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アリディア=サーディスクの幸せな結婚  作者: 神山 りお


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10/19

10 浮気でも本気でも気にしない



 ◇*◇*◇




 帰宅したアリディアは、変なテンションであった。

 仮にも一時、婚約破棄をされそうになった令嬢としては、その態度は些か問題と言えば問題だ。

 数刻経ち頭が冷えれば、普通ならショックで泣いてもおかしくはない出来事だ。だが、アリディア逆に時間が経つにつれ、口を綻ばせていた。



 あの時、ジュリアス王子に言った事は本当だ。

 幼い頃に幼児愛好者に拐われかけたのも、それによって男性不信なのも。

 幼少から兄を通じて、ジュリアス王子とルーカスには接する機会が多く、彼等に対してだけは心的外傷トラウマを刺激しなかった。

 彼等の優しい気質が、アリディアの心を包んでくれたのだ。だけど、ジュリアス王子に婚約を白紙に戻されてしまえば、心穏やかな日々は一気に過酷になるだろう。

 また、一からの絆の構築など、今のアリディアに耐えられるか分からない。それ程にも、ジュリアス王子との生活が心地良かった。

 男女の仲など、全く必要ないくらいに。

 むしろ、なくても良いくらいだ。ジュリアス王子の愛情の全てが自分に向いていない。恋人がいて自分に向かう愛情が、半分かそれ以下なのが、逆にアリディアには丁度良かったのである。

 全ての愛情が自分に向けられれば、それだけ重い。全く愛情がないのも寂しい。適度な距離感が心地良かった。



 何より相手〈愛人〉がまた、男なのが良い。

 女が相手なら自分と嫌でも比べてしまうし、興味がなくとも少なからず嫉妬をしてしまう。だが、男には嫉妬の仕様がないので割り切れたし、何故かすんなり受け入れた。

 アリディアも良く知るルーカスだったのがまた、良かったのかもしれない。


 


 自分も心的外傷トラウマの事を誰かに話せて、スッキリとした気分だった。

 心配掛けまいと、家族にも使用人達にも言わなかった。それが、ずっと苦しかったのだ。何処か解放された様な、胸のつっかえが取れた日となった。

 アリディアも心のモヤモヤが晴れた気分だった。




 ーーバタン。




「お嬢様〜!! リーオの新シリーズが出てましたよ〜!!」

 着替えてソファに寛いでいたら、侍女のマーサが突撃して来た。

「扉とノック!」

 扉は開けたら閉めろとか、仮にも令嬢の部屋に、ノックもせずドカドカと入って来るなとか、言いたい事は山程ある。他家ならば、絶対にクビだ。

「いいから、見て下さい!!」

 本気で怒っていないのを知ってか、マーサはアリディアの顔の前にリーオの新刊を突き出した。



 その小説は、相変わらず男女ではなく、男男が背中を向けている表紙。

 絡み合ってないので普通に見ただけなら、いかがわしい本だとは思わない。

 なんでもリーオの小説は、男男の話でも表紙は普通にしてあるそうだ。女子が手に取りやすい様に、表紙もタイトルもあからさまにエロい感じにはしてないとか。

 確かに絡み合った男X男の表紙だと、手に取るのも買うのが恥ずかしい。

 その配慮がまたイイんです! とマーサが言っていた。

 そんな彼女を見て、アリディアはふと思う。この侍女に、ジュリアス王子とルーカスの話をしたら、絶対お祭り騒ぎになるに違いない。小躍りし、アリディアに根掘り葉掘り訊く姿が、安易に浮かぶ。

 チラッと、小説の題名タイトルが視界に入った。





 【金獅子王子と黒薔薇の騎士】





 ーーブフッ!!




 その題名タイトルにアリディアは、紅茶を吹き出してしまった。

 だって、侍女マーサが持って来る小説は、ほぼ100%同性愛の本だ。しかも、男X男。

 それを踏まえてのこのタイトルである。

 タイムリー過ぎて、アリディアが紅茶を吹き出しても仕方がない。




「アリディアお嬢様、汚いですよ?」

 マーサはメイド服のポケットから台拭きを出して、溢れた紅茶を拭いていた。

「何故、この小説を私に貸すのかしら?」

 アリディアは動揺を隠し、いつもの口調と表情を心掛けた。

 ジュリアス王子とルーカスの事は知らないだろうが、どうしても聞かずにはいられなかった。

 大体、この作家リーオは、どういう環境で過ごしていると、この話を思い付くのか。1度会って訊いてみたいものだ。

 昔なら処刑される案件だろう。現在の国は、表現の自由が許されている。だから、大衆で売られ人気があるのだろう。

 しかし、コレは……不敬罪で処罰対象にはならないとしても、国王夫妻が知ったら卒倒しかねない。自由にも程がある。

 ジュリアス王子達が知ったら、どんな反応が返ってくるのか。

 もう、色々な事が頭の中を駆け巡っていた。




「ジュリアス殿下と騎士団を間近で見て、ムフムフして下さい」

「バカ言わないでちょうだい。サリー!! マーサを連れて行ってくれる!?」

 ムフムフって何かしら?

 アリディアは侍女頭のサリーを呼んだ。

 アリディアはこの小説を見た後、ジュリアス王子とルーカス(本物)を間近で見て、どうしたら良いんだろうか。

 彼等との接し方が分からく……ならないかもしれない。確かに、むしろムフムフするかもしれない。

 そう思う様になった自身に、深い深い溜め息を吐くのであった。




「小説を置いて行ったわ」

 侍女頭サリーに引き摺られて行ったマーサは、先程の新刊を床に落として行ってしまった。

 あれば気になるのが、人の性。

 アリディアは思わず手に取っていた。




 【金獅子王子と黒薔薇の騎士】




 何度見てもタイムリーな題名タイトルだ。






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