4.思い通りの人生
妹視点です(しばらく続きます)
5歳の誕生日に姉が両親からオルゴールを贈られた
普段使うような公爵令嬢にふさわしい豪華な物でなく素焼きに可愛らしい絵が描かれた素朴な物だった
正直言って何が良いのかわからない
それでも嬉しそうな姉の顔を見てそれが欲しいと思った
ガシャーン!
豪華な部屋の一室に投げつけた花瓶が割れる音が響き渡る
大きな音がしたのに誰も来ない
「何なのよあの女!」
物に当たってもまだいら立ちが収まらない。
イライラしながら乱暴にソファに腰掛ける。
親指の爪を齧りながらこれまでの事を思い出す。
幼い頃から私は人の物が欲しかった
最初は姉のオルゴールだった。
以前から「可愛らしいオルゴールが欲しい」とねだっていた姉に両親が誕生日プレゼントに贈ったものだった
「それが欲しい」と言ったら姉に拒否された。
頭にきて無理やり奪おうとすると姉も奪われまいとする
結果贈られたばかりのオルゴールは壊れて姉は悲しみ私は父に怒られた。
(お姉様が抵抗するから悪いのに)
理不尽な仕打ちに腹立たしかったのを覚えてる
父が直してもらおうとしたが製作者が見つからない上、特別な作りで他に直せる職人もおらず結局直らなかった
それからも私は姉の物を欲しがった。
可愛らしいぬいぐるみ、綺麗なアクセサリーや小物入れ、おしゃれなリボンやドレス、時には街で買ったお菓子や姉のお小遣いすらも欲しがった
私が一言「欲しい」と言って粘ったり癇癪を起こせば私に甘い父は「姉なのだから譲ってやりなさい」と言い、日和見主義の母も「貴方が折れてちょうだい」と姉に言った。
最初は姉も嫌がったがそのたびに父に殴られるようになってからは諦めたのか大人しく渡すようになった。
それ以外にも家庭教師に出された課題や面倒事を押しつけることもあった。
そのうち姉は私を避けるようになり大事な物も隠したり私の前では身に着けないようにした。
(姉のくせに私に寄越さない気ね、そうはさせるものですか!)
私は姉が開いたお茶会や招待されたパーティに乱入しては姉のものをねだった。さすがに人前で拒否して私に癇癪を起こさせる訳には行かず姉は何でも私に寄越した。ついでに他の客人からもねだった。さすがに公爵令嬢と交流があるだけあって身分も高く良い品を身に着けていた。
そのたびに姉が相手に頭を下げることになったけどそんなの知ったことじゃない。私は年下で妹なのだから姉が私に貢いだり私のフォローをするのは当然の事だ。
それ以外にも姉の留守中に部屋に入って抜き打ちチェックをしては姉が隠してた物を持って行った。人に隠し事なんかするから悪いのだ、慰謝料をもらうのは当然の権利だ。
当初姉は気づくたびに「物がなくなった」と言い私を疑ったが、私が父に泣きついて「証拠もなしに妹を疑うな」と父に殴られてからは何も言わなくなった。
(証拠もなしに人を疑うから天罰が下ったのよ、いい気味!)
