17 アリディア=サーディスクの結婚
穏やかで楽しい日々が過ぎ、ジュリアス王子とアリディアは晴々しく結婚した。
次期国王ジュリアスと、アリディアの結婚式は実に盛大であった。
国母であらせられるマデリーンの意向により、結婚式前後の数日間を今回に限り特別に祝日とし、馬車通りに参加を促した。
一目見たいと馬車通りは、市民達により埋め尽くされていた。
その通りを軍や警ら隊が仕切り、世界にこの国の軍の強さや統制をアピールしたのだ。
他国の貴賓を呼べるだけ呼び、絢爛豪華なパーティーを夜通し開き、世界中に財政の潤沢さ威光を知らしめたのであった。
そして、結婚した人がもれなく過ごす "初夜" を迎える。
侍女達に浴室で磨かれたアリディアは、着る意味があるのかと聞きたくなる夜着を着せられ、夫となったジュリアス王子の待つ寝室に向かった。
初夜、という事で当然ジュリアス王子がいたのだが、複雑そうな表情をしていた。
「どういうつもりなんだ?」
アリディアが寝室に訪れると、開口一番にジュリアス王子が言った。
何故かベッドの足元に座り、困惑した様子だった。
「夜着は、少し恥ずかしいので着替えましたが、いけませんでした?」
アリディアはいつもより、質素ともいえる服に着替えていたのが良くなかったのかと、小首を傾げた。
身体のラインどころか透けて見える夜着など恥ずかしくて、着ていられないとアリディアは、隠して置いた服を侍女が去ったのを確認して着替えたのだ。
「そう……いう話ではない」
「あら? なら、どういう話ですの?」
アリディアはさらに、小首を傾げてみせた。
ジュリアス王子は溜め息混じりに、壁を指差しこう言った。
「何故、ルーカスがいる」
そうなのだ。
初夜だというのにも関わらず、ルーカスまでもがいたのだ。
「何故って、初夜ですもの」
アリディアの方が言っている意味が分からないと、肩を竦めてみせた。
「その "初夜" に、何故、夫以外の者がいるんだ」
ジュリアス王子は大混乱中である。
覚悟と決意を胸に寝室に来てみれば、何故かルーカスがいた。
ルーカスに事情を聞く暇もなくアリディアが現れた。目下大混乱である。
「初夜が特別な日だからですわ」
「なら、尚更ルーカスがいるのはーー」
「ジュリアス様の "特別" は、ルーカスでしょう?」
アリディアはケロッとそう言った。
「「…………」」
ジュリアス王子、ルーカスは絶句である。
確かに言われてみれば、初夜を我々にくれると言っていたが、それは冗談だと思っていたのだ。
「え? まさか、すでにお2人の初夜は済ませてあるのですか!?」
「「違う!!」」
アリディアがビックリした様に言えば、ジュリアス王子とルーカスの声が綺麗にハモった。
2人の頬はリンゴの様に真っ赤である。
「ウブなのですね」
可愛いとアリディアが笑えば、2人は顔を見合わせ何か呟いていた。
「「…………」」
二の句が浮かばない2人。
年下の女性に翻弄しっぱなしである。
「今、お茶を淹れますわね?」
アリディアはあらかじめ用意していた茶器に、温かい紅茶を注いだ。
「ルーカスも突っ立っていないで、お座りになって?」
この部屋にはベッドしかありませんけど。
アリディアは揶揄う様にそう言うと、ルーカスは渋い表情をしていた。
だが、アリディアに目で促され渋々ジュリアス王子の近くに座るのであった。
「何かお話になられませんか?」
アリディアは寝室に唯一あった腰掛けに、座ってニコリと笑った。
「この状況で、一体何を話すんだ」
ジュリアス王子が疲れた様な声を上げた。
戸籍上の妻がいて、愛人がいる。そんな訳の分からない初夜があって良いのだろうか? ジュリアス王子は溜め息しか出ない。
「ルーカスとの馴れ初め?」
「「はぁァァァァ」」
アリディアが面白そうに聞けば、ジュリアス王子とルーカスから盛大な溜め息が漏れていた。
「大体、ルーカス。お前はアリディアに呼ばれたからと言って、何故来たんだ」
新婚の初夜だぞ? と複雑な視線をルーカスに投げた。
ジュリアス王子とアリディアとの関係は、割り切っていたのではないのか。
「 "来ないと後悔する事になる" とおっしゃったので」
仕方なくと続く言葉を飲み込んだ。
突拍子もない事をすると、最近イヤと言う程理解した。ならば行かない訳にはいかなかったのだ。
「ディア」
ジュリアス王子は咎める様にアリディアに言った。
それはもはや、脅迫ではないのか。
「初夜は、その言葉通り "初めての夜" ですのよ? その初めての夜を過ごさないなんて、後悔しますでしょう? だって、ジュリアス様の正妻はルーカスなんですから」
そう言って、楽しそうに笑うアリディアは、聖母より悪女に見えた。
「「…………」」
なんだか、とんでもない女性に秘密を握られた気がする2人なのである。




