番外.ある愚かな男の末路③
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「あ、お姉様のチキンの方が大きい!交換して!」
(またか)
晩餐の最中、いきなり上げられた声にウンザリする。
どこでどう間違ったのか、アイビーは手当たり次第に姉の物を欲しがった。
拒んだり叱りつけると、大声で泣きわめいて暴れる。最初にそれで根負けして、エリザベスに譲らせた事で味を占めたようで、今では譲らない限り何時間でも暴れる。それでも無視し続けると、根に持って留守中に人の部屋を荒らしたり、すれ違いざまに人を蹴ったりひじ打ちしたり、わざと人の物を壊したりした挙句、根負けして譲ると「これだけ長時間人に迷惑かけといて、それだけで済ませる気!?」と言って、何十回も人を土下座させたり、慰謝料と称してかなりの金を要求する。それだけしてもその後もネチネチと数日にわたって嫌味を言ったり、「慰謝料は当然の権利。本当に反省してるなら、私が欲しがったら慰謝料でなくても寄越すべきだ」と金や物を要求したりするのだ…最近ではもうみんな諦めて、言い出したらすぐ物を渡すようにしている。
給仕が無言でエリザベスとアイビーの皿を交換する。
ため息をつきたいが、ついたらまたそれをネタにアイビーが物を要求してくる…憂鬱な気持ちで晩餐を終えた。
「全くアイビーにも困ったものだ…クレアが甘やかすからだな」
「……」
自室に戻ると、いつものようにセオドア相手に愚痴をこぼす。
セオドアはいつも黙って聞いてくれる…よくできた乳兄弟をもって、幸運だと思う。
「まぁアイビーの我儘は家族への甘え故と思えば許容できるし、娘に甘えられるのも悪くない」
アイビーの我儘は他では発揮されない、つまりは愛情表現の一種なのだ。
そう思うと相好が崩れる。
そんな私をセオドアが、冷ややかな目で見ると口を開いた。
「…エリザベス様も貴方の娘ですが?」
「エリザベス?」
私は驚いた。
エリザベスも娘だと思ってはいるが、私に甘えてこない。最低限の会話と接触だけだ。
そんなエリザベスと、甘えるという行動が結びつかなかった。
「確かにエリザベスも娘だが…ほとんど甘えてこないだろう。しっかりした娘だし、自分から甘えてこないのだから、甘やかす必要もないだろう」
「……」
無言のセオドアに構わず、そのまま続ける。
「そもそもあの子は次期当主なのだから、アイビーのように甘えられては困る。エリザベスはこのままでいいんだ」
言いたい事を言いきると、セオドアが口を開いた。
「…本当にそれでいいと思っているんですか?エリザベス様には愛情を一切与えず、アイビー様だけ可愛がればいいと」
「失礼な事を言うな、私はちゃんとエリザベスを愛している。だからこそ、娘として育ててやっているんだろう。エリザベスは当主としてずっとこの家に留まるが、アイビーはいずれ嫁ぐ身だ。他家に行ったら側にいる事も、守る事も出来ない。今のうちにいっぱい、自由にさせてやりたいじゃないか」
「……」
「確かにエリザベスよりアイビーを優先させることが多いが、アイビーはあの通りの性格だし、エリザベスが譲らないと大騒ぎになって、我が家に瑕がつく。姉として次期当主として家と妹を守る為、耐えるのは当然だ。エリザベスだって、それぐらい心得ている」
「でもエリザベス様には、何も言ってませんよね」
「言わなくても分かってるだろう。育ててやってるのだから、恩を返すのは当然だ。何より私とエリザベスは実の親子なんだから!」
私が言い切ると、セオドアは深くため息をついた。
「分かりました、もう何も言いません。好きになさって下さい」
「もちろんだ」
私は自信満々に、胸を張って言った。
自分の言動が正しいと、セオドアを言い負かせたと信じていた。
実際は最低の父親だと見限られただなんて、思いもしなかった。
その後も私は変わらず、むしろセオドアに正しさを認めさせた事でますます自信を持ち、2人の娘への扱いをエスカレートさせていった。
エリザベスもクレアもセオドアも何も言わず、日々は順調に過ぎて行った。
強いてあげれば2人の…特にアイビーの縁談が、中々決まらない事だろうか。
そして私のアイビーへの信頼を損なわせ、私とエリザベスとの仲に亀裂の入るあの事件が起きた。




