no.3
僕の疑問を解きほぐすように、リリアは説明してくれた。
『あんた、近くに誰もいないはずなのに、誰かの声を聞いたことない?
しかも返事したこと、あったでしょ?』
そういえば、そういえばそんなことあったな。
確か二、三年くらい前の話だ。
その日、僕は『お化けが出る』という、近所では有名なボロ家に友達と肝試しをした。
その時、確かに、なにかの声を聞いた。
ちりちりという鈴の音と、子供の声。
最初はてっきり友達がからかっているんだろうと思って、
かなり馬鹿でかい声で返事をしたんだ。
「なんだお前たち、知ってるんだぞ!
そんなことしても、僕はだまされないからな! 」
……そんな事も言った気がする。
お化けだったらどうしようと思いつつ、僕はまるで余裕があるかのように喋った。
足はがくがくと震えて、僕は本当はものすごく怖かったんだけど。
その後、その声は『逃げろ! 』といったかと思うと、
屋根裏をばたばたと駆ける音とともに聞こえなくなったんだ。
友達じゃなかったってのを後日知り、
てっきり僕は『アレ』だと思っていたんだけど……猫……だったのか?
「もしかして、ボロ屋での話? 」
『ボロ屋?
アタシはよく知らないけど、猫界では有名な集会所よ。
時々近所の悪ガキが入ってくるから、そういう時は脅かしてやるんだって』
リリアは腕の辺りを毛づくろいしながら話す。
『集会所の話の後……なのかな?
子猫たちが電柱の影からこっそりあんたに向かって話しかけたら、
あんたその子達に受け答えしたみたいじゃない。
だからみんなあんたのこと、避けて通ることにしてるみたいよ。
もっとも、子猫たちは度胸試しってことでわざわざあんたの前を通ったり、
話しかけたりしてるみたいだけど』
「なんで?! 」
『え? 』
「なんで僕のこと避けて通るんだ?
僕はこんなに猫たちのことを愛しているって言うのに!
言葉が分かったからって、何だってんだ? 」
僕は長年の疑問をリリアにぶつける。
リリアは僕をじろりと見ると、にゃあと笑って答えた。
『きまってんじゃない。
あんたが近くにいると、にゃあにゃあ甘えているとき、
なんて言っているかばれちゃうからよ』