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ほんの三か月前の話。
「まだ、幼いあの方が成長されるまでの数年だけでいいのだ。帝になってくれないか」
「嫌です!」
智子は父の懇願に即断で答えた。
「頼む」
「絶対に嫌!」
「お前しかいないのだ」
「兄様がいるでしょう」
「あいつは駄目だ」
「何故」
「それは・・・」
口ごもる父に智子は鋭く眼光を向けた。
「じゃあ、私がいいましょうか」
「・・・・・・」
「言いなりになる。飾りの人形が欲しいんでしょう」
「・・・それは」
父は智子から目を逸らした。
「私は帝になることで、幸せになるとは思えません」
「・・・すまん。頼む」
「・・・まだ言うの」
「お願いする」
「お父様・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
永遠とも思える長い沈黙が続いた。
やがて、口を開いたのは智子だった。
「もう、勝手に・・・勝手にしてください」
「すまぬ・・・感謝する」
智子の両瞼から大粒の涙が溢れだした。
逆らえぬ、抗えぬ運命。
智子は父桜町の名を受け継いだ。
これにて、女帝後桜町照帝が即位したのであった。
ヒトからカミへ、少女は変わった。
幼き皇子が成長するまでの、繋ぎのかりそめの照帝。
しかも、女帝の誕生は、このクニではもう何百年も出ていない。