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紀伊島の海月  作者: じゅん
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思い出の海月

紀伊島の大峰の物語。

1971年 夏__


俺は、小さな町で過ごしていた。民族紛争時代は終わり、人類が衰退を余儀なくされたこの世界の端で。


『神辺くん…!』


船から落ちたあの日、俺は思った。死んだ、

と。クラスメイトの臼井さんが俺に向かって叫ぶ。孤児だった故に高校のクラスでぼっちだった俺に、唯一話しかけてくれた彼女の手が、空気と海の境界線を越え俺へと一心にさし伸ばされている。

(臼井…さん)

俺は必死に差し伸べられた手を取ろうと努力したが、実を結ぶことは無かった…。


学校旅行で死ぬのかと、俺は自分の人生を呪う。肺の空気が無くなるを感じて体に力が入らず、どんどん海へと沈んでいく。

淡水と海水が入り交じったこの地球の海はほとんどの生物が進化や変異を余儀なくされ、その途中である未知の海に誘われていく。


意識が遠のいていく最中、青白い光がみえた。最後の力を振り絞り、月明かりを照らす水面から目を逸らし、底の方を見ようとした。そこには巨大な海月(くらげ)がいた。

その海月を見るなり、俺は走馬灯のように母との会話を思い出してしまう。当時7歳の時、母と共に博物館の資料を移送する現場を見に行った時に語られたその内容は、俺が海月を好きになった原因である。

しかし、皮肉なことにその海月に食べられそうになってる。俺は見るんじゃなかったと思いながら、逃げようとしたが逃げきることは出来なかった。そして何かが口の中に入り込んだのを感じ、俺は意識を失った。




俺が再び目を覚ますと、海にプカプカと浮かんでいた。と同時に猛烈な吐き気を感じる。

嗚咽を繰り返すが、肺に違和感を感じる。体を垂直に戻し、冷たい海の水を感じながら、辺りを必死に見渡し、自体の解決をする方法を必死に考えた。その時、俺の顔に光が当たる。俺は紀伊島の灯台を見つけた。アウターを脱ぎ去り、俺は上裸で明かりを目指し泳いで行った。


灯台の元へたどり着いた。15分ほどは泳ぎ続けただろう。再び足を地に着けた時、大地の有難みを感じる。俺は安心感からだろうか、突然の睡魔に襲われる。しかし、ここで寝れば大々的な狩りが行われているとはいえ熊の餌になってしまうだろう。そう考えるうちに俺は二度も意識を失うことになった。


二度目の目覚めは病院であった。どうして病院と分かったのかというと病弱な俺は良く病院へ通い、かかりつけの病院の匂いなどとっくの昔に覚えていたからだ。暖かい日光が顔に当たる。手足もちゃんと付いていることを確認し、ひとまず安心する。どうやら病院のベッドのようだ。呼吸器を外し、俺は上半身を起こす。そして椅子に腰掛ける臼井さんが眠っているのを確認した。

 確認したのと同時に、俺の頭は一瞬フリーズした。どうして臼井さんがここに?普通に考えればお見舞いか。まず、どうして俺は病院に寝ているのか。俺は再び寝たフリをする。特に深い意味は無い。

しかし、振り子時計は時刻を伝えるために、11回響いた。臼井さんは確実に目を覚ましただろう。俺は薄目で臼井さんを見ようとした、がそれは失敗に終わることになる。

なんと彼女が俺の顔を覗き込んでいたのだ。

「いま、寝たフリしとこって思ってたでしょ」

彼女は悪戯っぽく笑う。俺の顔はきっと赤いだろう。俺は思わずそっぽを向き、太陽の光に髪を茶色に輝かせる彼女のさっきの姿を思い出す。

「そっちだって寝てたじゃねぇか」

小声で言った俺の愚痴に彼女は食い気味になんですって、と返事をする。

「とりあえずお医者さんを呼ぶわ。神辺くん。私も一緒に居てあげましょうか?」

「え?なんで」

彼女は少しを目を逸らし右上を見つめた。

「…午後の授業もサボりたいし。。それに毒海月まみれで発見された貴方を一人にしておけないわ。それに…」

彼女が口ごもる。

「いくら神辺くんがドジって海に落っこちたと言っても、私が甲板に呼び出したわけだし…」

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