16 似たモノ兄妹
「まぁ、こんな所に隠し通路があるのですね!」
アリディアは結婚後に自室となる部屋を、ジュリアス王子に見せてもらっていた。
この後、侍女に見せてもらう予定だったのだが、まだ時間があるからとジュリアス王子自らが案内と説明をしてくれたのだ。
アリディアのためにと、ジュリアス王子が好みの家具を用意してくれている。
どうやら、父や母に相談してあつらえてくれたらしい。
ベッドも少し、実家にある物に似ているのはそのせいか。おかげで、妙に落ち着く。
その寝室、ベッドの頭側の壁に、軽く押すと壁が反転して隠し通路があったのだ。
入り口こそ屈んで入るのだが、中は意外と広く人がすれ違えるくらいの幅はある。
王妃との茶会で、なんとなくそんな通路があるのを察してはいたが、実際見ると感動する。
面白そうだとアリディアの口が、つい綻んでいた。
「隠し通路で喜ぶとか……」
ジュリアス王子は複雑そうな笑みを浮かべていた。
「だって、なんかワクワクしません?」
「しないな。むしろ使用しなければいけない状況があった証拠だろう?」
先人の作ったモノとはいえ、これを使う時は逼迫した状況に決まっているのだ。
一応は教えてはおくが、そんな事態にはなりたくない。
「ですが、最近お使いになられている雰囲気はありませんし、ジュリアス様が王になられるんですもの、心配はしておりませんわ」
開けた時、スンと鼻先にカビと埃の臭いがした。
と、言う事は空気の対流がない証拠だ。床も良く見れば、白く砂埃が見える。
ここ数年は使用されていない証拠である。
「キミは無条件に私を信用し過ぎだ」
ジュリアス王子はコツンと、アリディアの頭を優しく拳で叩いた。
一時とはいえ、あんな理由で婚約を白紙にしようとした自分を、何故こんなにも信用、信頼するのだと苦笑する。
「未来の国王、未来の夫を信用しない理由の方が知りたいですわ」
「愛を理由に婚約を白紙にしようとした男だぞ?」
その寛大とも異常とも取れる信頼性に、ジュリアス王子は堪らず苦言を言いたくなってしまった。
「ルーカス様以外の方とは浮気しないで下さいね?」
「…………」
アリディアが口に人差し指を当て満面の笑みでそう言うと、ジュリアス王子は目を見張り、すぐに肩を竦めた。
特定した相手となら良いと、浮気を推奨する妻。
寛容過ぎる未来の奥方に、一生勝てないなと思ったのである。
「キミを幸せにする努力はするつもりだが、惚れた男が出来た時はすぐに教えてくれ。吟味、精査し、可と判断した後、下賜と言う形で結婚させよう」
ジュリアス王子は、本気でそう思っていた。
こんなにも自分を尊重してくれる女性が、未だかつていただろうか。だからこそ、アリディアが不幸になるのは許せない。
出来る限りの事はしてやりたいと、ジュリアス王子は心に誓う。
自分の幸せを心から願ってくれるアリディアを、ジュリアス王子は何故か無性に抱き締めたい気分になっていた。
もう、それは無意識である。
なんだか堪らなく愛おしくなり、気付けば優しくアリディアを引き寄せ、自身の腕の中にスッポリと大事そうに包んでいた。
「ルーカス様がいたら妬きますわよ?」
アリディアはジュリアス王子の行動に驚きつつも、ここにはいない彼を思いジュリアス王子の背をポンポンと叩いた。
婚約者とはいえ、好きな相手が自分以外と抱き合っているのだ。妬かない人はいないだろう。
「妬くのはいつも私の方だよ」
アリディアの頭の上から苦笑する声が聞こえた。
2人の事はまだ詳しく分からないけれど、主導権はルーカスにありそうだ。
「まぁっ! では、これからはうんと妬かせられますわね?」
「妬かせ……なんだか、これからずっと……キミには敵わない気がする」
そう言って、ジュリアス王子はコテンとアリディアの肩に頭をのせた。
「わたくし達のお子が男子だったら、名をルーカスにします?」
肩にのるジュリアス王子の頭を優しく撫でながら、アリディアはルーカスにも言った言葉をフと呟いてみた。
その瞬間、ジュリアス王子の身体がピクリと動いた気がした。
「……ヤメてくれ」
小さく小さくポツリと呟いた。
ルーカスにしろジュリアス王子にしろ、揶揄うと案外面白いのかもしれない……とアリディアは不敬な事を考えていた。
こういう所が、兄妹だとアリディアは気付いていないのであった。