まぁ実際私が犯人なんだけどバカなお姉様には何もできやしない。
気分は最高だった。
姉や他の人の物を身に着けて行事に参加すると皆が私に注目する。
皆私を見ては何か囁きあっている。
(似合いすぎて注目の的になってるのね、まぁ当然だけど)
そして姉はいつも私と比較されて憐みの視線を向けられる、そうねお姉様はお父様似で地味だものね。
容姿も中身も私に劣ってて引き立て役と雑用しか能のない可哀想な人。
比べて私は美人で優秀で両親からも周りからも姉以上に愛されている。
可哀想だから次期公爵の座はお姉様に譲ってあげるわ。本来なら優秀で愛されてる私がなるべきだけど一応身内だし政務とか社交とか面倒だしね。これでお姉様でも1つくらいは取柄ができたでしょう?その代わり一生私に感謝して尽くしてね。何と言っても年下で実の妹なんだから。
しばらくそんな事を続けてたら姉の物でめぼしいものが無くなってしまった。
家に人を招くのもやめたので姉が招待されたお茶会やパーティに無理やりついて行こうとしたが、そのたびに姉が「体調が悪い」と欠席するようになった。無理やり行かせようとすると「体調の悪い姉に無理をさせるな」と父に叱られた。どうせ仮病なのに不条理だわそれもこれも意地悪なお姉様のせいよ
お姉様の部屋に押しかけて「お姉様の仮病のせいでお父様に叱られた、慰謝料払え」と言ったら「『証拠もなしに人を疑うのは悪い事』なんでしょう?払えというなら『証拠もなしに人を仮病だと言いがかりをつけた慰謝料を払いなさい」と抜き打ちチェックの皮肉も篭めて返された。
おまけに「お父様に言いつけたかったら言ってもいいのよ?何故私がそうまでして貴方を同行させまいとしてるのかお父様に理由を聞かれても良いのなら」と言われて諦めざるを得なかった
父にバレたら家を追い出されかねない…悔しいけど仕方ない。
そこで次は母のものに目をつけた。
さすがに公爵夫人だけあって姉以上にアクセサリーを持っていた。
しかも母は姉以上に簡単だった。
日和見な母は「欲しい」と言って粘ればすぐに根負けして譲ってくれた。しかも物だけでなくこちらの要求まで何でも聞いてくれた。
だがある日母が私に苦言を呈してきた。
「いい加減にしてちょうだい、私にも付き合いがあるしある程度装飾品を持っていないと恥ずかしいのよ。私もエリザベスもお前にあげる為に物を持っているわけじゃないのよ?」
あろうことかそんなことを言ってきたのだ!この私に!!
(母親なら娘に物をあげて当然じゃない!)
頭に血が上った私は母が泣き叫んで動けなくなるまで殴り続けた。姉や使用人が駆け付けなければ母に謝罪させて二度としないよう躾けられたのに!
この一件で母は私を避けて部屋に閉じこもってしまい今まで母が隠してきた私の所業が父にばれてしまった。
父は酷く怒ったものの「二度とやるな」と言うだけで特に罰は与えず、追い出されるかと心配してたが取り越し苦労で済んでホッとした。
父の許しを得られたので母と姉を躾け直そうとしたら使用人が告げ口したらしく、父に「自分のいないところで母と姉に会うな口を利くな、破れば追い出す」と宣告されてしまった。
それからはつまらない日々を送った。
公爵令嬢としてお茶会を開いても参加者は集まらず来ても子爵家や男爵家の子だけ。
私宛に招待状が届くこともなかった。
結局友人になれたのは同い年の男爵姉妹だけだ。
あれ以来母は私を避け続け姉に至っては父の許可を得て自室に鍵をつけた。
まるで家の中に泥棒がいるみたいでちょっと不愉快だった。
そんなある日姉と第一王子の婚約が決まり姉が「家族に紹介したい」と第一王子を家に招いた。
初めて見る王子に私は一目で好きになった
(何て素敵な王子様!お姉さまなんかにはもったいない)
私は久しぶりに取り甲斐のあるものを見つけた。
それからはもう夢中だった。
毎日城に通い詰めてはヘンリー様と話をした。
聞けばヘンリー様に一目惚れした姉がしつこく通って側妃様に押し通したそうだ。
何てお気の毒なヘンリー様あんな姉に縛られて!
私は姉のした事を一生懸命謝ってヘンリー様をお慰めしたわ。
そしてヘンリー様も私を慰めてくれた。
私が幼い頃から姉や母に疎まれ避けられている事を言うと気の毒がってくれた。
やがてヘンリー様も「地味で意地の悪い姉より私の方がいい」と言って愛を囁くようになってくれた。
やがて私達の仲は周囲の噂になっていったが相手は王子様なのだ、ただのやっかみだと受け流してた
父も「将来の義妹として交流を深めてるだけだ」といえば「そうか」と言うだけだった。
姉も城に通いつめてはいたが王子妃教育で手いっぱいだったのか気づかないようで「仲がいいのね、とってもお似合いだわ」と言い私は勝てると確信した
予想通りあっさりと姉との婚約は破棄され代わりに私が婚約者になった。
私は有頂天になった。
これからは公爵令嬢じゃない王太子妃だ、もう父も姉も誰も私に指図できない何でも私の思い通りに出来るのだと思った。
私の未来はバラ色に広がっているのだと信じて疑わなかった。
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