no.5
『ねえ、ワタル。
アタシの肉球触る? 』
猫のリリアが、僕に猫なで声で話しかける。
僕はリリアを見ないように「別にいい」とだけ言った。
リリア、お願いだから、僕にかまわないでくれ。
そんな思いも空しく、リリアは僕に話しかけてくる。
『アタシがいいって言ってんのよ?
ほら、ワタル〜』
そう言うと、リリアは僕の目の前で横になり、わざと肉球を見せ付ける。
ピンクの肉球がとても綺麗だ。
ぷにぷにの肉球に、思わず心を奪われた。
――嗚呼。僕ってなんてだめなニンゲンなんだろう――
僕は欲望の赴くままにリリアの肉球に触れる。
ぷにぷにとした感触は、僕の予想を裏切らず、いや、予想を遥かに超えた最高の感触だ。
『気持ちいい? ワタル』
「うん。とっても――」
僕は肉球を触り、悦に入っていた。
それにしても、なぜ僕の手には肉球がないんだろうか。
もしあったら、僕は間違いなく触り続けるに違いないのに。
そんなことを思っていると、リリアはうっとりとした声を出しながら僕に話しかける。
『ねぇ ワタル。
アタシね、今度はキャットタワーが欲しいの。
ちょっと大き目のやつ。
ねぇ――いいでしょ? 』
それが、今回の狙いか……。
あの日――僕がリリアと話をしたその日から、僕はリリアの我侭につき合わされっぱなしだ。
一度は断った。
でも、断ると、今度はリリアに触れることすら出来ない。
リリアが触らせないのだ。
今までなら、写真で満足できていたんだけど、
さすがにあの毛並みに触れてからは、僕はもうそんなもので満足できなくなっていた。
やはり所詮は紙だ。
本物には勝てない。
仕方なく、僕はリリアの我侭を聞く羽目になっている。
リリアに触れるごとに僕のお小遣いは見る見るうちに減っていった。
なんて我侭な猫なんだ!
性悪猫め!!
僕は肉球を触りながら、もう片方の手でリリアの喉を撫でる。
リリアは気持ちよさそうに、目を瞑って、喉をごろごろと鳴らした。
――嗚呼。なんて可愛いんだろう。
我侭な性悪猫であっても、
やっぱり、やっぱり僕は、猫が好き。