no.4
「……それだけ? 」
『それだけって……あんた馬鹿?!
あたしたちにとって、結構死活問題なのよ。
大体あたしたちがそういう時、なんて言ってるか知ってるの? 』
リリアは目を少しぎらつかせて僕を睨んだ。
「い、いや。知らないけど……」
僕が来るとすぐ逃げてしまう猫たちの声を僕が聞けるわけないじゃないか。
そうリリアにいいそうになるのを我慢する。
うっかりリリアを怒らせてしまっては、猫に触れるという僕のささやかな野望が成就されない。
僕がしおらしくしていると、リリアは鼻をフンっと鳴らして僕の耳にこっそり話しかけた。
『そういう時ってね、
結構悪口言ってたりするのよ』
彼女の息が、僕の耳をくすぐる。
そう――なんだ。
でも、それくらいで?
僕は別ににゃあにゃあと甘えている猫たちが、
悪口を言っていてもかまわない。
それどころか、僕の近くにいてくれるのであれば、
どんな罵詈雑言を言われてもいいくらいだ。
『あんたがもし、他の人間に喋って、
そのことが伝わったとしたら、色々面倒くさいのよ。
野良だっているし、飼われている猫も飼い主がなんて言うか……。
まぁ、とにかく。
触らぬ神に祟り無しってやつ』
リリアはそういうと、尻尾をくにゃりと曲げて、僕の頬を撫でる。
柔らかな毛並みの尻尾に、僕は思わずうっとりとした。
なんて気持ちがいいんだろう。
「リリア、僕は本当に猫が好きなんだ。
だから、猫が嫌がることなんてしないし、これからもするつもりないよ」
僕はリリアの尻尾の感触に、思わず目を瞑った。
なんて、なんて気持ちがいいんだろう!!
嗚呼。
触れたい。
撫でたい。触りたい!
僕は我慢の限界だった。
「リリア! 」
と彼女の名前を叫ぶと、右手で彼女の喉の辺りを撫でる。
『ちょっと! まだ良いって言ってないわよ! 』
そう言って、僕を睨みつけるが、彼女は次第にうっとりとした表情になり、
喉をごろごろと鳴らし始めた。
今まで伊達に「猫雑誌」を見ていたわけじゃない。
猫が気持ちよくなる場所はすでに習得済みなのだ。
――実際触ってみるのは初めてなんだけどね――
『仕方ないわねぇ。
その代わり、マタタビを買ってきて頂戴?
それと、高級猫缶。
金色のラインが入ってるやつね。
青いラインのは絶対買わないで。
あれ、あんまり好きじゃないの』
ごろごろと喉を鳴らす彼女は、かなり我侭なことを言っている。
しかし僕はそんなことは些細なことだと、このときは思っていた。
そう、この時は、だ。