29 魔法の絨毯があるなら、最初から出してくれ!
「「「キャー!」」」に続いて、
「「「ギャー!」」」
ゴブリンたちを除いて、雨宮内閣は異口同音に叫びに叫んだ。
雨宮や福本たちは、昨日の夜聞いたあの不気味な声に驚き、昨日の夜爆睡して聞かなかった数名は、その驚く声を聞いて驚いていた。
「なんなんだよ!」
「急に叫ぶな!」
森川と川畑が、矢継ぎ早に雨宮たちを批判した。どうやらこの二人には、昨日の夜には聞こえていなかったようだ。
さっき朝食の時眠そうにしてたくせにと、雨宮は一瞬思ったが、それは今言うべきことではないと判断した。
「いや、昨日の夜聞こえた声なんだ!」と、雨宮は言う。
「はあ? なんだよそれ」
「そうなんです。私も聞きました」と、福本も応戦する。
昨日の夜聞かなかった側からすると、いきなり大声で叫ばれたことに腹を立てたらしい。
確かに、こんなに暗くてジメジメしていて寒い場所で、叫ばれたら嫌だろう。それは、申し訳なかった。
しかし、昨日の夜、時折聞こえてくるあの不気味な声を聞いている側からすれば、あの声は二度と聞きたくないと思っていた。
こんな生産性のない無意味な言い争いに、ゴブリンたちはため息をつき、雨宮たちにあの鳴き声は何かを教えた。
それは、ゴブリンによると、この世界で最大級の鳥で、マジックバードと呼ばれているらしい。
しかもそれは、手懐けることができ、一種の魔法の絨毯のように、移動手段に使えるそうだ。
「いやちょっと待て。魔法の絨毯って言ったな?」
幹事長の原は、ゴブリンがサラッと言ったことを逃さなかった。一瞬、腹の目が鋭く光ったように見えた。
「ああ。あの鳥の別名は、魔法の絨毯と言われている。あっ……!」
ゴブリンが、今さら思いついたように、顔を強張らせた。
それを見た原は、腹を立てたようだ。なぜ早く気づかなかったんだと。
そう、そのマジックバードとやらに乗れば、一瞬で目的地に着けるのではないか。仮に、そこまで行かなくとも、距離を短縮できるのではないか。
その指摘に、ゴブリンたちは、一瞬、しまったという顔をした。
原とゴブリンたちのやり取りを聞いていた一同は、今日まで歩いてきた道のりを思い返しては、業を煮やしていた。なぜ最初から、それを使わなかったのかと。
そして、今までの道のりを思い出さないようにしようとしたが、それは無理だった。そして、じわじわと怒りが湧いてくるのだ。
ゴブリンは、申し訳なかったと言い、すぐにそのマジックバードを捕まえてくると言って、森の奥に消えていった。
「ったく、役立たずなんだから!」
森川は、ぶつぶつ文句を言いながら、その辺に生えていた大きな葉をちぎり、地面に敷いてその上に座った。
地面の土は、若干湿っており、直接触るのは憚られた。
しかし、それを見た一同が同じように葉をちぎり、地面に座った。
妖精とニンゲンも、なぜ思いつかなかったのだろうと、申し訳なかったと何度も謝罪してきた。
さすがに、そんなに謝られるとこちらとしても申し訳なくなる。
苛立っていた原も森川も、さすがに申し訳なさそうにしていた。
「いや、遅くねぇか⁉︎」
静かに待っていた一同だが、静寂を破ったのは大財財務大臣だった。
いつもは、穏やかで冷徹な大財であるが、さすがにこんなに待たされるのは、癪に障ったのだろう。
それもそのはず、すでにこんな悪環境に一時間も待たされているのだから。
「もしやあいつ、この森にいる鳥じゃなくて、どっかの町とかに行ってないよな?」
「え? どういうこと?」
「いや、だからさ。捕まえられなくて、どっかから借りるか買うかしてんじゃねぇかってことだよ」
「てことは?」
