8 ジュリアス王子の懸想の相手 (後編)
アリディアは驚いていた。
相手が男とはいえ、浮気は【浮気】だ。
でも、いくら躊躇ったとはいえ、自分にそれを暴露するくらいジュリアス王子にしたら【本気】だ。
なのに、別れろと言ったら別れるのか。どうしてなのか、逆に聞きたい。
「言われれば別れるのに、わたくしとの婚姻も?」
「アリディアには悪いが、ルーカスの事があってもなくてもキミとの婚約は白紙に戻すつもりだ」
嘘偽りもない、ジュリアス王子の真っ直ぐな言葉にアリディアは余計に疑問に思う。
"私" とも "彼" とも別れるとはどういう事か。
他人が別れろと言って別れられるくらいなら、初めから黙ってアリディアと結婚すれば良い話だ。
意味が分からず、アリディアは小さく眉を寄せていた。
「アリディア。正直に言えばルーカスとの事を黙って、結婚する事も考えていた。だが、私はキミに "情" がある。でもそれは、愛情なのではなく家族に対する情だ。しかし、キミが王妃になれば、愛がなくとも閨を共にしなければならない。王となる者として考えが甘いのは重々承知している。だが、キミに愛情を感じていない私なのではなく、しっかりと愛情を与えてくれる男と一緒になって貰いたい。不誠実な私なりに、大切なキミに幸せになって欲しいと思ったんだ」
「それで、婚約の白紙ですか?」
「あぁ」
ジュリアス王子は、ジュリアス王子なりにアリディアに思いを伝えた。
要約するとーー。
ジュリアス王子は男色家。いわゆるゲイ。
情などない、他の令嬢なら自分の性癖は隠し、王族として最低限の責務は果たしていただろう。
だが、アリディアは大切な子だった。
だから、彼は自分の心を騙しアリディアを騙したまま、結婚して閨を共にしたくはなかった。
大切なアリディアには、本当に自身を愛してくれる男と結婚し、幸せな家庭を築いて欲しい。嘘の愛で塗り固めた自分に身を預けて欲しくない。
本当の家族を作って貰いたかった。
ーーという事だろう。
それもある意味、深い愛情だと思うのは私の頭がおめでたいからだろうか?
相手を想いやれるくらいの深い愛情だと、アリディアには感じた。
「ルーカス様との話は、わたくしと婚約を白紙にするためのパフォーマンスではなく?」
念のためにもう一度訊いてみる。
他に好きな人がいて、アリディアを悲しませないための嘘もあり得た。
「コ、コイツに惚れて、いるのは、本当だ」
ジュリアス王子は、顔を逸らしてそう言った。
耳が少し赤いから、ルーカスが好きだと言うのは本気の様だ。
あら?
ジュリアス王子が、何か可愛いんですけど?
「分かりましたわ」
アリディアは、スッキリした様に大きく頷いた。
頭で理解し、すべてを容認出来た。
彼の……彼等の本気の思いも伝わったのだ。そして、少し考える時間を貰ったにも関わらず、アリディアの心には今1つ結論が出ていた。
多分、以後ゆっくり考えても、その結論は揺るがないだろう。
だから、前を見据えて口にする。
「アリディア」
ジュリアス王子が辛そうに笑った。
理解してくれたと、思ったのだ。
だが、アリディアの出した結論にジュリアス王子は唖然とした。
「わたくし、ジュリアス様とは別れません」




