番外.ある愚かな男の末路⑤
今年最後の更新です。長めです。
評価、ブックマークありがとうございます。
「きゃあああああああ!お嬢様!!」
「エリザベス!しっかりして!」
翌朝妻とメイドの悲鳴で、目を覚ました。
(何だ朝早く…まだこんな時間じゃないか、昨夜は遅かったというのに…躾のなってないメイドだ、クビにしようか)
寝起きの頭でそんな事を考えながら、悲鳴の聞こえた方へ向かう…どうやら階下のようだ。
「お父様おはよう。何かしら今の悲鳴…朝っぱらから迷惑ねぇ~」
アイビーも気づいたらしく、あくびをしながら部屋から出てくる。そのまま2人で階下に向かう。
「全くだ、朝っぱらから何があったというんだ」
「お母様がお姉様の名前を呼んでたわ」
「またエリザベスが何かやったのか!一晩経ってもまるで反省してないようだな!」
「そうね、今度は罰としてお姉様の物を没収するとかいいかも」
「そうだな、とりあえず何をやったか話を聞かねば」
「そうね」
歩いてる内に、騒ぎの現場にたどり着いた。
どうやら玄関ホールで騒いでるようだ。
妻や使用人達が、何かを取り囲んでいる…恐らくエリザベスだろう。
私が来ても誰も見向きもしない…その事にムッとする。
(この家の主は私なのに、来ても気づきもしないとは!)
私は当主としての威厳を込めて言った。
「エリザベス!お前また何かやらかしたのだな、朝っぱらからいい加減にしろ!」
「そうよそうよ!どうせわがまま言って皆を引き留めてるんでしょう!?皆の迷惑を考えなさいよ!」
私に続いて、アイビーも責め立てる。
その言葉に皆が一斉にこちらを向く。
その視線に私とアイビーはたじろいだ。
「な、何だその目は…」
「な、何よ…」
全員が犯罪者でも見るような、怒りの篭もった眼で睨んできた。
妻に至っては、憎悪すら感じた。
妻が無言で立ち上がり、こちらに向かってくる。
やがて私の前で止まると、大きく振りかぶった。
「この人でなし!悪魔!娘を殺しかけといて、よくもそんな事が言えるわね!!」
私は床に倒れながら、呆然と妻を見た。
色々と予想外過ぎて、頭が回らなかった。
(普段大人しい妻が私を殴った?しかも拳で?)
(娘を殺しかけた?何の事だ?)
妻は冷え切った眼で私を見下ろすと、次はアイビーに矛先を変えた。
「アイビー、貴方の嘘のせいで、エリザベスが死にかけているわよ…姉を殺す気分はどう?楽しい?満足?」
「な、何の事よ…」
アイビーが目をそらしながら、一歩下がる。
「エリザベスが死んだら許さない…ここにいる全員でアンタ達の所業を公表して、牢屋送りにしてやる」
妻はそれだけ言うと、エリザベスの元に戻った。
その後は誰も私達に見向きもせず、必死でエリザベスに呼びかけたり、お湯や毛布でエリザベスを温めようとしていた。
その頃になってようやく私は、昨晩エリザベスにした事を思い出したが、もう遅い。
私とアイビーは声をかけることも出来ず、近づこうとしても気づいた使用人に睨まれ、なすすべもないまま離れた場所で、見守るだけだった。
「奥様!医者が参りました!」
セオドアが、息を切らせて飛びこんでくる、どうやら医者を呼びに行ってたようだ。
「あぁお医者様、よく来てくださいました!頭を打ってるかもしれないので、動かすことも出来なくて…」
「これは酷い…」
医者がエリザベスの様子を一目見て、顔を顰める。
「それではこちらの担架に、お嬢様をそっと乗せて下さい。後はなるべく振動を与えないように、部屋に…」
周囲がエリザベスを囲みながら、慎重に運んでいく。
その様子をなすすべもないまま見守りながら、使用人たちの跡をついて行った…。
「何やってるんだ!アンタはそれでも人の親か!」
治療を終えた医師から虐待を疑われ、仕方なく昨晩の事を話した。
エリザベスには現在妻が付き添っている。私とアイビーを含めた他の全員は、エリザベスをゆっくり休ませる為、別室に移動した。
「いやしかし、この子は妹を泥棒呼ばわりしたのだ。行き過ぎたのは認めるが、元々はこの子が悪くて、私は躾として…」
焦りながらも弁解するが、医師には通じなかった。
「躾なら何をしてもいいのか?だから娘を殺しかけても許されるというのか?」
医師が睨みつけてくる。反論できなかった。
エリザベスが私の仕打ちで死にかけたのは事実だ…これで躾だからと言えば医者の言う通り、躾だから娘を殺してもいいと言っている事になる。
「わ、我が家の事だ。アンタに口出す権利は…」
「人の家庭に口を出す権利はないが、医者として患者の安全を守る権利はある!怪我の原因だというなら、なおさらだ!」
「くっ…」
何とかうやむやにしようとしたが、あっさりと一蹴された。
そのまま厳しく追及される。
「そもそも言いがかりだというが、疑わしいんだろう?やった証拠はないと言うが、やってない証拠はあるのか!?」
その言葉にハッとする。
(そうだ、確かにやってない証拠もない…)
そう考えると、急にアイビーが疑わしく思えてきた。
アイビーを見ると、アイビーは真っ青になって震えていた。
「アイビー…正直に言いなさい。エリザベスの部屋から物を盗ったのか?」
「わ、私は…」
「もしそうなら大変な事だ。お前は姉を殺しかけたことになるのだぞ?正直に…」
「わ、私じゃないわ!殺しかけたのはお父様じゃない!人のせいにしないでよ!?」
「な!」
驚く私に構わず、アイビーは堰を切ったように喋りまくる。
「そもそも殴れだなんて言ってない!ちょっと物を貰っただけなのに大騒ぎするお姉様と、殴ったお父様が悪いのよ、私は悪くない!」
責任転嫁するアイビーに、頭に血が上った。
「ふざけるな!お前が盗むから悪いんだろうが」
「きゃあっ」
アイビーのせいでエリザベスが死にかけて、私の体面が傷つけられたのだと思うと腹が立った。
更に殴ろうとしたら、医者に止められた。曰く「医者として人を傷つける事は許さない」と。
そう言われてはこれ以上叱る訳にも行かず「エリザベスが全快するまで、部屋から出てくるな!」と言い渡して部屋に戻った。
部屋にいる全員が咎める視線を送ってきた。
居心地の悪さを感じながらも、気づかぬふりをした。
今年もお世話になりました。良いお年を。




