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しかし、事はそう旨くはいかない。
江渡城に朝廷決断の知らせが届く。
「殿、朝廷から知らせがまいりました」
老中松平輝孝は、恭しくそれを告げる。
「してなんと」
将軍家高は、薄い目をさらに細めて答えを促す。
「否」
輝孝はきっぱり言った。
「あの年増め!」
家高は怒りを露わにした。
年増とは24歳の照帝桜のことをいう。
「どうしてくれようか」
「上様!どうかお怒りをお鎮めください」
「しかし・・・このままでは!」
「公武合体はこの国を一つにする無二の方策であります」
「うむ」
「今一度・・・今一度、降嫁を促しましょう」
「まだやるのか」
「無論です」
「それでも応じぬ時は」
「帝を廃します」
「ふむ。帝を廃すれば、将軍家もより安泰盤石となるやもしれん」
「御意」
「良し、よきにはからえ」
家高の細い瞳が妖しく光った。
「歴代将軍が冒せなんだ・・・聖域。ふふ、神と呼ばれる人の肌、是非とも我が物にしたい」




