23 新参者と第396代内閣総理大臣
「憲法により、総議員の過半数以上が賛成の場合、総辞職が認められます。それでは、現アルバート内閣の総辞職に賛成の方は、御起立ください」
議事進行係が全員に聞こえるよう声を張り上げ、時折裏声になりながらそう言うと、ほとんどの議員が起立し、内閣の総辞職が可決された。
「へー、こんな感じなんだな」と、森川が言うと、川畑も「あぁ」と言い、それに続いて数名が驚きの声を上げた。
それから、先ほどまで内閣総理大臣であった、アルバートという議員が十分程度スピーチし、続いて五名の要人がスピーチを行った。
どれもこれも同じような内容で、雨宮はウトウトしてしまい、車田や林、森川、川畑は眠ってしまった。
福本や大財もあくびを噛み殺していた。
先ほど、妖精から渡された今日の予定表を見ていた雨宮は、妖精が近くにいないことに気づいた。
「あ、おい! あの妖精は?」
「え? そういえば、これが始まってから見てないぞ」
「確かに、見てませんね」
雨宮に続いて森川、堂前も言う。どうやら、誰も妖精の行方を見ていなかったようだ。
「おいおい、あいつがいなかったら俺らどうしたらいいんだよ! 次の次に俺たちが登壇って書いてあるぞ!」
「え、嘘だろ⁉︎」
「いや、本当だ。これ見てみろよ」
雨宮の席に集まった雨宮内閣の閣僚は、みな思い思いの妖精への愚痴を言っていた。我々は、何も支持もされていない。どうすればいいのかもわからない。
着実に進む議事に、一同は焦りを感じていた。
その時、妖精が後ろの方から抜き足差し足で現れた。
「みなさん、お待たせしてすいません」
「おい! どこ行ってたんだよ!」
森川が怒りを滲ませて言った。
「すいません、足りない閣僚を連れてきました」
そう言うと、妖精は後ろの扉をゆっくり開けて、三人の人間を連れてきた。いずれも催眠術にかけられているのか、魔法にかかられているのかはわからないが、眠っていた。
しかし、足取りはしっかりしていて、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
そして、雨宮は彼らの顔を確認すると、驚き慄いた。
周りの議員たちは、こちらの様子に気を留めることもなく、議事に集中していた。
「おい! 原さんじゃねぇか! それに片岡も!」
「護さんもいる!」
妖精が用意すると言って連れてきたのは、雨宮がよく知る人物、護仁義国家公安委員長、原髙衞幹事長、片岡洋平衆議院議長だった。
「まさか、三人も連れてこられたのか?」
「ええ、連れてきました。今は魔法にかけてます。取り敢えず、座りましょう」
そう言って、妖精は再び強引に全員を座らせた。すると、ちょうど議事は雨宮がスピーチするタイミングに移り変わっていた。
「では、アメミヤさん。頑張ってください」
「いや、頑張れって言われても……」
雨宮は、ぶつぶつ言いながら、登壇場を目指した。千人を超える議員の視線を一点に集めながら、さっき急いで書いた原稿用紙を胸ポケットから取り出す。
「えー、ご紹介に預かりました、雨宮隆一です」
自己紹介を軽くしただけで、拍手が沸き起こった。前内閣総理大臣は、これは頼もしそうなやつだというような視線を送ってきた。
それから、長々と台本を読み、雨宮の登壇を終えた。
「いやー、なんかすげえ緊張したー」
「お疲れ様です。総理。良かったですよ」
隣に座る福本官房長官が、苦労を労ってくれた。
次の次の議事で、雨宮たちは国王に、次の新たな内閣として任命される予定になっている。
その前に、四十五分間の休憩があるようだ。
控え室に一堂が会する。
魔法から解放された原、護、片岡は、ここはどこだと首を左右に何度も往復させている。
「原さんもみんなも、聞いてくれ! ここは異世界らしい」
「はあ? 何言ってんだよ!」
「本当なんだって! 見たことない人とかいただろ?」
「あ、まあ確かに……」
それから二十分に渡って、雨宮内閣と妖精が説得し、三人はようやく納得したようだった。
雨宮や川畑など、片岡の同期たちだけなら片岡らの説得は難しいかったかもしれないが、大財や堂前、勘解由小路ら大御所の説得もあり、比較的早く納得させることができた。
納得した三人に、雨宮たちと同じ正装を妖精が渡し、全員で着替えを手伝った。
「なんでこんなことになったんだよ」と、原が言うが、誰もそれには応えなかった。
この妖精が、日本の内閣はバランスが良かったからという、いささか無茶苦茶な理論をどう説明していいか、わからなかったからだ。
三人の着替えを終え、すぐに議場へ戻る。すでに、ほとんどの議員が着席しており、雨宮たちも急いで席に着いた。
それから、しばらく雨宮たちは話を聞くだけになり、再び眠気に襲われながら、雨宮たちが内閣に就任する式次第が読み上げられた。
妖精に先導され、周りより一段高い段に乗り、雨宮から順に福本、勘解由小路、川畑、高尾と、順々に名前を読み上げられ、正式に、特例で雨宮たちが、この国の内閣に就任することになった。
盛大に拍手を送られたものの、雨宮はなぜ今ここにいるのかを改めて考えた。
(なんでここにいるんだろ?)
国王から、「アメミヤを、我が国第三百九十六代内閣総理大臣に任命し、以下各大臣をそれぞれの省庁の代表として任命する」と、勅令が読み上げられた。
これは、この国の憲政史上初めてのことだった。ある時は、強制総辞職があったり、内閣総理大臣臨時代理まで亡くなる事故があったり、総理大臣が失踪したり、死刑にされたりと、さまざまな出来事があった総理大臣職ではあるが、異世界から連れてこられた内閣は初めてのことであろう。
その事実は、他の議員には伝えられなかった。表向きには、前内閣の高齢化により、総辞職したということになっている。
つまり、雨宮内閣一同は、この国の人間と思われているのである。
しかし、この国の知識は皆目わからない。すなわち、この国での暮らし、なおかつ、内閣ライフは、相当気を配らなければならなかった。