「森に入る前の道から見たら、町なんかなかっただろ? てことは、あいつが戻ってくるのは一日以上かかるんじゃねぇかってことだよ!」
「まさか……」
「嫌よ、こんなところでずっと待たされるなんて……」
その事実を突きつけられた堂前と高尾が、珍しく弱音を吐いた。
「なー、おい。お前らでまたあのテントを建ててくれないか?」
「え、でも……あれは、ゴンザレスさんがいないと無理なんです……」
「はあ⁉︎」
「あのゴブリン! 最悪じゃねぇか!」
どうやら、あのテントを建てるには、三人の力が必要らしい。しまう時は一人でも良かったくせに。
「くっそー。どうするんだよ」
川畑が嘆いた時、遠くからまたあの不気味な声が響いてきた。しかし、それは先ほどよりも少し近くで鳴ったように感じた。
「いやー! また聞こえてきたわ!」
福本官房長官も、珍しく怖がっている。雨宮は、こんな臆病な福本は、想像すらできなかった。いつもは、利発で真面目、鋭い目で先々を見通す女性議員だと思っていた。
その後も、何度か不気味な声はジワジワと近づいている。
一同の不安が最高潮になった時、見たこともない巨大な鳥が草と木を薙ぎ倒して現れた。
しかし、その鳥は「魔法の絨毯」とは言えないほど、平らな部分はない。
そして、その足元にはゴブリンが息を切らしながら佇んでいる。
「「「うわ! 出た!」」」
全員が同時に叫ぶと、ゴブリンはマジックバードを連れてきたと誇らしげに言った。
「いや、掻き分けてそれかい!」と、想像していたものと違うと思い、原幹事長が叫んだ。
しかし、その鳥が翼を広げると、思っていたよりも広く丈夫で柔らかかった。
その上に一人ずつ、乗るようにと、ゴブリンが指示を出し、森川から高尾、川畑、車田、林、堂前、大財、雨宮、ゴブリン、福本、妖精、大場、勘解由小路、片岡、原、国破、ニンゲンの順に、横一列に並んで乗った。
全員が乗ったのを確認すると、ゴブリンはマジックバードに飛べと指示を出した。
すると、マジックバードは、勢いよく駆け抜けた。周りの木々や草に当たりながらどんどん前に進み、すぐに離陸した。
しかし、想像する魔法の絨毯とは違った。
全員が、翼の上で立って、景色を眺めながら飛ぶものだと思っていた。羽を左右の手でしっかり握ってうつ伏せで耐えなければならなかった。風の抵抗をできるだけ受け流すためだ。
「いや、これ危なすぎるだろ!」
片岡が力を振り絞って言った。凄まじい速度で移動しているのはわかる。辛うじて。
しかし、目を開けると、爆風によって一瞬で乾燥し、目が痛くなるので周りの景色はわからない。
話す言葉も、大声で言わないと、風によってかき消されてしまう。
「怖すぎる!」
「落ちたら死ぬじゃん!」
「手が……」
次々に言われる文句を、マジックバードは無視して高速で飛んでいく。
時折、氷の粒が当たるような気がして、痛かった。
雨宮は、死ぬなら今なんだろうなと、過去を回想し、走馬灯を見る段階に入っていった。
恐らく、ほぼ全員が同じ状況だっただろう。
どれくらい時間が経っただろうか。
目を覚ますと、そこは見知らぬ土地だった。どうやら、暴風と極寒、氷の打撃で、意識を失っていたらしい。幸い、鳥からは立たずに済んだようだ。
西に輝く橙色の夕焼けは、今まで見た夕焼けの中で一番美しく見えた。
「あ、ここは天国……?」
「ええ。死んだんでしょうね」
「え? いや、死んでないじゃないか!」
雨宮がパッと、体を起こすとそこは、柔らかく青々と茂った芝生の上だった。
あんなに激しいアトラクションを堪能した後だから、こんな場所で目を覚ましたら誰だって天国と思うだろう。
隣には、高尾外務大臣がぼんやりと、目を開けている。
ここは、雨宮内閣が魔法を手に入れるために目指していた、ブヘヘ村だった。




