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第3話 謎の感覚


「(どうしよう~、いつまで頭下げてよう~)」

 京介と2人で話していたら、波風さんが教室に戻ってきた。

 席を借りる為に勢いよく頭を下げた俺だったが、未だに帰らずにいる波風さんによって頭を上げるタイミングを失ってしまった。

「部活でもあるの?」

「俺も(あきら)も部活には入ってないよ」

「だったら、早く帰ったら。今朝、怪物が出たこと知らないの?」

「知っているよ。ニュースでも見たけど、そこでずっと頭を下げている暁が教えてくれたから」

「(ちょっ、京介さん!!)」

 まさかのキラーパスが京介から渡された。

京介のことだから、俺が波風さんのことを怖がっているのは分かっているはずだ。

面白そうだと思ってわざと俺の方に振ったのだろう。きっと、心の中で楽しんでいるに違いない。

「誰?」

「えっと、影宮(かげみや) (あきら)って言います。一応、同じクラスです」

 京介が俺の名前を出してくれていた筈だが、誰?と言われたので顔を上げて自分の名前を教えた。

「影宮? それで、あんたはどうして早く帰らないの? 怪物がまた現れるかもしれないんだよ?」

「いや、その、この近くに現れた訳じゃないから大丈夫かなと思いまして」

「何が大丈夫なの? 怪物はいつ何処に現れるか知っているの?」

「いえ、分からない・・・です」

「じゃあ、何で大丈夫なの?」

「き、きっと、ヒーローが助けに来てくれるからです」

「ヒーロー?」

「ほら、何度かテレビに映っていたの知らない? 暁は、怪物が現れても正義のヒーローが必ず助けてくれるって信じているんだよ」

「何それ、フィクションじゃないんだから、必ず助かるなんて保証は何処にも無いでしょう」

「来てくれますよ、必ず」

「・・・何で、そんな風に言い切れるの?」

「えっ、いや、何でだろう? でも、不思議と助けてくれると思ってしまうというか」

「暁はいつもフワッとした言い方しかしないな。まあ、でも建物に被害が出ても未だに死者は出ていないから、ヒーローに十分助けられていると言えるんじゃないかな」

「はあ、もういい。まともじゃない2人に話しても無駄だった」

「暁はともかく、俺までそういう判断されるのは納得いかないな」

「いや、俺も納得いきませんけど」

「影宮って言ったっけ?」

「は、はい!!」

「あまり、ヒーローに夢を見過ぎない方が良いよ」

「えっ?」

 波風さんが最後に言った言葉は、俺にだけしか聞こえないほどの小さな声だった。

 一瞬固まってしまった俺は、教室を出ようとしていた波風さんの方をすぐに見た。

 波風さんの背中を見て、何故か心が締め付けられるような感覚になった。

「どうした? 暁。急に、ぼーっとして」

「う~ん、俺にも分からない」

「波風さんから解放されて、ほっとしたのか? 随分と怖がっていたし」

「確かに遂さっきまでは怖かった筈なんだけど・・・」

「最後に何か変なことでも言われたのか? 俺には聞こえなかったけど」

「変なことと言えば、変なことだけれど。でも、それだけが原因じゃなくて」

「気になる事があるなら、明日本人に聞いてみれば良いんじゃない?」

「そ、そそそそ、そんな勇気が俺にあるとでも?」

「やっぱり、怖いものは怖いんだね」

「そもそも、女子ときちんと話せるかどうか」

「・・・・・聞きたいことは、きちんと自分の力で聞いてくれよ。俺は、手伝わないから」

「えっ!? 無理だよ!?」

「それじゃあ、俺達も帰ろうか」

「待ってくれ。せめて、一緒に作戦を考えよう。相手に嫌われない挨拶ってどうしたら良い?」

「むしろ、どうやったら挨拶で嫌われることが出来るの?」

 ヒーローの話をしていた筈なのに波風さんが現れ、いつの間にかどうやって女子に挨拶をするかという話しに変わってしまっていた。

 不思議な感覚が何だったのか分からないまま、結局その日は家に帰ることにした。



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