番外.ある愚かな男の末路⑪
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「くそっ!」
苛立ちのまま、壁を蹴る。
当主の地位を奪われ、身1つで屋敷を追い出された後、この小屋に連れてこられた。
別荘と言っていたが、実際は平民が住むような小屋に、最低限の家具が置かれているだけだった。
管理人だという年老いた夫婦が同じ敷地に住んでおり、毎日通いで世話をしてくれるが、こちらを敬う気は全くなく平気で言いたい事を言い、時には悪態もついてくる。
食事もパンとスープのみで、文句を言えば「だったら食べるな」と取り上げられ、謝罪して撤回するまで丸1日空腹を抱える羽目になった。
小屋の周囲は高い塀で囲まれていて、入り口は兵がずっと番をしている。
庭の散歩くらいは許されるが、外出しようとすると止められる。
一度強行突破しようとしたら、腹を殴られて無理矢理戻された。
事実上の軟禁だった。
当初は分からなかったが、ある程度経った今ではヘンリー王子の暴力の際に、エリザベスを助けなかった報復だと分かってる。
一度管理人の妻の方に現在の扱われ方に不満を言った時、「『死ななければ良い』んだろう?自分で言った事なんだから、自分がそうされたって文句はないだろう」と返された。
(エリザベスめ、何て大人げないんだ!育ててやった恩も忘れて!)
数年前の話だろう、しかもエリザベスの許しも得たのに。
憤りをそのまま抗議文として王城に送ったら、返事が来ないまま数日後に「どうせロクな事書かないから」と、管理人夫婦に筆記用具一式を取り上げられた。
食事と身支度を整えれば、もう後はやることが無い。暇をつぶせるようなものはなく、せいぜいが寝るか、庭を散歩するくらいだ。
やることも怒りのやり場もなく、ただ毎日イライラ過ごすだけだ。
しかしその日は違った。
「兄さん久しぶり」
しばらくぶりに代理当主となった弟が訪ねて来た。
「何をしに来た」
代理を引き受けた以上、弟もエリザベスの側なのだろう。
睨みつけると、弟はため息をついた。
「その様子だと、何で自分がこんな目に遭ってるか、まだ分かってないみたいだね」
「充分わかってるさ。エリザベスが恩知らずで狭量で、冷酷な人間だという事だ!」
吐き捨てるように言うと、弟が睨みつけて来た。
「よく言えたものだね。本当に恩知らずで冷酷なのは、兄さんの方だろう」
「何だと!」
殴りかかろうとしたが、あっさり腕を掴まれて、突き飛ばされた。
尻もちをついた私を弟が見下ろす。
「エリザベスがヘンリーの屑野郎に火傷を負わされた時、アンタは何をした」
「それは…」
何もしなかった。
医者を呼んだのは妻や使用人達だし、看病したのも彼女達だ。
答えられず俯く私に、さらに弟が追い打ちをかける。
「そもそも兄さんは、一度でもエリザベスに謝った事があるのか?」
その言葉にハッと顔を上げると、冷たい目で見下ろす弟と目が合った。
「言葉で言った事はないが…いつも謝罪の品を送っているし、エリザベスも黙って受け取って何も言わないんだ。許したという事だろう…」
自分でそう言いながらも自信がなく、再び俯きながら言う。
小声だったが、弟には聞こえたようで反論してくる。
「兄さんは子供の頃よく『悪いことをしたら、相手が誰だろうと謝れ』と言っていたね。人にはそう言っておいて、自分はいつも物を送って誤魔化していたね。相手が拒否すると逆に怒って、権力使って相手を締め上げて、ムリヤリ受け入れさせる…それで本当に自分は悪くなくて、エリザベスが悪いと思うの?」
「だ、だが火傷を負わせたのはヘンリーで、私では…」
「そう、兄さんはただ怪我をしたエリザベスを放置しただけ。王家から金を貰って丸めこまれて、婚約破棄も許さずエリザベスに泣き寝入りを強要しただけ、だよね」
「………」
もはや弁解すらできなかった。
「ホント兄さんって父さんそっくりだね。自分勝手で家族をペットか道具としか思ってない!」
「そんなことは…」
無いと否定したかったが、睨みつける弟に言い返せなかった。
「兄さんが、父さんみたいにならなければ良いと祈ってたけど…とんだ無駄だったみたいだね。いい機会だから、自分の行いを振り返ってみたら?時間はたっぷりあるんだし」
それだけ言って弟は、振り返ることなく帰っていった。
弟が出て行ってから、ノロノロと立ち上がりベッドに腰掛ける。
「私は何も悪くない、はずだ…」
狭い部屋の中で呟くが、肯定してくれる者は誰もいなかった…私自身も含めて。
心の中がモヤモヤした気分でいっぱいで、弟の言葉が頭から離れなかった。
そのせいかその日、夢を見た。
次でラストです。




