20 揉める内閣
次々と明らかになる事実と現実に、内閣一同は困惑していた。
そもそも、なぜ日本の内閣が選ばれたのか。雨宮たちは、訊きたいことが山ほどあった。
まず、森川がなぜ我々が選ばれたのかを問うた。
「それは、先ほども言いましたが、バランスが良かったんです。それに、日本の人間というのは真面目だと知り、それで連れてきたんです。わかりますぅ?」
最後の語尾に森川は再びイラついたが、なんとか抑えた。その後も、いくつかの質疑を終え、いよいよ国王と面会する機会を得た。
「それでは、皆さん。準備が整えば、迎えにきます。それまで、今しばらくここでお待ちください」
そう言うと、妖精は再び家を出ていった。妖精は早くこの狭苦しい家から出て行きたそうにしていたため、出て行く速度は以前よりも二割り増しで速かった。
「なんか私たち舐められてないか?」
そう言ったのは、大財財務大臣だ。大財は、人に指図されるのが嫌いで、ましてや得体の知れない妖精に支持されるのが嫌で仕方がなかった。それでも、感情を抑えて言った方だった。
「確かに、仮に我々が魔王を倒すとするならば、一種の英雄だろ? それなのに、こんな豚箱みたいなとこに放置するか?」
車田国交大臣も大財に続き、妖精らの愚痴を言い始めた。
「そうですよ。もう少し、丁重に扱って頂きたいわ」と、福本官房長官。
「まあまあ、皆さん。この後、国王と謁見することになっているんですし、ひとまず落ち着き
ましょう」
雨宮は、これで収まると思ったが、それは逆に火に油を注ぐような形になった。
「てか、総理。なんでそんなに冷静なんだ?」
「確かに。あんまり焦ってないように見える」
矢継ぎ早に、雨宮に対する文句が飛んできた。あくまでも、雨宮はリーダーである。ここは、総理大臣がまとめなければならないのではないか。そのためには、総理こそ落ち着いていなければならないのではないか。
ということを、雨宮は身振り手振り交え、一生懸命に伝えた。
それを聞いた一同は、渋々納得したように頷いたり、低い声を唸らしたりしていた。
それから、数名があくびをしたり、まだブツブツ妖精の文句を言ったり、仮眠をとるものもいたが、それは妖精の声によって遮られた。
「はい、みなさん。行きましょう! 国王陛下の元へ!」
妖精は、これは一世一代の出来事のように、張り切って雨宮たちを先導している。殿を務めたのは、最も身体の大きい国破防衛大臣だった。
国王陛下とやらがいるという謁見の間は、大きな宮殿の中にあった。黄金を基調とした壁に、誰が書いたのかわからない絵画が貼られ、床は赤のカーペットが敷かれていた。
宮殿は、三階ぶち抜き構造で、四階は官邸、五階は国会になっているという。
そして、六階に国王がいるという。
「へー。政治機関は一つに纏まってるのか」と、川畑は静かに呟いた。
「そうだな。便利そうだ」
森川も続いて言った。大きな宮殿は、入り口から最も遠い端に階段がある。
端から端まで歩くのに二十分はかかった。内閣の平均年齢は過去最低で、国民からの支持も高かったが、こればかりは全員さすがに堪えた。
「ひ、膝が……」
大財財務大臣は、膝をさすりながら歩き、高尾外務大臣と、車田国交大臣は腰が痛いと言い出した。
妖精は、この時ばかりは、あー、これは人選。間違えたかも知れないと思ったようだった。
なんとか端まで歩くと、そこには目を見張る大きな階段が聳えていた。一同は、その階段を見なかったことにしようと壁にへたり込み、しばらく動かなかった。
「ちょっと、皆さん。まだ一階ですよ」
「いやいや、キツすぎる。もっと休ませてくれ」
車田がそう言うと、ほとんど全員がそれに同意し、妖精は仕方なく、昇降機に乗ろうと言った。
「エレベーターがあるなら最初から言ってくれ」
「エレベーター? 昇降機でしょう。だって、国王陛下に会いに行くのに乗る人はいませんもの」
それはこの国のルールのようだ。しかし、雨宮内にとって、あまりにもその階段はキツすぎたのだ。見ているだけで、足が痛くなるそういう階段だった。
妖精が杖を振ると、エレベーターがやってきた。しかし、それはエレベーターと言えるほど頑丈で安全性は無く、妖精による、か弱い魔法によって動く、いわゆる物体浮遊を応用したものだった。
(えー、これかよ……)
一同は、必ずそう思ったのであろう。全員が、顔に大粒の冷や汗をかいていた。乗るか、乗らないか。
安全性は担保されていない。あくまでもこの妖精の力量にかかっている。
「最初は誰ですか?」
内閣は、再び閣議の様相を呈し、全員向き合って誰が最初になるかを話し合っていた。
「そりゃ、総理だろ!」
「いや、ここは体が丈夫な車田さんか国破さんに……」
「若い子の方がいいんじゃないか?」
「女性は後の方がいい」
結局、討論の末、雨宮から乗ることになったのだが、一同は何の生産性もない討論を繰り返し、この後、国王の叱責を受けることになるのであった。




