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ここは日本ではありません。
それでいて、もしかしたら日本かもしれないクニなのです。
そんなクニのお話。
今から百数十年前のおとぎ話でございます。
瞼を閉じていても、瞼裏に光を感じ、ほのかに温かく眩しく感じる。
ゆっくりと瞳を開ければ、春風の中、桜吹雪が舞っている。
(私は春が・・・とりわけ桜の咲くこの時期が好きだ。
それは私の名前がそうである事もあるし、生まれる前からも好きだったのかもしれない。
あるいはそう決められていたかもしれない。
そんな禅問答をしたところで、結局答えは出ず、諦めてうやむやとなってしまうのだ)
ふいに、物思いに耽るのを害される。
「陛下!」
侍従の橘野である。
「どうしました」
とりあえず彼女は泰然自若、平然と答えてみる。
「どうしたもこうしたもありませんよ!宮中行事の真っ最中でしょう。途中で抜け出す帝なんて聞いたことありませんよ」
「だって・・・」
「だってじゃありません!」
橘野はきつく言い放つ。
幼き頃から帝を見てきた彼女は容赦がない。
「だって・・・」
「だって・・・なんですか」
橘野は口をもごもごさせて言い渋る帝に対し、さらにすごんだ。
「なりたくてなった訳じゃないんだもん」
思わず言ってしまった。
「なんと!」
「お父さんが勝手に・・・」
「よいですか、姫・・・いえ、陛下。帝は誰が決めたではありません。天が決めた唯一無二の存在なのです」
「・・・分かっている」
橘野は肩をすぼめ、
「でしたら」
「分かっていても・・・納得できないのよ!」
彼女の悲痛な叫びに、煽られたかのように、春風が急に激しさを増し、無数の桜の花びらを舞い散らせた。
「・・・姫様」
思わず、橘野は彼女への親しみのある敬称で呟いてしまう。
ここは日本ではありません。
それでいて、もしかしたら日本かもしれないクニなのです。
そんなクニのお話。
今から百数十年前のおとぎ話でございます。
瞼を閉じていても、瞼裏に光を感じ、ほのかに温かく眩しく感じる。
ゆっくりと瞳を開ければ、春風の中、桜吹雪が舞っている。
(私は春が・・・とりわけ桜の咲くこの時期が好きだ。
それは私の名前がそうである事もあるし、生まれる前からも好きだったのかもしれない。
あるいはそう決められていたかもしれない。
そんな禅問答をしたところで、結局答えは出ず、諦めてうやむやとなってしまうのだ)
ふいに、物思いに耽るのを害される。
「陛下!」
侍従の橘野である。
「どうしました」
とりあえず彼女は泰然自若、平然と答えてみる。
「どうしたもこうしたもありませんよ!宮中行事の真っ最中でしょう。途中で抜け出す帝なんて聞いたことありませんよ」
「だって・・・」
「だってじゃありません!」
橘野はきつく言い放つ。
幼き頃から帝を見てきた彼女は容赦がない。
「だって・・・」
「だって・・・なんですか」
橘野は口をもごもごさせて言い渋る帝に対し、さらにすごんだ。
「なりたくてなった訳じゃないんだもん」
思わず言ってしまった。
「なんと!」
「お父さんが勝手に・・・」
「よいですか、姫・・・いえ、陛下。帝は誰が決めたではありません。天が決めた唯一無二の存在なのです」
「・・・分かっている」
橘野は肩をすぼめ、
「でしたら」
「分かっていても・・・納得できないのよ!」
彼女の悲痛な叫びに、煽られたかのように、春風が急に激しさを増し、無数の桜の花びらを舞い散らせた。
「・・・姫様」
思わず、橘野は彼女への親しみのある敬称で呟いてしまう。