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「で」
「此度の降嫁の件、無かったことに出来ませんでしょうか」
「それはならぬ」
「何故」
「我が悲願は公武合体にある」
「公武合体?」
「将軍家と照帝家が一つになること、これにより日の本が一つとなる」
桜は甚だ、そうする事で日本が一つになるのか疑問だった。
「果たして一つにまとまりますか」
「まとまる・・・と信じておる」
家高を譲らない。
「もし断れば」
「即座に朝廷を潰す」
「退きませんか」
「左様であるな」
「では、どうあっても朕の願い聞けぬと」
「・・・であるな」
「止む無しっ」
桜は再び、小太刀の切っ先を将軍に向ける。
「なにを」
「あなたを殺し、朕も死ぬ。そしてもう、この話は終わりましょう」
鬼気迫る表情で、家高に近づく。
「待て、待て」
「いえ、もう待てません」
桜は小太刀の柄を両手で握りしめ、頭上に振り上げた。
「ま、待て。分かった。分かった」
「それでは如何に!」
「この件、なかった事にする」
「真に!」
「予は将軍、二言はない」
「・・・この桜、しかと聞きましたよ」
桜は小太刀を持つ手を緩める。
途端に緊張がほどけ、ふらふらとその場にへたり込んだ。
家高は苦笑いを浮かべる。
しかし、悔しさを滲ませながら、
「いつか必ず公武合体はなすべき時が来る」
家高は言った。
「しかし、今はまだその時ではありません」
桜は返した。
「はっ、ははは、さすがは生神様じゃ、天下の将軍を前にして言いおる」
「真に・・・」
照帝の降嫁は、照帝と将軍の直談判で決着をみた。
帝家の存続が果たされたのである。
桜は無事に紫辰殿へと帰って来た。
これからまた照帝の日々がはじまる。
桜はその後も照帝の役割を全うする。
そして在位9年で後桃園帝に譲位する。
しかし、その後桃園帝が早くに崩御し、幼くして光格帝が即位すると、桜は上帝として幼い照帝を助けた。
桜はのち、人々から国母として長く称えられたのであった。
これはここではないクニのお話。
今から数百年前、遠い昔のお話でした。
おしまい
読んでいただきありがとうございました。
この拙作は、過去作で途中で何度もやめようかと、挫けそうになりながらも書いた作品です。
思い出深いですね。