番外.ある愚かな男の末路⑧
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「何で私が、子爵家なんかに嫁がなきゃいけないのよ!」
部屋中に、アイビーの怒声が響き渡る。
何とか考えた末、唯一思いついたのが、更に格下の家に嫁がせる事だった。
そこで伯爵以下の家に声をかけてみた。
幸いなことに下級貴族はあまり社交に出ず、アイビーの本性も詳しくは知らなかったようで、多額の持参金や後ろ盾を約束すると「ちょっと我儘なくらい、愛嬌だ」と言って喜んで受けてくれた。
恐らく結婚すれば思いっきり後悔することになるだろうが、こちらも後が無い。罪悪感を感じるが、無視した。
これで何とかなると安堵した。
しかしそこで、アイビーが嫌がった。
執務室に呼んで話を伝えた途端、怒りだした。
「何で公爵令嬢の私が、子爵家なんかに嫁がなきゃいけないのよ!最低でも侯爵以上でなくちゃ!」
「……」
「あとお金持ちで、容姿も私に釣り合って、私の言う事何でも聞いてくれる優しい人でなくちゃ、絶対嫌!」
あまりの我儘っぷりに、堪忍袋の緒が切れる。
「いい加減にしろ!そんなにできた相手が、お前のような難あり令嬢を貰ってくれるわけないだろう!少しは自分の行いを振り返って反省して、分不相応な相手にしておけ、修道院に行きたくなかったらな!」
(死にたくなかったらな!)
心の中で付け加える…とても口に出して言えない。
怒り心頭で怒鳴るが、アイビーも負けじと怒鳴り返してきた。
「難あり令嬢って何よ、私は完璧よ!公爵令嬢で、容姿もお母様に似て美人じゃない!」
確かにアイビーは妻と同じ金髪で、顔も整っている。本性を知らない相手なら、誰もが声をかけるだろう…そう、知らなければだ。
「中身に問題があるんだ!誰が手癖の悪い我儘娘を、欲しがるというんだ!」
「手癖が悪いって何よ!盗みなんかしてないわよ、人を犯罪者みたいに言わないでよ!」
「ゆすりたかりの常習犯だろうが!みたいじゃなく、まるっきり犯罪者だ!」
相手が家族だろうが、妻やエリザベスが頭下げて内々の示談で済ませようが、前科がつかないだけで立派な犯罪者だ。
「人聞きの悪い事言わないでよ!ちょっとおねだりして、貰っただけよ。家族間であげたり貰ったりなんて、ただの交流じゃない!他の人もちゃんと話した上で貰ったのよ。納得済みで訴えられたわけじゃないわ!」
「脅して納得させたんだろう!クレアやエリザベスが頭下げて交渉して、示談で済ませてくれたんだ!少しは母親や姉に、申し訳ないと思って反省したらどうなんだ!」
そう言うとアイビーが、目を吊り上げて癇癪を起こした。
「何よ、いつもいつもお姉様ばかりひいきして!私だってお父様の娘なのに、いつもいつもお姉様ばかり可愛がって!」
あまりの言い分に、開いた口がふさがらなかった。
(誰がいつエリザベスばかり、えこひいきしたというんだ)
どちらの娘も、平等に可愛がってきたというのに。
明らかなでっちあげで悲劇のヒロインぶるアイビーに、ため息しか出なかった…。
「あぁ、どうすればいいんだ…」
机の上で頭を抱える。
結局アイビーとは言いあうだけで話がまとまらず、部屋から追い出した。
親の心子知らずとは、よく言ったものだ。
このままではセオドアの言う通り、アイビーを処分せざるを得なくなる。
セオドアが「そろそろ決心がつきましたか」と切り出すたびに、のらりくらりと躱して時間稼ぎをしているが、それも限度がある。
長引けばセオドアが独断で、実行しかねない。最近では追及が厳しくなってきている…逆切れして主人命令で黙らせてるが、その度に苛立った視線を向けてくる。
(いっそセオドアの言う通りにした方がいいのかも…)
思いあまって、そんな考えまで浮かんでくる。
アイビーが疫病神なのは事実だし、知らぬとはいえ、自分で唯一助かる方法を切り捨てているのだ…完全に自業自得だろう。
(私は出来る限りをやったし、当主としてこの家を守る責任もある…)
そう心が傾きかけた時、思いがけない朗報がやって来た。
第一王子ヘンリーとエリザベスの婚約が決まり、その数日後にロージア辺境伯家とアイビーの婚約が決まった。




