18 もう一つの結婚
「で、馴れ初めは?」
アリディアはのんびりと紅茶を嗜んでいた。
「……自由だな。お前は」
ジュリアス王子は、そう云わざるを得なかった。
愛人を認めるのにも驚愕したが、その愛人を初夜に呼びつける行動には脱力した。
寛大とか寛容を通り越して、アリディアの思考が理解出来ない。
自分だったらまず有り得ない行動である。
「馴れ初めは、お2人の秘密ですのね? でしたら、ルーカスは生まれてからすぐに、対象が男性でしたかご教示願えますか?」
好奇心が勝ったアリディアは、興味本位と今後のためにと訊いていた。
勿論、対象とは恋愛対象の事である。
「……違いますよ……多分」
ルーカスは観念した様に重い口を開いた。
逆らっても仕方ない相手だと、諦めたのである。
アリディアが目で続きを促せば、他人事の様に話を続けた。
「ウチは、代々女系家族でしてね。私の上には年の離れた姉が6人いるんですが、コレが厄介なタチでして……。そんな女系家族に生まれた私は、もれなく姉達の玩具でした」
「あ〜。多分、悪気はないんでしょうけど……」
「だからタチが悪いのですよ」
いじられて育てば、女嫌いになってもオカシクはない。
逆に可愛いがられて育てば、無意識のタラシに育つかもしれない。
男色に走るのは極端な気もするが、理解は出来る。
アリディアが同情すれば、女装までされて揶揄われ嫌気しかなかったと苦々しく教えてくれた。
「ジュリアス様は?」
ジュリアス王子は逆に、一人っ子で甘やかされた口だ。
どうして男色に走ったのだろうか。
ジュリアス王子に話を向けたら、途端に顔を顰めた。
「……王族男子にはもれなく閨教育がある」
「わたくしにもありましたわよ?」
言い辛そうにジュリアス王子が言えば、アリディアはキョトンと答えた。
記憶が確かなら、王族ではない女性のアリディアも閨教育はあった。
「実技で……だ」
「あら、まぁ」
王妃となるアリディアは当然だが、他の女性も書物での教育である。しかし、王子ともなれば実践である。
後腐れのない女性を吟味し、実技で教える。
噂話としてしか知らなかったアリディアは、恥ずかしい……とはならず感嘆の声を漏らしていた。
その声に、ジュリアス王子は気が抜けた。
気を遣っている自分が存外アホなのではと、感じてしまったのだ。
「その実技の前夜、侍女達に襲われかけた事がある。それ以来、女性は……ダメなんだ」
ジュリアス王子の閨教育がとある日にあると聞いた侍女達が、タッグを組んで襲いに来たらしい。
どんな状況であれ子供が出来れば、王妃か側室。ダメ元で愛妾だと浅慮な侍女達が、暴挙に出たらしかった。
そんな由々しき事態は、侍女達と共に闇に葬られたが、幼いジュリアス王子の心に傷を残したのである。
「姉に玩具にされ、侍女に襲われ、幼児愛好者に拐わかされた。……三者三様、人それぞれですけれど、わたくし……キズの舐め合いの様な形でお二方と接したくありません。わたくしに抱くのは愛情でも友情でも家族愛でも宜しいですが、"同情" だけはヤメて下さいね?」
アリディアはニコリと笑った。
2人が同情から始まった関係なのかどうかは知らない。
だけど、自分との関係は同情であって欲しくない。キズの舐め合いで癒しても、そんなのは一時的な見せかけだ。
幼き頃から知るジュリアス王子と、そんな関係を築きたくはなかった。
「「…………」」
アリディアがそういうと、2人は意味深で複雑な表情で顔を見合わせ小さく笑った。
その表情が何を示すのかは、今のアリディアには分からなかった。
「そうですわ。わたくしお2人に渡したいモノがありました」
アリディアは思い出した様子でポンと手を叩き、ベッドサイドのチェストから小箱を2つ取り出した。
それは、手のひらにポンとのる程度の大きさのモノである。
「なんだ? コレは」
手渡されたジュリアス王子は、眉を軽く寄せていた。
「まぁ、お開けになって下さいませ」
アリディアは2人の飲んでいたソーサーを片付けながら、開ける様に言った。
口で説明するより見てもらった方が早いからだ。
