18 事実は、小説よりも奇なり?
ようやく、この世界にも慣れてきたという頃。この世界では、日本でいう秋のような雰囲気があった。
この世界の住民は、なにやら軽装で頭にターバンのような布を巻き、薄い布を足元まで纏っている。つまり、体につけている服といえば、小さな布と大きくて長い布の二枚だけだった。
初めは、女性閣僚は、そんな服装は嫌だ! と、嫌々反抗していたものの、ブサイクな妖精がそのざわめきを鎮めるため、訳のわからない呪文を言い、杖の先から炎を繰り出した。
それを見た一同は、これは本物だと、仕方なく妖精が用意した薄汚い布を纏うことになった。
高尾外務大臣は、雨宮に日本に戻れたら責任とってもらいますからねと、野党みたいなことを言ってきた。もちろん、冗談ではあるが、この世界にいる以上、冗談に聞こえなかった。
「それにしても、魔王なんて本当にいるのか?」と、妖精が用意した味の薄いお粥のような料理を食べながら森川が問う。
「いる! 今、この国の政治は終わっている! だから、お前たちにこの国の政治をして欲しいのだ」
「「「は⁉︎」」」
雨宮たちは、それは初耳だと言わんばかりに、驚きの声をあげた。魔王を倒すということは聞いていたが、この国の政治をするというのは初耳だった。
「ちょ、ちょっと待てよ。この国の政治をするってことは……どゆことだ?」
威勢に任せた大財財務大臣だったが、途中で脳内思考がぐちゃぐちゃして、自分でも何を言いたいのかわからなくなったようだ。
「いやいやつまり、俺たちがこの国の軍事力を使って、魔王を倒すってことか?」
「うーん。半分正解で、半分不正解!」と、妖精は甲高い声で叫ぶ。
つまり、妖精が言うには、政治家が直接闘うと言うことだった。そして、それぞれの大臣には、それぞれのスキルがあり、それはまだわからないとのことだった。
「いやいや、それなら総理なんてすげぇパワーあるスキルなんじゃ?」
「あ、確かに!」
雨宮は、その事実を聞いて、少し嬉しくなった。総理大臣ほどの権力があるなら、それ相応のパワーやスキルがもらえるに違いない。
「ちょっと待て。それなら、俺はどうなる? 俺は農林水産大臣だぞ!」
林農林水産大臣が、俺だけ弱そうだと言う。確かに、農林水産と言えば、闘いのイメージはない。どちらかと言えば、田舎でのんびりと暮らしているイメージだ。一同は、それを聞いて笑いを堪えられなかった。
「いや待てよ。じゃあ俺も弱そうじゃないか!」と言ったのは、勘解由小路総務大臣。
「そもそも総務ってなんだよ!」
「知らねぇよ!」と森川がイライラして返す。
「まあまあ、皆さん落ち着いて。それぞれに相応しい能力があるはずですから、それをこれから確認していきましょう」
妖精が一同の怒りを落ち着かせながら、次の話題へと進む。
「魔王というのは、隣国のヒーライ国の大統領です。そいつは、最近高い関税を我が国にかけてきて、我々庶民は苦しんでいます。そいつを倒すのが、皆さんの役割です」
「いや、ちょっと待てよ! それって、戦争ってことか?」
川畑法務大臣が目を丸くして問う。確かに、隣国の大統領を倒すなんて、何世紀前の話なんだと雨宮も思った。
「はい。そうです。この世界では、戦争は国民を使うのではありません。政治家がそのスキルを使って闘います。もちろん、内閣総出で。皆さんの世界とは違いますか?」
この問いには、一同は深く考えさせられた。雨宮たちが代表する日本、そしてその日本が存在する世界では、国民を使って、相手の国民を殺すと言うのが戦争だ。
そして、殺し合った結果、どちらかに軍配が上がる。政治家は、安全なところで指示を出して、戦況を見守るだけだ。
戦争をする政治家は、まず政治家が直接闘えという意見を、雨宮たちは何度も聞いたことがある。歴史を勉強しても、そのようなことを言う当事者は多かった。
「確かに、国民に戦わせるよりは我々が闘う方がいい」
国破防衛大臣がそう言うと、雨宮含め、一同は大きく頷いた。
どうやら雨宮たちは、今は異世界の重要人物らしい。その事実がゆっくりと、しかし確実に押し寄せてきた。
「じゃあ、やるしかないのか」
「ええ。やらないと皆さんは帰れません」
「仕方ない。やりましょう皆さん」
雨宮がそう言うと、一同は頷いた。中には、まだ納得のいかない大臣もいたが、こんなところで反対しても何の意味もないと悟ったのか、同意してくれた。
「ありがとうございます! では、私は国王にアメミヤなるものがやってきたと伝えてきます」
そう言うと、体が小さい妖精は、小さい羽を一生懸命パタパタと羽ばたかせて、そそくさと狭苦しい家から出ていった。
残された閣僚は、ため息をつき、一人また一人と眠りについていった。
雨宮は、その世界を眺めながら、これからどうなるのかと思いを巡らせた。部屋の中は、車田国土交通大臣と国破防衛大臣のイビキが響き渡っている。
あの妖精には、配慮というものがないのか、女性も同じ部屋に放り込まれている。堂前文部科学大臣と高尾外務大臣は、二人一緒に部屋の隅に固まって眠っていた。
川畑法務大臣と杉林環境大臣は、互いの足を上手いこと枕にして眠っていた。
しばらくすると、隣には、眠れなかったのか森川がやってきた。
「総理、あの妖精の言ってること本当だと思うか?」
「本当かどうかはわからんが、一応あいつの言うことを聞いてみる。それが上手くいけば、戻れるかも知らんしな」
「なるほど。総理が全権を持っている」
我々は総理についていくだけだと、雨宮の肩を叩いて、同じように何の意味もなく、暗い外を眺めていた。




