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「ありがとうございました」

 頭を下げて帰っていく高畑を見送ってから、ミナは有理に尋ねた。

「どういうつもり?」

「あれ、褒めてくれないの? 無理心中を止めたのよ? 命の恩人の悪魔よ?」

 有理は玄関のドアにかけてある相談所の看板を裏返しながら口ずさむ。楽しそうな様子に顔を顰めながら、ミナは言った。

「他に止め方があったんじゃないの? デート中に押しかけて告白して玉砕しろって?」

「玉砕しろとは言ってない。天使のミナが味方でもやっぱり無理?」

 何を期待しているんだか。もちろんミナには、物語世界のキューピットのような能力はない。

「どんな天使でも無理よ。どう考えても、高畑さんは振られるわ」

「やっぱり?」

「やっぱりって、貴女も分かって言ってるでしょ」

「だって、その方が面白いじゃない」

「悪魔って、やっぱり最低」

「大丈夫、自覚はあるから。それより、明日ね」

「水族館?」

「ミナ、私たちも行くよ」

「え?」

「人生相談のアドバイザーとして見守らないと」

 パン、と両手を合わせて、有理はミナに微笑んで見せた。

「ミナは初めてだもんね、依頼者の見守り」

「そんなことやっているなんて、初耳なんだけど」

「たくさん魂を入れてくれたお客様へのサービス」

「見守りってどうするの?」

「必要なら更なるアドバイスを提供する感じかな」

「ふーん。で、なんで私まで行かないといけないの?」

「だって、貴女は私のパートナーじゃない? それに行ったことないでしょ、アクアランド」

「ないけど」

「それに、こんなこともあろうかと、用意してたものがあるの。ちょっと待ってて」

「有理?」

 有理は寝室として使っている個室に向かい、何やら大きな紙袋を持ち出してきた。

「はい、これ。明日着てきてね」

 ミナが渡された紙袋を覗くと、そこにはタグがついたままの服が何着か入っていた。

「何、この服」

「プレゼント。ミナ、いつもその同じ服着てるじゃない」

 たしかにミナは、今日も天使として支給された洗いざらしの木綿の服を身につけていた。地上で働く天使にとっては支給された服は制服みたいなものだ。支給の服で何も不自由はしていない。

「いいよ、大丈夫」

 いきなりのことに戸惑いつつも、ミナはその袋を有理に押し返した。しかし有理はミナに無理やり袋を持たせた。

「私がミナに着て欲しいの。だから、着てよ。だって明日はデートだよ?」

「デート?」

 聞きなれない単語に聞き返すと、有理は口角をあげながら「デート」と再び言葉を返す。

「二人の人間が待ち合わせして水族館に行く。これのどこがデートじゃないの?」

「待ち合わせするの?」

「うん、明日11時に駅の西口集合で」

「そもそも仕事でしょ?」

「仕事だけどデートなの。それに、仕事のことを考えても、私が買ってきた服の方が周りから浮かなくて都合がいい」

 ミナは別に普段の格好でも周囲から浮いているようには感じていなかったが、有理からこのように言われると反論しにくい。そもそも悪魔に口で勝とうとするのがまず間違っている。有理がこうすると決めた以上、天使でありながら悪魔の助手をしているミナには従う以外の選択肢は残されていないのだ。

「ミナ、着てきてくれるよね?」

「……分かった」

 渋々と頷くと、有理はぱっと顔を輝かせた。有理の笑顔を見ると、ミナは何故か、まあ仕方がないかと思ってしまう。

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