何だ? とジュリアス王子とルーカスは仲良く眉根を寄せながら、アリディアから受け取った小箱をパカッと開けた。
「これ……は」
ジュリアス王子に続いて開けたルーカスが、小箱の中を見て目を見張っていた。
先に開けたジュリアス王子の小箱の中を、見ていたからだ。
小箱の中に入っていたのは、ジュリアス王子は黒革、ルーカスは褐色の革のブレスレットだった。
互いの革には、この国の王家の紋章が彫ってある。
「わたくしからお2人へのプレゼントですわ」
アリディアはニコリと微笑んだ。
「プレゼント……どうしてコレを?」
プレゼントをくれる理由も分からないが、王家の紋章を刻むブレスレットの意味も分からない。
ジュリアス王子もルーカスも、アリディアの意図が全く読めなかったのだ。
「結婚した、わたくしとジュリアス様には結婚指輪がありますけど、お2人にはありませんでしょう? お揃いの指輪をとも考えましたけど勘繰られますわ。ですので、結婚指輪の代わりにブレスレットを」
本当なら結婚指輪を贈りたかったのだけど、さすがに怪しまれるだろう。
苦渋の策としてブレスレットにしたのだ。
「嬉しいが……コレとて、していたら勘繰られるだろう?」
ジュリアス王子が小さく笑った。
アリディアの気持ちは嬉しいが、同じブレスレットをしていたらオカシイと思われるに違いない。
「それは大丈夫ですわ」
アリディアは思わせぶりに笑った。
「どういう事ですか?」
ルーカスがブレスレットを見ながら訊いた。
自分もジュリアス王子と同様に、勘繰られると思っていた。
「おそらく明日には、近衛師団兵達、全員がしていますもの」
「「え?」」
「ソレと似たような物をわたくし達の結婚の記念として、王宮の護衛にあたって下さる近衛師団全員にお配りしてありますの」
カムフラージュですわ。
とアリディアは悪戯っ子の様に笑ってみせた。
ジュリアス王子がアリディアのために、家具を用意してくれた様に、アリディアも2人のためにブレスレットを作らせていたのだ。
「「…………」」
ジュリアス王子とルーカスは、根回しの速さに唖然としていた。
「とは言え、お2人のは特別ですの。内側を見て下さいまし」
アリディアはブレスレットの内側を、良く見る様に促した。
言われた様に内側を見ると、小さな宝石が一つ付いていたのだ。
ジュリアス王子には黒曜石が、ルーカスにはサファイアが埋め込まれていたのだ。
「「コレは……っ!」」
それを見た2人は、すぐに何かに気付き目を見張っていた。
黒曜石とサファイア。それが何を意味するのか。
「私達の瞳の色か……」
ジュリアス王子は震えた様な声を出していた。
こんなにも世間では異質な自分達の存在を認め、それを祝ってくれる。そんな温かい者がいるとは思わなかったのだ。
言葉だけではなく、心から認めてくれる。
それが何よりも嬉しくて、愛おしかった。
「……っ」
ルーカスはブレスレットを強く握り締め、俯いていた。
ジュリアス王子同様に、嬉しくて仕方がなかったのである。
「結婚おめでとうございます。ジュリアス、ルーカス」
アリディアはそう言って、2人の額に口づけを落とした。
結ばれる事のない2人。
誰も祝ってくれないのなら、たくさん自分が祝ってあげればイイ。アリディアはそう思ったのだ。
「ありがとう、ディア」
「ありがとうございます。アリディア様」
アリディアの目の前には、ジュリアス王子とルーカスの晴れやかな笑顔があった。
そして、2人はどちらともなく立ち上がり、アリディアを挟む様に優しく優しく抱き締めていた。
アリディアに出会って救われた。
今、この瞬間は、2人の心が報われた瞬間でもあったのだ。
「幸せになりましょうね」
「「あぁ、3人で」」
そう言って2人は目を擦ると少しばかり恥ずかしそうに、お互いにブレスレットを付け合うのであった。
その姿を見て、アリディアもあげて良かったと心から嬉しく思う。
だから、ついこう口走ってしまった。
「では、誓いのキスを……!」
アリディアは当然の様に良い笑顔で言えばーー。
「「しない!!」」
と息の合った声が上がったのであった。




