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想い出せない記憶の奥に残る何か

 『………この校庭………また………会いたい………』


 失われた想い出の奥に残った微かな微かな記憶。誰としたのかは思い出せないけれど、確かにした約束。それを胸に私は今日から新しい日々が始まる。


 ちょうど1年前の雨が降りしきる春の日。私はハンドル操作を誤った車にはねられた。幸いにも身体には傷はなかったけれど、事故の時よりも前の想い出がほぼ全て失われてしまった。


 それでも知識は残っていたから、学校での勉強に支障はなかった。でも、想い出の記憶を失ってしまうと、友達との関係は上手くいかなくなってしまった。

 そもそも、元から上手くいっていたのかも私には記憶が残っていないからわからない。ただ、それを教えてくれる友達と呼べるような存在はあまりいなかったから、むしろ記憶を失ってよかったかもしれない。


 そんな中、中学卒業、高校進学を控えた私達。私はみんなが行かないような高校を選んだ。と、言うよりも私の記憶が戻るようにっていうお母さんの配慮で、小学校の頃まで住んでいた街に戻って、そこから通える距離の高校を選んだ。


 そして、戻ってきた街。相変わらず想い出は何一つ想い出せない。街並みに見覚えはあるような気もするけどよくわからない。 ただ1つだけ……通っていた小学校に来た時だけ、ズキりと痛む頭と共に、桜の木の下で誰かと約束をした記憶が微かに戻ってきた。


 そんな話をお母さんにしたら、やけににこやかな表情で私を見てくるのにちょっともやもや?した。



 高校の入学式の日。少し強い風が吹き付ける道を歩いて向かったのは通っていた小学校。桜が満開に咲き誇っている今日、あの木の下に行かないといけない気がした。

 少しの不安と、緊張を抱えて校門をくぐると、同じ年くらいの男の子が木の下で佇んでいた。

 その人に見覚えがある気がする、想い出さないといけないはずなのに、想い出せない自分がもどかしい。

 そして、一際強い風が吹き、桜が舞うと共に、その男の子と目が合った。


 私の心は、その男の子に惹かれていた。何も想い出せないけど、それでも目の前の彼と話したかった。すると、彼の方から話しかけてくれた。


 嬉しかった。でも、相手が誰か想い出せないのにそのまま話すことは失礼だと思ったので正直に伝えたんだ。少し悲しそうな顔をした彼だけど、すぐに元に戻り、少しだけ話をして別れた。


 どこかでまた会えることを願って……いたら、入学した高校の同じクラスに彼はいた。



 心の奥の何かが、強く叫んでいた。

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