上に繋がるというスキルだった。
福本の後にこれだから、勘解由小路はがっくり項垂れたように、自らのスキルに消沈した。
川端法務大臣は、半径二十メートルにいる者が、六法全書に書いてあることいずれかに違反すれば、ダメージを与えるというスキルだった。
強いのか弱いのかわからないスキルに、川畑は首を傾げていた。
高尾外務大臣は、ゴルフクラブで殴ればクリティカルダメージが入るというスキルだった。「私、ゴルフやったことないんですけど」と、静かに言ったのを雨宮は聞いた。
大財財務大臣は、コイントスをして表が出れば強力な魔法が出るという、運が左右するものだった。
堂前文部科学大臣のは、歴史の偉人の力を借りるというスキルだった。どういうことかわからないというような身振りをしていた。
大場厚生労働大臣、林農林水産大臣、杉林環境大臣は、なぜか揃いも揃って移動速度アップというスキルだった。
森川経済産業大臣は、GDPがそのまま戦闘力になるという、雨宮に似たスキルだった。
これには、雨宮も驚いたような声を出した。
自分だけ優遇されている状況がなくなったとでも思ったのか、残念そうな顔をしていた。
車田国土交通大臣は、巨大な岩石を飛ばすというスキルで、車田は鏡の前で、「おお、強そうだ」と大きく頷いていた。
国破防衛大臣のスキルは、その辺に落ちている石を爆弾に変えられるというスキルだった。防衛大臣という、爆弾や自衛隊を扱うものかと思えば、石を爆弾に変えるという少し回りくどいスキルに、国破は呆気に取られていた。
護幻獣大臣(国家公安委員長)は、一時間おきに透明になれるという、使いにくそうなものだった。
片岡魔法大臣(衆議院議長)は、右手で人に触れ、左手で別の人を触ると、左手の人を右手の人に変えるという、これまた使いにくそうなスキルを与えられた。
最後に、原王室大臣(幹事長)は、空間変更能力という、最も魔法スキルに近い能力を与えられ、いい歳して一番喜んでいた。
あまり、期待通りのスキルを貰えなかった、大場たちは口々にもう一回やらせてくれと言ったが、もう無理じゃと老人はそれを制した。
彼らは、ガクッと項垂れて諦めた。
「うむ。では、全員スキルを持ったな。そのスキルは、どういう効果があるのかは実際に使ってみないとわからない。だから、くれぐれも使う場合は気をつけるようにな」
全員が気を引き締めたように頷き、ゴブリンたちが、では行こうと言って外に出た。
外は、昼前になっていた。朝早くに出発するつもりだったが、老人からスキルを貰ったため遅くなった。
ただ、ゴブリンは焦っている様子はなく、むしろスキルを貰えてよかったというような、穏やかに見える表情をしていた。
「ん、ちょっと待てよ。またあのバケモンに乗るのか⁉︎」
原が思い出したように訊くと、ゴブリンが頷いた。
その返事を見た全員が、膝から崩れ落ちるように落胆した。
あのバケモンというのは、前回ここに来るために乗った、マジックバードという超巨大な鳥だ。この世界では、魔法の絨毯と呼ばれている。
先ほど、妖精とニンゲンが連れてきていたため、すぐに乗ることができた。
しかし、今回のマジックバードは比較的穏やかで、乱暴そうではなかった。
「これは前のやつとは違うのか?」と、森川が訊ねると、これはメスですよと、ニンゲンが教えてくれた。
全員が乗るまで、マジックバードはじっとしていたし、獣のようなキツイ匂いもしなかった。
全員が乗り込むと、ゴブリンが頭をポンポンと叩き、マジックバードは広い草原を翔け抜け、ついに空を飛んだ。
「こいつは楽だな」や「本来こうじゃないのか」など、想像よりも穏やかな空の旅に、閣僚は安堵の声を漏らしていた。
前回よりも少し時間はかかったものの、激しい乱高下や暴風もなく、安全な帰路だった。
首都に戻ると、内閣はすぐに国王の元へ走っていった。宮殿の前には、胡散臭い妖精が、腕を組みながら、右足をカタカタと鳴らして、今か今かと内閣の帰りを待っていた。
「早くしてください! 陛下がお待ちです!」と、胡散臭い妖精が言うと、全員が「知るか!」と批判。
すぐに、着いてこいと胡散臭い妖精が言うと、またあの長い道のりが内閣を待っていた。
「はぁはぁ。もうキツイってこの廊下と階段」と、大財や勘解由小路、原などの高齢者が言う。
若い大臣も汗をかきながら必死に走る。
国王の元へ行くと、そこには数百人の人だかりができていた。
どうやら、彼らはみんな、この世界の防衛省と魔法省に務める兵隊だった。




