忘れられない彼~彼が求めるものは~
こんにちは。
真ん中 ふうです。
この物語は、短編「忘れられない彼~君との時間は~」「忘れられない彼~あなたが知らない僕~」とリンクしたお話です。
もし気に入って頂けたら、幸いです。
それでは、物語スタートです。
湊が欲しいものはなんだろう?
彼の誕生日が近づく度に、いつも思う。
5年と言う長い期間、付き合っているにも関わらず、いつも、答えは出ない。
その理由として、一つは、彼の持つ雰囲気。
彼はとても、美しく、仕草も優雅で、現実感をあまり、感じない。
そんな、神秘的な雰囲気が、彼を俗物から守っている気がして、下手な物をプレゼントだなんて、言いたくない。
もう一つは、彼自身が何も欲しがらない事だ。
付き合って最初の誕生日に、彼に言われた一言。
「形あるものは、欲しくないんです。なくしてしまった時に、悲しくなるから。」
彼の言葉はどこか、芸術的に感じる事がある。
それはきっと、彼には二面性がなく、ありのままをオレに見せてくれるからだろう。
何も隠さず、オブラートに包まず、思ったことも、感じた事も、そのままを伝えてくれる。
だからこそ、感性で生きている感じが、芸術味を出しているのだと思う。
オレはその、彼の素直さにも、ひかれ、安心感を得る。
「欲しくない」と明言されているにも関わらず、プレゼントを用意するのも、何か違う気がする。
だから、オレは、渡すことのないプレゼントをいつも想像して終わる。
「真言さん。」
優しい声がオレを呼ぶ。
ソファーでビールを飲んでいたオレは、声の方へ顔を向けた。
そこには体から滑らかな湯気を纏った、湊が立っていた。
シャワー上がりで、まだ熱いのか、湊は白いパジャマのボタンを一つ多めに外している。
そして、頭にはタオルを掛け、右手には、白い紙を持っている。
「これ、どう思います?」
オレが、白色の綺麗な指先から紙を受け取ると、湊は、オレの横に、体を寄せて座った。
彼からは、甘い香りがした。
最近買い換えた、ボディシャンプーの香りだ。
「これは?次のデザインの?」
湊が渡した紙には、新しい椅子がスケッチされていた。
「今回のお客さん、結構注文が多くて。これ、6回目のデザインなんです。」
湊は、うんざりした声で言った。
彼の仕事は、インテリアデザイナー。
基本的には、住居やホテルなどのインテリアの空間デザインを主な仕事としているが、まだ若い湊は、クライアントが定着しにくい。
なので、まず新しいクライアントの場合、家具のデザインを任せることから始め、湊のデザイン力を見せつける。
それを気に入ってくれたクライアントが、空間デザインを湊に依頼する流れになっている。
今回のクライアントはどうやら、少しめんどくさいらしい。
「良いと思うけど。何が問題なんだ?」
「ここ。椅子の脚のデザインです。」
そう言って湊は、体をオレに密着させながら、問題の場所を指差した。
フワッと湊の甘い香りが、オレの嗅覚を刺激した。
「これ、完全に僕を困らせようとしてますよね。」
湊は怒りながらも、頭の中では、新しいデザインを考え始めている。
その証拠に、湊は考え込む時に、指先を動かす癖がある。
今も、オレの肩で、指を遊ばせている。
そのリズムはバラバラで、それは、湊の頭の中で、デザインが浮かぶ度に変わっているように感じる。
しばらくすると湊は指先を止めた。
「一体何が欲しいんでしょうね。」
湊がため息混じりに言う。
「自分でもよく、分かってないんじゃないか?とにかく、湊が上げて来たデザインの中で、ピンと来るのが出るまで、待ってるんじゃないかな。」
「あと、何個描けば良いんですか?」
「それは、クライアント次第だな。」
そう言いながら、オレは仕事の話を終わらせようと、湊の頭のタオルをスルリと取った。
そこには、シャワー上がりで赤い頬をした、湊の顔があった。
オレは、迷わず、その赤い頬にキスをした。
すると、湊が呟いた。
「ここに、キスして下さい。」
そう言って目を閉じた。
オレは、湊が望むままに、湊を後ろへ、押し倒しながら、唇を奪う。
湊はオレの首に腕を絡ませながら、オレの唇を刺激した。
その刺激に耐えきれずに、オレは唇を湊の首に移動させ、同時に湊の脚を撫でた。
「…あ。」
それだけの事なのに、湊は気持ち良さそうな声を出す。
「次はどうして欲しい?」
少し、焦らして言うと、湊は恨めしい目でオレを見た。
「分かってるくせに。」
そうだ。
オレは分かってる。
湊が、オレにどうして欲しいのか。
何を求めているのか。
「湊、今一番欲しいものはなんだ?」
でも、オレは湊から聞きたい。
湊は、恥じらいながら答えた。
「…あなたです。」
湊はどんな時も、オレを求めている。
今まで、出なかった答えは、案外、簡単な事だと気付いた。
オレが湊を愛し続けることが、湊の望み。
そして、湊が欲しい物、それは、形なんかじゃ表し切れない、確かな愛情。
「真言さん…もっと…触って下さい…」
焦らせば、焦らす程、湊の注文は多くなる。
「わがままなクライアントだな。」
オレは、からかうように言う。
「何度でも、やり直して下さい。僕が満足するまで…。」
湊は、オレの与える刺激に身をよじりながら言う。
そして、決まってこう甘えてくる。
「愛してます…真言さん…。」
そんな時、オレは必ず湊が欲しい言葉をプレゼントする。
「オレもだ。湊…愛してる。」
オレは妻帯者。
それでも湊はオレを愛し、オレは湊を愛した。
世間からは、後ろ指を指されてしまう関係性のオレ達。
その事で、湊が寂しくならないように、辛い想いをしないように、精一杯愛していこう。
いつまでも…。
湊が望むままに…。
それが彼の求めるものなら、なおさら…。
「湊。」
「…ん?」
抱き合った直後の、気だるい湊にオレは話し掛けた。
湊は、枕をかかえて、うとうととしている。
そんな彼に、オレは覆い被さり、彼の手を握り、耳元で囁いた。
「お前だけだ…湊。」
すると、湊は静かに寝息を立てて、眠り始めた。
とても、安心した表情で…。
読んで頂き、ありがとうございました。
また次回も是非、ご覧下さい。