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第2次政権で転生させられ、支持率が戦闘力になりました  作者: りにー
第2章 第2次雨宮内閣は異世界で
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31 魔法は、意外と簡単でした

 その部屋は、大きな空間で外から見たあのボロボロの掘っ建て小屋からは想像もできない広さである。

 先ほど食事をしていた部屋といい、この部屋といい、魔法によって広められた空間に、一同は息を飲んだ。雨宮も、まさか自分がこんな世界に来るなんてと、幾重にも思った感想を再び抱いた。


「では、まずアメミヤから」


 老人は、雨宮を指名すると、こっちへこいと手招きした。どうやら、一人ずつ魔法を伝授するらしい。


「物体浮遊と物体消去、いっぺんに教えるからしっかりしとくのじゃよ」


「しっかりって……?」


「そりゃ!」


 老人が持っていた杖を雨宮の頭に、いきなり叩きつけた。


「痛って! なにすんだ!」


「魔法を使えるようにしたのじゃ」


「え? 本当かよ」


「試しに、この椅子を浮遊させてみろ」


「どうやって?」


「椅子を凝視して、心の中で浮かべと念じる。それから、右手の人差し指で椅子を指さして、プロボーチと言え!」


「プロボーチ?」


「やってみろ」


 雨宮は、言われた通りに椅子を眺める。その椅子は、木造でかなり古そうだ。ところどころ、腐っているのか、黒ずんでいる。

 普段椅子なんて眺めないから、よく見ると一つ一つの模様があって面白い。

 年輪や節などがそれぞれ違うから、どんな椅子も唯一無二だろう。


「プロボーチ!」


 雨宮が呪文を唱えると、椅子はカタッと音を少しだけ立てた。それだけで、浮きはしなかった。


「あれ?」と、森川経済産業大臣が言い、「すげえ、動いた!」と、大財財務大臣が言う。

 他のみんなも、口に手を当てたり、声には出さずに驚きの表情をしている。

 雨宮も、まさか本当に浮きはせずとも、動くなんて思わなかった。


「ほ、本当に動いた?」


「ああ。惜しいな。眺めるんじゃなくて、見つめるんだ。一点をな」


 なるほど、先ほど雨宮は椅子のあらゆる部分を眺めてしまっていた。老人曰く、そうではなくどこでもいいから一点を見つめることが大事だと言う。


 もう一度、雨宮は椅子の一点を眺めた。そこは、人が座る中心部分。そこだけをしばらく見つめ、そしてもう一度呪文を唱える。


「プロボーチ!」


 すると、椅子はゆっくりと浮き、地上一メートルほど浮かび上がった。

 まさか、本当にできるなんて思わなかった雨宮は、大きな喜びの声を上げた。

 まるで夢を見ているみたいだ。


「ま、まさか! 本当にできるなんて!」


「すげえよ! 総理!」


 原幹事長が手を叩いて称えている。ゴブリンも、腕を組みながらウンウンと静かに頷いた。

 妖精とニンゲンも手を叩いてくれた。


「よし。次は、物体消去法だ」


 そう言うと、老人は入り口から向かって左側の小さな棚から一本のロウソクを取り出した。火をつけると、椅子の上に立て、まずは見本を見せると言った。


「ズミゼット」


 老人は、物体消去の呪文を唱えた。その声は、先ほどの物体浮遊の呪文に比べて、固苦しく、まるで自分に今から危険なことをするんだぞと言い聞かせるような響きで唱えた。

 すると、ロウソクは下から加速度的に消滅していった。残った煙は、静かに空気中と一緒になって消えた。


 閣僚からは、「え、すごっ……消えた……」や「え、本当に消えたの?」などと、感嘆と称賛の声で溢れ返った。

 車田国交大臣は、今から自分もこんなことができるのかと、好奇心に満ち溢れた表情をしていた。


「では、アメミヤ。さっきと同じように、消したい部分を一点に見つめて、ズミゼットと言うのじゃ。ただし、この魔法は少しでも気が乱れると成功しない。心してかかれ」


「は、はい」


 雨宮は、再び同じようにロウソクを見つめた。その瞬間、他の閣僚は黙り、今からビッグイベントが始まるぞといった雰囲気を醸し出している。


 そして、ズミゼットと雨宮が静かに言うと、ゆっくりと消えていった。しかし、消えたのは椅子の方だった。


 椅子が消えると、火のついたロウソクは、コトッという音を立てて床に落ちた。

 すると、火が瞬く間に床に燃え移った。木の板が一枚落ちており、それがラグに燃え移ったのだ。


「やばい! し、師匠!」


 雨宮は、老人のことを咄嗟に師匠と呼んだが、老人はそれには何の反応も示さなかった。

 その代わり、老人はすぐにみんなを後ろに下がらせると、老人は今までに見たこともない俊敏な動きで、また新たな呪文を唱えた。


「ハゼニボジャール!」


 すると、杖から大量の水が回転しながら噴き出してきた。それはまるで、消防士が勢いよく火の中に水を放つようだった。

 火はあっという間に消し去られ、一同は安堵のため息をついた。


「す、すみません……」


 雨宮ががっかりと項垂れながら、老人に謝ると、老人は誰にでも失敗はあると言ってくれた。


「では、別のものでやってみようかの」


 老人は、今度は新品の鉛筆を取り出してきた。最初からこれでやってくれよと雨宮は、一瞬思ったが、口にはしなかった。


「では、やってみようか」


 雨宮は、再び同じように鉛筆を見つめる。今度は、上手くいくだろうか。


「ズミゼット」


 雨宮が呪文を唱えると、鉛筆はゆっくりとこの世界から姿を消した。今度は、上手くいったようだ。


「あ! できた!」


「よくやった。これができれば、基本は大丈夫だろう」


「ありがとうございます! 師匠!」


 老人は、うんとゆっくり頷いて、次に福本官房長官を指名した。

 福本は、「お疲れ様です、総理」と言い、老人の元へ歩いていった。


「総理、すげえな。できたじゃねえか」


 森川や川畑法務大臣、高尾外務大臣らに称えられ、少し誇らしげに笑っていた。

 福本は、今ちょうど老人に杖で頭を叩かれたところだった。


 それから、それぞれが呪文を使えるようになったのは、真夜中を過ぎ、日を跨いだ頃だった。

 全員が魔法をできるのを見届けていたゴブリンと妖精、ニンゲンはすぐに老人と何か話し合うために、別の部屋に篭っていった。

 今、閣僚は物体浮遊の魔法の練習をしていた。ただし、老人からは、物体消去の魔法は使うなと警告された。


「これで、基本的な魔法は使えるようになったな」


 森川が言うと、全員は嬉しそうに頷いた。


「じゃあ、もうすぐヒーライ魔王とやらとバトルか」と、車田が言うと忘れていたのか、全員が思い出したように、顔を見合わせた。


 まもなく、得体の知れない魔王との闘いが始まるのだろうか。

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